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第四話 灼



ジョパン次郎は深く溜息をつきました。


「ドグラマグラ太郎。


また僕たち二人きりになつたねえ。


どこまでもどこまでも一緒にいこう。


僕は守りに徹してもいずれ死ぬ。


誰かのほんとうの幸せになりたい。


そのためならば僕なんか。


僕の身体なんか百ぺん灼いてもかまわない」


ドグラマグラ太郎は答えました。


「ジョパン次郎。『みんな』は外したんだ」


「外した。『みんな』はいない」


「ジョパン次郎。誰かつて誰?」


「その質問は読めてた。誰でもいい」


「僕でも?」


「勿論だよ。ドグラマグラ太郎」


「君自身でも?」


「勿論だよ。ドグラマグラ太郎」


「誰でもいいから手当たり次第に?」


「勿論だよ。ドグラマグラ太郎」


「犯罪者の自供つぽいね。僕そういうの好き」


「知つてた」


「じゃあとりあえず君自身を幸せにしてくれ」


「ドグラマグラ太郎。そこからか」


「ジョパン次郎。そこからだ」


「何故?」


「体感していない者が誰に何を体感させる?」


「確かに。でも隻手の音は?地獄の菜箸は?」


「極論だよ。身近な例で考えよう。自転車とか」


「自転車かあ。ドグラマグラ太郎。僕乗れるよ」


「乗るとどんな気分?」


「軽く幸せ。歩くより早いし。人力だし」


「答え出た感じ?」


「乗れる人多いから教えれる人多いよ」


「ジョパン次郎。確かにそうだ」


「優位性が少なくない?」


「優位性が欲しいんだ」


「そりゃあ欲しいよ」


「どれくらい欲しい?」


「身体が百ぺん灼かれてもいいくらい」


「灼きすぎだよ。夏の夜を灼く花火か」


「夏の花火は良いね。ドグラマグラ太郎」


「夏の花火は良いね。ジョパン次郎」


「僕の勝ちで良いね。ドグラマグラ太郎」


「それは無いよ。ジョパン次郎」


「何故?」


「僕がライターをつけるとする。小さい火が出る」


「出るね」


「その火の3cm上に」


「上に」


「僕の為に長時間。君の掌を炙つてくれるかい?」


「長時間てどれくらい?」


「3分でいいよ。ジョパン次郎」


「意外と短いけど確実に火傷するね」


「間違い無い」


「熱いし痛いよ。ドグラマグラ太郎」


「間違い無い」


「それで君は何を得られるんだい」


「最初に失笑。途中から恐怖。最後に罪悪感だよ」


「それが欲しいのかい」


「それほどでも無いよ。ジョパン次郎」


「それほどでもない事の為に僕の掌を灼くのか」


「珍しい光景と音と匂いだから価値が無くは無い」


「非道い」


「実際は数秒で『あちぃ』で終わるだろうけどね」


「だろうね。反射には逆らえないし」


「じゃあ自分の身体を灼く灼く云うなよ」


「自分の身体を灼く灼く云うと良いんだよ」


「ジョパン次郎。何が良いんだい?」


「自己陶酔に浸れるんだよ」


「ジョパン次郎。誰に洗脳されたんだよ?」


「宮沢賢治かなあ」


「あいつ自分を灼いたことないぜ」


「そうなんだ」


「凄く大事な人を灼かれた事はある」


「急に重い話?ドグラマグラ太郎」


「君がはじめた話だけどね。ジョパン次郎」

 

「つらそう」


「だから簡単に身体を灼く灼く云うなよ」


「わかつた」


「かわりの自己陶酔。探してみなよ」


「わかつた」


「自己陶酔つて何。ジョパン次郎」


「僕知らない」


電車は揺れます。


窓の外には沢山の星が見えます。


ジョパン次郎は深く溜息をつきました。



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