11.ハンター登録
翌日は休日だったので、早速ハンターギルドに行ってみることにした。
ハンターについての説明はホイルから聞いたが、国によって細かい点が異なり、各国のハンターギルドは完全に連携しているわけではないという。ホイルは他国の出身のため、ここシャノン魔術王国とは食い違っている可能性もあるとのことだ。
ホイルも魔術学院に来てからハンターギルドに行ったことはないというので、一緒に行くことになった。
すると、まだホイルを信用できず、難色を示したレジーナが自分もついて行くと言い出し、結局三人でハンターギルドに向かっている。
「ハンターの本分は、ダンジョンでの魔物退治だ。ダンジョンは基本的には国に管理されていて、難易度によって立ち入ることができるハンターも制限される。最初は六級からスタートで、一級は国に数名しかいない。これは各国共通のはず」
歩きながら、ホイルが説明する。
「国は魔物をあふれさせないよう、職にあぶれているならず者どもにハンターという肩書きを与えて利用しているということですわよね。食い詰めた者も一攫千金を狙えて、お互いに利害が一致しているので問題ありませんものね」
それに答えるように、レジーナはやや棘のある内容を淡々と述べる。
魔術学院の生徒の多くがそうであるように、レジーナもハンターに対して高い評価をしているわけではないようだ。
「……下級ハンターにならず者が多いのは否定しねえよ。誰でもなれるからな。ただ、昇級するのには試験がある。上級ハンターともなれば、実績だけじゃなくて教養やらも必要になってくる。ハンターっていうのは上級と下級でとんでもない差があるんだ」
「あら、そうですのね。あなたは当然下級ですわよね」
「このっ……確かに、下級の部類ではあるけどよ。でも、試験通って五級にはなってるんだ。ペーペーの新人っていうわけじゃねえよ」
イライラした素振りを見せながらも、ホイルは怒鳴ることなく受け答えをしていた。
そうしているうちに、魔術都市のハンターギルドに到着する。
中に入ると、ちらほらと人がいて、壁に貼られている依頼の紙を見ていたり、テーブルを囲んで仲間内で何かを話したりと、思い思いの行動をしていた。
アナスタシアが依頼の紙をざっと眺めてみると、素材集めや薬草採取といったものが多いようだった。中には、魔術学院の教師から出されたらしい依頼もある。
もう少し見てみたかったが、まずは登録だ。ホイルを先頭にして、カウンターに向かう。
「ハンター登録をしたい」
「魔術学院一年生の生徒さんですか?」
ホイルが受付嬢に声をかけると、彼女は三人の姿を見て尋ねてくる。
「そうだけど」
「では、準六級からとなります。受けられる依頼は六級のものになりますが、ダンジョンは不可となっています」
「ちょっ……準六級って何だよ! 俺、ステム王国出身だけど、そんなのなかったぞ!」
思わずといった様子で、ホイルが声を荒げる。
「魔術学院一年生の生徒さんは将来性があるため、危険が伴うダンジョンに対する制限が厳しくなっています。二年生以上ですと、六級からになります」
淡々と答える受付嬢に感情は窺えず、事務的だ。
確かに、魔術学院一年生というのはたいした魔術を扱えない者が多い。学院ダンジョンに入ることができるのも、最短で一年生の後期だ。
そんな実力も備わっていない生徒に物見遊山気分でダンジョンに入られては、将来貴重な魔術師になる可能性のある人材を失いかねないということだろう。
「……俺はステム王国で五級ハンターだったぞ。ほら、ギルド証」
「はい、確認しました。他国のものは準級扱いなので、準五級となります。この国における五級試験の受験資格がありますが、試験は月末ですのでまだ先となります。それまでは、複数名であれば初級ダンジョンが探索可能です」
ホイルが国元でのギルド証を見せると、いちおうダンジョンに行くのは可能になったらしい。
「そちらのお二人もですか?」
「はい」
「他国でのハンター活動経験はありますか?」
「いえ、ありません」
受付嬢はアナスタシアとレジーナに問いかけてくる。
アナスタシアもレジーナも、同じくハンター経験はない。
「それでは、準六級からとなります。ダンジョン探索は基本的には不可ですが、五級以上のハンターを護衛とすることにより、可能となります。六級への昇級は、ダンジョンで魔石を十個獲得し、提出することによって認められます。また、二年生になった場合も自動的に六級となります」
「……護衛というのは、自分で雇うのですか?」
「はい、ご自分で護衛費用を支払って雇っていただくことになります」
受付嬢の説明を聞き、アナスタシアは眉根を寄せる。
前回の人生では、アナスタシアは勇者のパーティーの一員だったので、セレスティア聖王国に認められた特級扱いだった。
魔物があふれ出して秩序が乱れていたこともあって、ダンジョンはどこでも入り放題で、ハンターの仕組みについて考える必要もなかったのだ。
もちろん、勇者のパーティーの一員となる前に、ハンター活動をしたこともないので、初耳のことばかりだった。
どうやら一度は護衛を雇わねば、ダンジョンには入れないらしい。
魔石は魔物の体内に含まれているので倒せばよく、ダンジョンに入ることができれば問題なく手に入るだろう。
だが、護衛を雇うにはお金がかかる。もともとお金を稼ぐのが目的であり、手持ちは乏しい。
「五級以上が護衛になればいいんだったら、俺が行けばいいんじゃないのか?」
「今は準五級扱いとなりますので、対象外です。月末の試験に合格すれば正式に五級なので、それからであれば問題ありません」
ホイルが護衛になるというのも、今は無理のようだ。
どうするべきかと、三人は顔を見合わせる。
「……月末まで待つか? そうしたら、俺が試験を受けて五級になれる」
「月末までは時間がありますわ。それに、合格するとは限りませんわよね。でしたら、わたくしが費用を出すので、護衛を雇ったほうがよろしいのでは?」
「でも、一回で魔石十個も取れるか? しかも二人なら二十個だぞ。何回もダンジョンに行くとなったら、護衛費用だってバカにならねえぞ」
ホイルとレジーナの言葉を聞きながら、アナスタシアは考え込む。
魔石二十個分の魔物退治くらい問題ないだろうから、護衛を雇うのは一度ですむはずだ。だが、アナスタシアに護衛費用を払えるような余裕はなく、レジーナに頼ることになってしまう。
それとも月末まで待ってホイルに頼るか、どちらにせよアナスタシア一人では何もできない。
「……一回はレナに費用を借りて護衛を雇って様子を見て、一回で終わらないようだったら月末まで待ってホイルにお願いするのはどう?」
両者をまとめてアナスタシアは提案する。護衛費用は借りておいて、六級になって堂々とダンジョンに入れるようになったら、稼いで返せばよいだろう。
レジーナとホイルにも異論はないらしく、頷いた。
「では、護衛を雇うにはどうすればよいでしょうか?」
アナスタシアは受付嬢に尋ねてみる。
「日付を指定していただければ手配しておきますが、今日ですと……モッブさん、護衛のお仕事いかがですか?」
受付嬢はギルド内を見回し、依頼の紙を見ていたスキンヘッドの巨漢に声をかける。
すると彼は面倒そうに振り返り、アナスタシアたち三人を一瞥すると、ふんと鼻息を吐いた。
「遠慮するぜ。ちょっと魔術をかじって自分が強いと勘違いしている坊ちゃん嬢ちゃんのお守りなんざ、ごめんだね。それよりも、この依頼受けるから処理してくれよ」
彼はもうアナスタシアたちには目もくれず、依頼の紙を一枚取って受付に提出する。
「ちっ……でも、気持ちがわからないわけじゃねえからな……プライドだけ高い能なし貴族の護衛と似たようなもんと考えるとなあ……」
舌打ちするホイルだが、同時に納得したようなため息も漏らす。
少しだけ魔術を扱えるようになり、自信過剰になっている魔術学院の生徒の護衛となれば、忌避されるのも当然だろうと、アナスタシアも思う。
実際には一人でダンジョン踏破できるくらいの実力をアナスタシアは持っているが、それを言ったところで信じてもらえるはずがない。
「……護衛をしてくれる相手を探すだけで大変そうですわね」
レジーナも大きく息を吐き出して、肩をすくめる。
こうなっては、月末にホイルが昇級試験に合格することを祈り、それまで待つしかないだろうかと諦めかけていると、三人に近づいてくる姿があった。






