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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第5章 天人教団

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144.魔物化解除

 突然、街中に現れた魔物たちに、周辺を歩いていた人々は騒然となる。

 悲鳴が飛び交い、慌てて逃げようとして転んだり腰を抜かしたりと、混乱状態だ。


「これは……魔族襲撃事件のときのディッカー伯爵と同じ……?」


 魔物と化したチェイスを愕然と眺めながら、レジーナが呟く。

 ホイルは舌打ちして、後ろにいるレジーナをかばうように、魔物と化したチェイスの前に立ちふさがる。


「どうして……」


 おそらく、アナスタシアとブラントの驚きは、レジーナとホイルよりも大きかっただろう。

 学院祭で起きた魔族襲撃事件はヨザルードによるものであり、それを裏から操っていたのはギエルだ。そして二人とも、すでに葬っている。

 そのことを知っているアナスタシアとブラントは、魔族による事件などもう起こらないと思っていたのだ。

 だが、魔物化はどう考えても魔族の仕業だろう。


 魔王エリシオンは、ギエルによる神龍を目覚めさせるという企みを知っている者はいなかったと言っていた。

 だが、ギエルの他にも神龍の件とは別に、何らかの目的を持って動いている者がいるのだろうか。

 それとも、つい最近までセレスティア聖王国は魔族の影響下にあったので、そのときの仕込みがまだ残っているのかもしれない。


 何にせよ、今の段階では何もわからない。

 チェイスを生け捕りにして、魔物化を解除して聞き出すべきだろう。


「ホイルとレナは、たくさんいる毛玉のほうをお願い! ブラント先輩と私で、魔物化したほうをどうにかするわ!」


 アナスタシアがそう声をかけると、ホイルとレジーナは頷いて、術式を構成し始めた。

 すでに実戦経験をそれなりに積んでいる二人は怯むことなく、【白火】を毛玉の魔物たちに放つ。

 たちまち、魔物だけを燃やす炎が、毛玉の魔物たちを焼き尽くしていった。


「倒すなら簡単そうだけれど、魔物化を解除するんだよね」


 魔物と化したチェイスを眺めながら、ブラントが確認してくる。

 以前、魔物化を解除する方法はエリシオンから聞いた。魔石を取り出すか、破壊すればよい。

 王妃デライラが魔物化したときは、解除方法がわからないまま、放っておけば体が耐え切れずに命を失うことも知らず、死なせてしまった。

 今回は、そうはならないようにせねばと、アナスタシアは拳を握り締める。


「はい。試してみようと思うので、あれを抑えていてもらえますか?」


「わかった」


 すぐにブラントはチェイスに向けて【束縛】の魔術を放ち、がんじがらめにして動けなくする。

 言葉は封じられていないので、すっかり魔物と化したチェイスは怒りの唸り声をあげるが、構わずにアナスタシアは近づいていった。


 【魔滅】や【白火】のように、魔石を持つ相手に働きかける魔術はある。

 だが、魔石が魔物からとれる重要な素材であるためか、魔石そのものを破壊するような魔術は一般に知られていない。

 魔王エリシオンならば知っているかもしれないが、アナスタシアは知らない。


 【魔滅】や【白火】は魔石に働きかける術なので、応用で魔石そのものの破壊もできるかもしれない。

 しかしながら、実験したこともないので、出たとこ勝負で使うのは危険だ。

 やはり魔石の場所を探るだけにして、直接取り出すのが無難だろう。


「魔石の位置は……」


 アナスタシアは、威嚇してくるチェイスに魔力を流し、魔石の位置を探る。

 すると、胸の中心の浅い部分に反応があった。

 心臓を傷つけずにすむ場所であることに安堵しながら、アナスタシアは魔術を使ってその部分を切り裂く。


「グワアァァァ……!」


 魔物と化したチェイスが悲鳴をあげるが、アナスタシアは構うことなく、傷口に

手を突っ込む。

 それでもチェイスはぴくりとも動かないので、ブラントの使った【束縛】は完璧な強度を持っているようだ。

 さらにチェイスの叫びが激しくなるのを聞き流しながら、アナスタシアは魔石を探って引き抜く。

 黒い魔石が体内から取り出されると、毛むくじゃらの魔物はしぼんでいき、体毛もどこかに消え失せていった。


 やがて、チェイスの姿がそこに現れる。

 魔物化した際に服はあちこちが破れたらしく、ぼろぼろになっていた。

 チェイス本人も胸の傷から血を流し、白目をむいて気絶しているという、無残な状態だ。


 アナスタシアは治癒術を施し、チェイスの胸の傷を塞ぐ。

 すぐに治療したので、出血量は大したことがないはずだ。

 状態を調べてみても、意識を失っているだけで、他におかしな点は見当たらない。

 どうやらうまくいったようだと、アナスタシアはほっと息をつく。


「アナスタシアさん、お疲れさま。ホイルくんとレジーナさんも終わったようだよ」


 ブラントから声をかけられ、アナスタシアは周辺の様子を窺う。

 すると、ブラントの言葉どおり、ホイルとレジーナは毛玉の魔物たちを全て始末したようだ。

 焼け焦げた黒い物体がいくつも転がっている。


 ひとまず、この場は無事に終わったようだ。

 これからが原因解明という本番ではあるが、アナスタシアはチェイスの魔物化を無事に解除できたことに、心からの安堵を覚えていた。

 これでもし、前回の人生のようにフォスター研究員が魔物化したとしても、命を奪うことなく解除できることが証明されたのだ。


 ただ、魔石を体内から直接抉り出すのは、かなりの苦痛を伴うようなので、それを考えると心が痛む。

 しかしすぐに、【鎮痛】を使えばよいのだと閃き、アナスタシアは憂いが晴れる。

 一瞬、チェイスにも使っておけばよかったのかと頭に浮かんだが、魔力がもったいないのでやっぱりいらないかと、アナスタシアは考えを打ち消した。

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