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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第4章 マルガリテス

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118.神龍の眠る湖

「さて、全部ではないだろうが、証拠品とやらを持ってきた」


 エリシオンは、アナスタシアに書類の束を渡す。

 ぱらぱらと見てみると、ドイブラー伯爵たちの悪事の記録がしっかりと記されているようだった。

 ただ、ほとんどがジグヴァルド帝国内でのことなので、アナスタシアにはよくわからないことが多い。

 これは帝国の人間に聞くべきだと、アナスタシアは書類の束をイゾルフに渡した。


「拝見します……」


 まだ怯えた様子は残っていたが、イゾルフは書類に目を通していく。

 すると、だんだんイゾルフの表情が驚愕を含む真剣なものに変わっていった。


「これは……もう、十分にドイブラー伯爵たちを失脚させられるだけのものですよ」


 ややあって、イゾルフはそう宣言する。


「では、マルガリテス返還は進みそうでしょうか」


「進むはずです。反対しているのなんて、ドイブラー伯爵たちだけですからね。その理由らしきものも、この中にありました」


 アナスタシアが確認すると、イゾルフは頷いた。

 そして、書類を指し示す。


「人身売買に手を出しているとありますが、廃棄品……処分する奴隷などを回収しているようです。それをマルガリテスに連れていって、何かの実験に使っているようで……」


 眉をひそめながら、イゾルフが語る。

 アナスタシアも思わず表情をしかめてしまう。


「ただ、実際に何をしているかの詳しい内容は不明でした。それは、これからドイブラー伯爵たちを問い詰めていけばよいとは思いますが」


 イゾルフの言葉に、アナスタシアとブラントは考え込む。

 詳しい内容というのは、エリシオンがまだ受け取っていない証拠品の中にあるのかもしれない。

 現時点ですでに失脚させられるだけのものがあるのなら、わざわざ取りに行かなくてもよいのかもしれないが、やはり詳しい内容は気になる。


「瘴気が発生しているというのも、その実験の影響なのでしょうか。何にせよ、ろくなものではなさそうですが……」


「マルガリテスの結界の魔道具を調べたところ、土地を清浄に保つようなものと、悪意ある者の排除といった機能があるようだった。もともと、何かの意味がある土地だったのかもしれない」


 アナスタシアとブラントが口々に述べると、それまで黙っていたエリシオンが首を傾げた。


「そのマルガリテスとやらは、そなたたちが得ようとしている地であっただろうか。瘴気が発生しているというが、瘴気の滞りは感じられぬ。いったいそれはどこだ?」


 瘴気をコントロールするのが魔族の役割だとは、以前エリシオンが言っていたことだ。

 だが、その管理者たる魔王エリシオンがわからないとは、いったいどういうことだろうかと、アナスタシアは疑問を抱く。


「ええと……ここからだと南西になる場所で、大きな湖があるそうです。何でも神の龍が眠るという伝承があるとか……」


「神の龍、だと?」


 アナスタシアが答えると、エリシオンが眉根を寄せて呟く。


「地図がありますよ」


 そこにイゾルフが地図を持ってきた。

 テーブルの上に広げて、マルガリテスの位置を指し示すと、エリシオンが真剣な表情になる。


「ここはセレスティアが確保していた地ではないのか?」


「二十年ほど前、ジグヴァルド帝国に奪われたのです。それを取り戻すのが、結婚の条件なのですが……」


 アナスタシアが答えるが、エリシオンは地図から視線をはずさない。


「瘴気が発生しているというが、いつからだ?」


「奪われた当初かららしいので、多分二十年ほど前からではないかと……」


「そうか……そういうことか……よくぞ今まで儂を出し抜いたものだ」


 地図を眺めたまま、エリシオンは冷淡な声を発する。

 その姿は威圧感のある魔王そのものであり、普段のちょっと抜けたところのあるおじいちゃんと同じ人物とは思えない。

 アナスタシアの背筋にぞくりと冷たいものが走る。


「この地を儂らは、神龍の眠る湖と呼んでおる。ここは瘴気など発生してはならぬ場所だ。だが、意図的に発生させ、しかも儂に気づかれぬように遮断していたのだろう」


 忌々しそうにエリシオンは呟く。


「以前、少しだけ話したことがあったが、瘴気が浄化能力を超えたとなれば、人間ごと一度浄化する力が働くことになる。その浄化を行う者が神龍であり、神龍が眠っているのがこの湖なのだ」


「それって……まさか、その神龍を目覚めさせようと……?」


 おそるおそる、アナスタシアは呟く。

 魔族たちの狙いでわかっていることは、黒い翼の魔王を作り出すことだ。

 だが、それでもまだ不明な点はあったが、こういうことだったのだろうか。


「おそらく、そうだろうな。神龍による浄化とは、すなわち破壊のことだ。大陸を焦土と化し、一度全ての文明を焼き払ってから、もう一度やり直すというものだ」


「そんな……」


 エリシオンの説明に、アナスタシアは愕然とする。

 人間たちを滅ぼし、その上で黒い翼の魔王を君臨させることが、本当の目的だったのだろうか。


「神龍はいわば装置のようものだ。儂のように個人の意思などない。一度目覚めてしまえば、己の役割を果たすべく、ただ破壊するだけだ。儂にも止められん。大陸の全ての国は滅ぶな」

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