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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

誰もが幸せになれなかった話

作者: たてよこ

ありきたりな復讐劇。とある少女が命を懸けて尚、果たすことの出来なかった悲しい結末の物語。


 この世には吸血鬼という化け物が居る。その化け物は人を襲い、その生き血を啜るのだ。被害者の中には極稀に動く死体っぽいモノに成り果て、一定以上の食事(死体だとか)を摂取して吸血鬼に進化したりする。

 その進化の過程で特殊な能力が発生する。個数は個体の潜在的なアレコレで決まるらしいが、最低は一つ。高位ならば複数あるらしい。

 また、日の光が天敵だったり、白木の杭で心臓を穿たなければ死ななかったり(鉄とかだと再生する不思議)、流れる川が怖かったり、と何だこれ?と思う生態だったりもする。


 まあ、私の感覚で捉えた化け物としての一般常識だが。


 私はかつて人間だった。今は吸血鬼なる化け物としてこの世に存在している。発現した能力の数は一つ。まあ、いわゆる下っ端なので自分のことはシパとでも呼んでほしい。下っ端のシパで十分だ。


 人だった時の私は平凡を絵にかいたような人間だった。ちょっと貧しいが牧歌的な村(てくてく歩いて半日で1週できる程度の規模の村と言えは大体の予想がつくと思う)に住むどこにでも見られる家庭の次女だった。両親と祖父母と兄弟姉妹の一家8人暮らしだった。

 事の発端は馬車で1日程度進んだ先にある町に出稼ぎに出ていた姉が、凄い美男を連れて帰って来たことだろう。あの顔は男でも道を踏み外す。当の本人は人としての道も踏み外した外道だったが。


 化け物としての感性からしても道を踏み外している外道だと心の底から思うし、あの御方なんぞとは呼びたくもないのでイケメンゲス様を略してイゲスと呼んで差し上げよう。敬称?そんなモノは必要ないだろう。


 話がずれたが、なんでも姉が勤めていた職場の同僚の親戚の近所にある酒場のオーナーだったと自称したイゲスが姉を見初め、告白&お付き合い。そして家族への挨拶がイマココらしい。その期間なんと驚きの26時間。出会って2時間そして馬車で24時間ておいこら待て。

 だが、何故か家族全員それを信じてしまったのだ。私もそれを信じた。素敵な義兄だと心の底から信じ込んでしまったのだ。めでたいと祝福し、宴会になり……それが人としての最期の晩餐になった。


 晩餐が終わると同時に家族全員がイゲスに襲われ、運悪く確率で当選してしまったのが私ことシパである。


 先も述べたが、吸血鬼としての自意識に目覚める前の段階がある。そう動く死体の段階だ。ご丁寧にもイゲスはうごうご動きだしたシパのために村人たちを殺したのだ。どんな能力なのかは知らないが、普通に生活してましたよ?と言わんばかりの状態だったので恐らくは死の瞬間の恐怖を感じてなかったのが救いだろうか。

 シパは最初は人だった記憶が無かったが、能力が生え、吸血鬼になった時に全ての記憶が戻った。動く死体だったときの記憶もあった。・・・・・・し ん ど い。


 因みに生えた能力は『自身に起こった影響を他者と共有する』という、なんとも反応に困る能力である。何が一番困るっていうと、距離が離れると共有するまでに時間がかかり、その間にシパがポックリ逝ってしまうと相手に何の影響も出ない。多分おそらくきっと感覚的に。ということである。

 唯一の利点は個人と範囲を選べる事だろうか。範囲使ったことないけど。


 そんなシパは自分が食べてしまった村人達やイゲスのご飯になった家族の復讐を精一杯考えた。いたずらや役に立たない物を微妙に役立てる才能にあふれている。とまで言われていた村一番残念な頭脳を持つと評判だった頭脳を駆使して精一杯考えたのだ。


 自分がイヤな事をイゲスにお届けしたら最高のプレゼントになるんじゃね?


 箪笥の角に小指をぶつけてみたり、毛虫を腕に這わせて炎症おこしてみたり、ペンチで歯を抜いてみたり、顔に『僕の永遠の友はカツラです。』と針でつついて血文字してみたりと、色々やってみたが、効果や不快感が届いている感覚はあれど直接顔をみせてコラ!と怒りにやって来ることは無かった。……近づいている感覚はするので移動系の能力をイゲスが持っていない可能性もあるが。特に血文字の時は3倍くらい早く近づいて来ていた感覚があった。奴の弱点は髪の毛だと学習した。


 あれこれ検証している間に村が全滅している!と噂(事実)が広まって、村に化け物ハンターがやってきた。クズだった。

 殴り蹴られてボロボロになった子供を鎖で馬車につなぎ、化け物をおびき寄せ(子供)に襲い掛かっている間に始末して手柄山分けハッピー思考を隠してもいないクズだったのだ。退治した。

 またハンターがやってきたが、またクズだった。今度の餌は女性で次に来たのは老人でその後に来たのは痩せこけた男性だった。


 クズとかイゲスとか道を踏み外した奴が多すぎる。人間とか大丈夫?延々と退治した。


 因みにクズどもはシパのご飯になったし、対化け物用の装備や馬車はありがたく拝借させて頂いた。餌として連れてこられた女子供たちは怪我を治療して拝借した馬車の一つとクズどもの所持金を渡し、町に送り返しました。

 彼・彼女らはシパを簀巻きにして馬車に詰め込み……そして村には何もいなくなった。なんでだ。


 救世主じゃないの吸血鬼なのよシパは。知ってるよね?目の前でハンター(クズども)の首に噛みついて生き血を啜ったの見たよね?うごうご動きだしたら困るからキャンプファイヤーしたのが悪かったの?女性に襲いかかろうとした男どもに、背後から肩ポンして『悪い奴(ごはん)はココか?』をやったのが駄目だったの?反省してたから食べてないけど。


最終的には町にポイ捨てされた。化け物を放流するとか頭大丈夫?金品争奪戦とかやりそう。人間もうちょっと平和に生きて欲しい。


 そんなこんなしてシパは現在、町のとある一軒家で吸血鬼ハンター(新人)なる人物と対面している。

自身の心臓に包丁の切先を向け「私を滅ぼしたいなら十時間以上正気を保たせる事の出来る拷問大好きハンターを呼べ!!」と叫びながら。

 理由はあるんだ。だから屈辱と困惑をにじませながらのドン引きは止めてほしい。さして新しくもない扉を開いちゃうじゃないか。君たち新人ハンターと同じくシリアスさんという常識的な概念っぽいのが命をかけて扉を死守してるんだぞ。


 ともあれ、仕事の出来る新人ハンター君は色んな意味で人間を超越してしまっている。と噂されている上位ハンターさんを紹介してくれた。

 新人君を人質に話を聞くと、イゲスに恨み骨髄な女医さん兼任ハンターさんとは話しが出来た。対イゲスに致死性の嫌がらせプレゼント作戦に大興奮で賛成してくれた。新人君と女医さんの相棒と紹介された暗殺者っぽい人はドン引きしてシリアスさんの命がけの扉死守イベントを発生させていたが。


 そして煮詰めた計画の大まかな概要がコレだ。


1.まずシパは全力で滅ぶまで能力をイゲスに使う。

2.四肢に白木の杭を打ち込み原っぱ(岩地などの陰がない場所)に磔にする。尚、衣服は全て取っ払っておく。

3.腹を開き、内臓にも日光をしっかり当てる準備をする。ただし、耐えることが困難な場合はペンキやなんかでコーティングし、余裕が出てきたら鉄のハサミあたりで内蔵の一部をチョッキンする。

4.なるべく長く生存させておくために、口のなかに輸血チューブを入れて延命をする。針を腕にさす輸血じゃあ回復効果がないらしい。さすが化け物だ変な構造してるな。

5.女医は虫眼鏡を装備して下の毛辺りに日光を照射する。(イゲスは男である。意味は分かるよな?)

5.5 ついでに頭のてっぺんにも虫眼鏡光線当ててイゲスにハゲ作ろうぜ!作戦も採用された。

6.協力者として登場させられた元暗殺者はシパが気絶出来ないよう適度に影を作ったり、栄養補給させたりする。

7.イゲスが滅んだら、決められた合図をしてシパも滅ぶので耐久勝負。夕方までイゲスが生き残っていたら、シパに止めを差してハンターは撤収。


 因みに没案として、縫い付ける杭に段差を付けて下に大きな鏡を置けば日光反射させて裏側もコンガリ上手に焼けました。もあるにはあった。下っ端の耐久力では無理だとの判断が下りボツになった。



 そして準備が整い。作戦が実行された。



 朝日が昇る数分前。最近使ってなかった能力をイゲスに繋げる。繋げた感じからして3倍速度で移動しても3日は大丈夫と予想される距離にいるらしいことが判明。1日分の距離が離れると効果のお届けに1時間かかる。3時間は最低我慢のとき。


 良い作戦日和だ。


 四肢に杭が穿たれる。体が跳ね、苦痛に絶叫が迸る。口に詰め込まれる輸血チューブ……開かれる腹。


 そしてありとあらゆる拷問が始まった。



 能力の維持だけは決して途切れさせない。家族の、村人たちの、何気なくあった日常。それを糧に能力の維持だけは全力で守る。


 どこかの辺境では芋虫を生で食べると聞き、兄の飼育していたカブトムシの幼虫を食卓にのせて、家族全員から激オコされた思い出。

 税金回収の為などと言われ、村のど真ん中に通されたアスファルト。結局、税金の回収は馬車だから使わなかったが、代わりに夏場にはフライパンや鍋を置いて昼食や晩御飯の調理に有効活用させて頂いた思い出。いつの間にか村全体に広がっていたのには笑った。これも大事な思い出。

 子供同士で畑の手伝いをしていたら、セクシーポーズみたいなニンジンが採れた。端切れで水着っぽい衣服を作り、誰が一番かを競った思い出。村中の子供やオッサンまで加わり、カーチャンのゲンコツで終了したのも大事な思い出。

 空地に円を描き、何かを召喚しよう!と集まったのはよいが、UFOだ悪魔だ天使だと話しているうちに、いつの間にか河原での殴り合いに発展して友情を育んだ思い出。

 思い返すが、ろくでもない思い出ばかりだな。だが大事な日常だったんだ。それらを糧に能力の維持だけは続ける。


 身体の維持はハンターに委ねる。どうか有効活用してくれ。絶叫は途切れることなく続き、走馬灯は常に走り続ける。内臓が切られ、血液を口から流し込まれて回復する。この苦痛。この絶望。一つ残らずイゲスに送り届けてやる。だから……だから……禿げろイゲス。これが恨みだ。私の大事だったモノを奪ったキサマに対する報復だ。

 なるべく永く……苦しめ!思い知れ!!頭頂よ光れ!!!


 どのくらいの時間が経過したのか……視界は赤く染まり続け、日の傾きなぞ分かりはしない。まあ、見ても目玉は焼け焦げて無くなるんだが。能力の維持にも限界が近づいている。既に血液を経口摂取しても体が再生しなくなっている。断末魔すら口から零れることも無くなった。



 日没まで残り30分。シパという化け物は灰となり、この世から消えた。


 イゲスの生存を確信したまま、仇を討つことなく、この世から消えたのだ。



 世の中に不必要な贈り物を意図せずばら撒き、この世から消えたのだ。



 日中に渡り絶叫が響き渡った草原は、汚泥のような匂いと拷問に使われたであろう薬品により汚染され、雑草はおろかあらゆる生物が存在できない環境へと変貌を遂げた。

 助けてくれた恩人を町にポイ捨てし、恩返ししたつもりの社会的弱者は強者になる術を得られなければ同じ運命を辿るだろう。次は救世主なんて都合のよい存在には出会えないだろう。

 イゲスという愛称をつけられた不運な吸血鬼。上級と名高かった彼は、かつての獲物の能力に苦しみのた打ち回り、狂気に駆られ、自慢の容貌も溢れるほど所持していた能力も失い、延々と続いたダメージによる弱体化を受け、隠れ家として使用していた建物を飛び出した挙句に日没間際の太陽光を浴びて、この世から消えた。誰にも気づかれずに、この世から消えた。

 ハンターという存在は、一部の暴走により民衆はおろか特権階級にまで忌避される存在へと名誉を落とした。当事者は逃走した数名を除き、断頭台の贄となった。逃走した数名も指名手配され、いずれは消えてしまうであろう結末を迎える。



 誰もが望んだ結末を迎えることが出来なかった物語はこれでおしまい。


 誰もが幸せになれなかった物語はこれでおしまい。


 誰もが報われなかった物語はこれでおしまい。






以下 削られた交渉内容やその他の結末も駄文として置いておきます。



女医「貴女程度の吸血鬼では直射日光に1分苦しめば上出来ですよ(嘲笑)」

シパ「じゃあペンキかコールタールぶちまけて塗装したら持つんじゃね?」

元暗殺者「…(俺は空気になる…イヤだ巻き込まれたくない)」

女医「何故にコールタール?」

シパ「臭くてねばそう。糞尿は最低限ある女の矜持と辺りの人が可哀想。女医さんにも掛かるかも知れないし。」


元暗殺者「」

女医「」


*****

 某あの世と呼ばれる所では、虫眼鏡を片手に美青年を追いかけまわす平凡な村人たちが居るらしい。



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