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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第1章 新たな始まり

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15.ダンジョンコア

「……隠し扉? そんなの聞いたことがない……」


 ぽっかりと空いた穴を眺めながら、ブラントが呆然と呟く。

 レジーナとホイルも同じように、唖然とした様子で穴を見ていたが、アナスタシアは前回の人生での出来事を思い出し、身構える。

 ダンジョンの心臓部である、ダンジョンコアの部屋への通路だと直感したのだ。

 勇者シンは『ボス部屋』と呼んでいた。ダンジョンコアを守る魔族がいたからだろう。

 魔族は魔物とは違い、魔石を持たない。黒い翼を持つ以外は人間と変わらない外見をしていて、人間と似た異なる種族だ。だが、魔力の高さと戦闘力は人間の比ではなかった。


「……もしかしたら、この先に強い敵がいるかもしれません」


 アナスタシアは気を引き締めながら、注意を促す。

 ダンジョンコアを守る魔族の強さは、ダンジョンの難易度と比例する。このダンジョンならば、おそらくさほど強くはないだろうが、それでもここに来るまでに出てきた魔物とは比べものにならないはずだ。

 通路に向かって【索敵】と【罠感知】の魔術を使っても特に反応はなかったが、油断は禁物だ。


「そうだね。通路からは何も感じられないけれど、先には何があるかわからない。気をつけて進もう」


 ブラントもアナスタシアと同じ魔術を使って調べたようだ。

 二人は頷き合い、穴の中に入る。


「わ……わかった……」


「そうですわね……せめて、自分の身くらいは自分で守れるようにしますわ……」


 ホイルとレジーナも緊張した面持ちで頷き、穴の中に入っていく。

 中の通路は、それまでのダンジョンの通路と似たような外観だった。

 一本道がただ続き、魔物もいない。無言のまま四人は進んで行くと、やがて広く開けた場所に出た。

 とうとうたどり着いたかと、アナスタシアはいつでも術式を展開できるように備える。


「……誰もいない?」


 だが、魔族どころか魔物の一匹も見当たらない。

 まだボス部屋ではなかったのかと、アナスタシアは周囲を見回す。


「ダンジョンコア……」


 しかし、奥には台座があり、そこの上にはぼんやりと黄色く光る球体が浮かんでいた。

 前回の人生で何度も見た、ダンジョンコアに間違いない。

 周囲に注意しながら近づいてみるが、ダンジョンコアの手前までたどり着いても、誰かが現れるような気配はなかった。


「ダンジョンコア? ダンジョンの源だという? 伝説で聞いたことがあるけれど、これがそうだと……?」


 ブラントも近づいてきて、驚嘆した様子で疑問を口にする。

 やや遅れてレジーナとホイルもやってきて、ダンジョンコアを見つめる。


「まさか……ハンターたちの間でも、ダンジョンコアなんておとぎ話の部類だったぞ……」


「……昔、勇者がダンジョンコアを破壊して魔物を封じ込める物語は聞いたことがありますけれど……これが、そのダンジョンコア……?」


 四人の視線を浴びながら、ダンジョンコアは変わらずその場にたたずんでいる。

 アナスタシアの前回の人生では、ダンジョンコアのある部屋には必ず魔族がいて、戦闘になっていた。そして魔族を倒し、ダンジョンコアを砕いて、蓄えられた知識を獲得していたのだ。

 だが、この部屋には誰もいない。

 初めてのことでアナスタシアは戸惑うが、勇者シンの『半分死んでいるダンジョン』という言葉を思い出す。

 それが、魔族がいないという状況に繋がっているのではないだろうか。


「でも、これがダンジョンコアだとして……どうすりゃいいんだ?」


 ホイルの疑問の声は、おそらく全員に共通の疑問だっただろう。

 アナスタシアも、前回の人生ではダンジョンコアを砕いて魔物の発生を食い止めていたが、今回は現在のところ、そういった状況ではない。

 だが、将来のことを考えると、今のうちにダンジョンコアを破壊しておいたほうがよいのだろうか。


「……ダンジョンコアを破壊すれば、魔物が発生しなくなります。ダンジョンもダンジョンとしての力を失い、徐々に崩れていくそうです」


「それはまずいんじゃねえの? ダンジョンがなくなったら、結構な問題になりそうだぞ」


「うん、ここは初心者向けのダンジョンとして活用されているからね。魔物がいなくなったら魔石も取れなくなってしまうし、初級ハンターや魔石を必要とする魔術師など、色々と影響が出てくるだろう」


 アナスタシアが説明すると、ホイルとブラントはそろって破壊に反対の意思を示す。

 魔物の大発生が起きていない状況で、ハンターとしては当然のことだろう。


「……もし、ダンジョンコアを破壊した場合、何か得られるものはありますの?」


 少々違った視点で、レジーナが切り出す。


「ダンジョンコアに蓄えられた知識を得ることができるというけれど……本当かどうかは……」


 少し曖昧に、アナスタシアは答える。

 それはごまかすためだったが、本当にそうなのかわからないのも事実だった。

 前回の人生での経験から、蓄えられた知識を得られるのは間違いなかったが、それは魔族のいるダンジョンでのことだ。ここのような『半分死んだダンジョン』でも当てはまるのかは、わからなかった。


「知識……でも、一度破壊したら当然、元には戻せませんわよね。やっぱり、そっとしておくのが無難なのかしら……」


 少々残念そうではあったが、レジーナも破壊しない方向に天秤が大きく傾いたようだ。

 アナスタシアも現在の状況では、積極的に破壊したい理由はない。

 全員で顔を見合わせて、そっとしておこうと頷き合う。


「……それにしても、詳しいな。魔術もわけのわからない凄いのを使うし……なんでそんなことを知ってるんだ?」


 ホイルが不思議そうに問いかけてくる。

 一瞬、アナスタシアは迷う。

 だが、前回の人生で経験したから知っていると正直に答えたところで、頭がおかしいと思われるだけだろう。


「実は……私はセレスティア聖王国のちょっと特殊な一族の出身で……」


 アナスタシアはそれらしい内容を、ぼかしながら答える。

 ダンジョンコアや魔術を知っている理由ではないが、この言葉自体は嘘ではない。


「ああ……勇者発祥の地だもんな。何か伝わっているのか」


「セレスティア聖王国の名前の由来ともなった、天人セレスティアは様々な魔術を扱っていたという伝説もありますものね。彼女は銀色の翼を持つ、天の使いだったそうですけれど……」


 ホイルとレジーナは納得したようだった。

 ほっとするアナスタシアだったが、今度は別の方向に好奇心を刺激してしまったらしい。二人は、もっと何か聞きたそうな様子を見せる。

 アナスタシアは戸惑う。出自について詳しく明かしてしまえば、せっかく仲良くなってきた友達に距離を置かれるのではないかという恐れがわきあがってくる。


「特殊な一族っていうことは、勇者とか天人と何か関係があるのか? もしかして……」


「そこまでにしておこう。あまり詰め寄られても、アナスタシアさんが困るよ。それよりも、ダンジョンコアをそっとしておくのなら、他に誰かが来る前に早く戻ったほうがいい」


 ホイルがさらに深く尋ねてこようとしたのを、ブラントが遮った。

 静かな声だったが、有無を言わさぬ迫力があった。


「あ……ああ……確かにそうだな……あまりのんびりしていても危ないな。もし後から来た奴が変なことをして、ダンジョンがなくなったら困るもんな」


「そ……そうですわね……早く戻りましょう」


 やや怯みながらも、ホイルとレジーナは同意する。

 それを皮切りに、四人はダンジョンコアを背にして、元きた道を引き返していく。


「ブラント先輩……」


 先頭を歩いて行くブラントに近づき、アナスタシアはそっと声をかける。

 もしかして、アナスタシアが困っていたことに気づいて、助けてくれたのだろうか。

 すると、ブラントはアナスタシアの思いを肯定するように、柔らかく微笑んだ。


「みんなそれぞれ事情があるしね。……ただ、ひとつだけ聞いておきたいことがあるんだ」


 言葉をいったん区切り、ブラントはアナスタシアをじっと見つめる。


「アナスタシアさんは魔族、というわけではないよね……?」


 表情は微笑んだままだったが、その声は凍てつくように冷たかった。紫色の瞳は何の感情も映しておらず、虚無のように全てを飲み込んでしまいそうだ。

 アナスタシアはぞくりとして、思わず足を止めてしまいそうになる。

 魔王とすら対峙したことのあるアナスタシアが、圧で押されたのだ。驚きながらも、アナスタシアは自分を保とうと集中する。


「……いいえ、私は人間ですし、むしろ魔族は敵です」


 気を取り直し、アナスタシアは正直に答える。

 その途端、ブラントの張り詰めたような空気は解け、元のように和らいだ。


「そうか。変なこと聞いてごめんね」


 次に口を開いたときには、すっかりいつものブラントに戻っていた。

 だが、アナスタシアには、ブラントが少しだけ見せた底知れぬ憎悪のようなものが、漠然とした不安として胸に残った。

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