浦島太郎ゲームブック
【1】
むかしむかしあるところに──
『うらしまたろうというせいねんがおりました』→【2】
『うらしまこというしょうじょがおりました』→【3】
【2】
たろうはつりをしてさかなをとりながらくらすのんびりやのせいねんで、まいにちうみべをあるいていました。あるひのことです。たろうがいつものようにうみべをあるいていると、なんにんかのこどもたちが──
『かめをいじめていました』→【4】
『かめにいじめられていました』→【5】
【3】
しまこはつりをしてさかなをとりながらくらすのんびりやのしょうじょで、まいにちうみべをあるいていました。あるひのことです。しまこがいつものようにうみべをあるいていると、なんにんかのこどもたちがかめをいじめていました。
→【6】
【4】
「こら、なにをやっているんだ」たろうがこえをかけると「わー! にげろー!」こどもたちはにげていきました。「まったく、あいつらときたら。かめさん、だいじょうぶかい」たろうはたすけたかめにこえをかけました。
→【7】
【5】
「小手先の技ばかりでは我が甲羅には痕の一つもつけられはせんぞ。貴様ら、まさかその程度の覚悟で我に刃を向けたのではあるまいな」『北亀神宮』を治める≪護世四神≫が一柱、玄武が地を踏み鳴らす。その衝撃に耐えきれず少年らがくずおれた。「ハァ……クソッ、生半可な気持ちで、玄武に挑むなんざぁ……無謀がすぎたな、こりゃ」少年の一人が諦めかけた、その時。
→【8】
【6】
しまこはかめをたすけました。「ちくしょー! おぼえてろよー!」いじめっこたちはわらわらとにげていきます。「かめさん、だいじょうぶだった?」「あ、ありがとうございます。あなたはいのちのおんじんです。ぜひおれいをさせてください」「おれい?」しまこはくびをかしげました。
→【9】
【7】
かめはうれしそうにいいました。「ありがとうございます。あなたはいのちのおんじんです。どうかおなまえをおしえてください」「ぼくはうらしまたろうだよ」「たろうさん、では、おれいにあなたを──」
『りゅうぐうじょうにつれていきましょう』→【10】
『わたしのしゅじんにさせてください』→【11】
【8】
「──ッ!」玄武がその巨岩のような体に似つかぬ速度で反応する。しかし遅い。何か細い金属のような物が、斬、と閃いた。「……何者だ」僅かに焦燥を募らせる玄武。甲羅に走った、一筋の傷──それは。「ほぉう? 北亀神宮を治める護世四神ともなれば我が退屈も紛らわせられると思っていたが……あいや、玄武などと大層な名を掲げておきながら、その実ただの木偶であったか。これではまだ、鮪とでも戦っていた方が有意義というものだったかな?」──釣り針がつけたものだった。
→【12】
【9】
かめはこたえました。「はい! あなたをりゅうぐうじょうにつれていってあげましょう!」「りゅうぐうじょう?」しまこはりゅうぐうじょうなんてきいたことがありません。「りゅうぐうじょうって、どこにあるの?」「うみのなかです!」「え──」
『「うみのなかにおしろがあるの?」』→【13】
『「それ、しんじゃわない?」』→【14】
【10】
「りゅうぐうじょう?」「はい。うみのそこにあるすてきなおしろです。ぜひ、たろうさんをごあんないしたいのです」かめはきらきらしたひとみでいいました。それにたいしてたろうは──
『うなずきました』→【15】
『うなずきませんでした』→【16】
【11】
「しゅ、しゅじん……?」たろうはじゃっかんひきました。「いや、べつにそういうのまにあってるっていうか……」「まあまあそういわずに」かめはぐいぐいきます。「ね? ね? いざとなればひじょうしょくにもなりますから」「このかめやべぇぞ」「やばくなんてないですよぼくのあいをうけとれないっていうんですか!」「めんどくさいなぁ……」しかたなくかめのしゅじんになることにしたたろうでしたが……
→【17】
【12】
玄武を相手に一歩も引けを取らない青年の威容に、息を呑む少年たち。「一体誰なんだ、あいつ」「……太郎。浦島太郎だ、あいつ!」少年たちが口々に声を上げる。「ここらに住んでる釣り人らしい」「なんでも日々強者を求めている戦闘狂だとか」「西虎神宮の白虎もあいつが仕留めたって」「鮫には勝てるが鯵には滅法弱いって聞いたぞ」「おい、見ろ!」少年の一人が叫ぶと同時、太郎が一際大きく竿を構えた。「さぁて──」
『≪竜宮崩し≫を繰り出す』→【18】
『≪乱れ釣り針≫を繰り出す』→【19】
【13】
しまこはめをきらきらさせました。「うみのなかにおしろがあるなんてすてき!」「そうでしょう? ささ、いきましょう」「うん!」しまこはりゅうぐうじょうにむかいます。たすけたかめにつれられて。
→【20】
【14】
「いやいやしにませんよ!」「それ、あなたがかめだからでしょ?」「え?」「にんげんはふつうおぼれてしんじゃうよ」「え……」ぜっくするかめ。そのかおは「まじか」とかたっていました。「わたし、かえるね。それじゃ」「あ、あの、まって、あの、あ、あ……あ、ありがとうございましたぁー!」みんなも、きちんとおれいがいえるにんげんになろうね。
【say the "thank y[O]u"】【Oエンド】
【15】
「うん。それじゃあ、つれていってもらおうかな」「わぁい! さっそくいきましょう!」かめはうれしそうにいいました。「ささ、こうらにのってくださいな」「よぉし、いざ、りゅうぐうじょうへ!」たろうはたすけたかめにつれられて、りゅうぐうじょうにむかいます。
→【21】
【16】
「いいや、俺はあんたを助けたわけじゃねぇ。ただあのガキンチョどもをどかしたかっただけさ。あばよ、亀さん。今度は意地の悪ぃヤツらに捕まるんじゃあねぇぜ」そう言って太郎はクールに立ち去った。悠然と竿を構えた太郎の後ろ姿を夕陽が照らし出す。「太郎さん……キュン」亀が恋に落ちた音は、潮騒に飲まれて誰にも聞こえることは無かった。
【lo[V]ing turtle】【Vエンド】
【17】
数年後。「亀さん。僕、もう限界だ」「え……そんな! やめてください! ぼく、太郎さんがいなくなったらどうやって生きていけって」「海にでもどこでも行けばいいだろ!」「──ッ!」初めて聞く太郎の怒声に、亀は衝撃を隠しきれない。「もう……うんざりなんだ。君の、そういうの。やめてくれってずっと言ってただろ」「そんな……」「じゃあね。もう会うことは無いよ」「あ……太郎さん!」亀の言葉を待たず家から立ち去る太郎。亀が作っていた晩ごはんは、すっぽん鍋だった。
【crazy cannibalis[M]】【Mエンド】
【18】
「そら、耐えてみせろよ」太郎の声と同時、玄武が巨木のような豪腕を振るう。だが、地を蹴り抜き遥か上空を舞う太郎にはかすりもしない。大上段に振りかぶった竿を太郎は──「我が竿の一薙ぎ、深海の強圧と知れ──いざや砕かん! ≪竜宮崩し≫!」──豪、と振り下ろした!
→【22】
【19】
「そら、ついて来てみせろ──電光石火、≪乱れ釣り針≫!」言葉と同時に太郎の手元が閃く。その手捌きはあまりに高速すぎて少年達には捉えることさえできない。「ぐ、ぐぅぅ────」玄武が呻く。その体には少しずつ傷が増えていっている。「一体何がどうなって……」「釣り針だ」「釣り針?」「太郎が高速で竿を動かして、釣り針で玄武を攻撃しているんだ。その速さが釣り針の重さを補って攻撃力を高めている。しかも竿のしなる性質と相まって、三次元的な動きになっているのさ。どこに動いても全方向から釣り針が襲ってくる、言わば不可視の檻……≪乱れ釣り針≫、神業としか言いようがないよ」「いやお前はなんでそんな詳しいの?」少年達が解説する少年に眼鏡を幻視していると「ぐぉ、あああ────」遂に玄武が倒れた。その衝撃で砂塵が舞い、地が震え、少年達は再び膝をつく。視界が晴れる頃には、玄武はピクリとも動かなくなっていた。「やれやれ。これではまだ西の虎の方が手応えがあるというもの」引導を渡した張本人は、あくまで悠然としている。「……まあ、これで向こう半年くらいは食うに困ることはないだろう」「いやそれ食べるのかよ!」自分達より圧倒的な強者に対してもツッコむ時は臆さない少年達。彼らは後に、大物になったという。
【[H]uge foodstuff】【Hエンド】
【20】
「うわぁ。きれいだね」うみのなかをおよぐかめのせなかで、しまこはいいました。「おさかなさんたちがひらひらおよいでる。すてき!」「そうでしょう。ささ、もうすこしでりゅうぐうじょうにつきますよ」「もうついちゃうの?」ものたりなさそうなしまこ。そのようすにかめは──
『よりみちをした』→【23】
『よりみちをしなかった』→【24】
【21】
「わあ、うみのなかってすてきなところだね。あれはたいかな。おいしそう!」「りゅうぐうじょうにいったらおなかいっぱいたべられますからね」「ほんとう!?」がぜんたのしみになってきたたろう。そのようすにかめもうれしくなってきました。「……あれ?」そのかめが──
『かわいいさかなをみつけました』→【25】
『きれいなさかなをみつけました』→【26】
【22】
鼓膜が割れんばかりの爆音が響いた。少年達は耳を塞いで蹲っている。その音の発生源──太郎の竿が叩きつけられた玄武の甲羅には、しかし一筋のヒビが走ったのみだった。「ふぅむ……流石は音に聞こえし四神が一柱、これしきで折れては手応えが、無──」太郎の言葉が止まる。それは、口から溢れた血が原因だった。「ご、はぁ──ぬかった、か……」太郎の胸を貫いたのは、玄武の尾から伸びた──否、玄武の尾そのものである、白蛇。「哀れ。釣り人風情が随分驕ったものよ。我が動きを封じる技の一つでもあれば、あるいは違う結末もあったやもしれぬがな」太郎の虚ろな目から生気が消える。残された少年たちは逃げ惑うが、誰一人として生きて帰れた者はいなかった。
【[W]hite snake】【Wエンド】
【23】
「せっかくなのでもうすこしよりみちしていきますか」「ほんとう!? ありがとうかめさん! すき!」「え、ちょ、はは、てれるなあ」おたくのようなきょどうのかめさんですがしまこはとくにきにせず、ふたりはうみのなかをたのしみました。「さんごしょう、きれいですね」「あれ、かくれくまのみかなぁ」「いそぎんちゃくがあるし、そうでしょうねぇ」ふたりは──
『もうすこしよりみちをしました』→【27】
『りゅうぐうじょうにむかいました』→【24】
【24】
「ほら、みてください。あれがりゅうぐうじょうですよ」「わあ、おっきいねえ……!」しまこがめにしたのはけんらんごうかなおしろでした。あたりをひらひらしたかざりをつけたさかなたちがおよいでいます。「あ、かめ! かめなのね!」そこへあらわれたのは──
『おとひめでした』→【28】
『かめのははおやでした』→【29】
【25】
「ねえねえ。ぼくのぱぱをしらない?」かめがみつけたのはかくれくまのみのおとこのこでした。「きみ、まいごなの?」「わ、にんげんのおとこのこだ!」「まいごみたいですねぇ。どうしますか?」「うーん、かわいそうだし、おとうさんをさがしてあげよう」「ぱぱをさがしてくれるの? ほんと? ありがとう!」かくれくまのみのおとこのこはふあんなようすからいってん、うれしそうになりました。
→【30】
【26】
「あら、きれいなおさかなさんがいますね」しおのはやいところで、ふたりはさかなをみつけました。「みたことないおさかなさんだけど……あれ? けがしてるのかな」みてみると、どうやらひれにはりのようなものがささっているようです。たろうはたすけてあげることにしました。「おさかなさん、このはり、とってあげるね」「あ、ありがとうございます。あなたはわたしのおんじんです」そういって、きれいなおさかなさんはかえっていきました。「いまのさかな、どこかでみたことあるような……」「かめさん、どうかした?」「いえ、なんでもありません。さあ、いきましょう!」きぶんをきりかえ、ふたりはりゅうぐうじょうへむかっていきます。
→【31】
【27】
よりみちをするうちに、どこかくらいところまよいこんでしまったふたり。「だいじょうぶかなぁ」「……」「かめさん?」「……」「ね、ねえちょっとかめさん? かめさんってば」かめさんはまったくへんじをしません。「ねえ、かえれる? かえれるんだよね?」「……」「ま、まさかとはおもうけど、かめさん」「……」「……そうなん、したの?」「……そうなんです」「いってるばあいか!」これからふたりがすうじゅうねんまようことになるのは、またべつのおはなし。
【accide[N]t story】【Nエンド】
【28】
「おとひめさま!」しまこをおろし、かめはおとひめにかけよっていきました。「おとひめさま~」「ああかめ、もうあえないかとおもっていたわ!」「ぼくもですおとひめさま~」かんどうてきなさいかいです。かやのそとのしまこも、うれしそうにそれをみていました。するとおとひめが「あら、あなたがかめをたすけてくれたのね。なまえはなんていうの?」ここではじめて、しまこのほうをむきました。しまこはいいました──
『「うらしまこっていいます」』→【32】
『「きれいなひと……」』→【33】
【29】
「お、おかあさん!」「もうどこにいっとってん! しんぱいばかけさしおって!」「ご、ごめんよ」「そげんこついって! おっかぁはもうおめがたおれてねがしんぱいでしんぱいで……およよよ」「わ、お、おかあさん! しんぱいかけてごめんね!」しまこはおもいました。「おかあさんほうげんめちゃくちゃじゃない?」こえにでてました。
→【34】
【30】
「に○! ○もじゃないか! やっとあえた!」「ぱぱー!」それはしまことかめがりゅうぐうじょうへいくというもくてきをわすれてしまうほどの、ながいながいぼうけんでした。それだけあって、ふたりのかんどうもひとしおです。「うう……やっと……やっとあえたね……」「ながかったですね……でも……ほんとうによかった」みずのなかでなおにじむしかいに、○ものぱぱがうつりました。「ありがとう。ほんとうに、なんておれいをいったらいいか……!」「ふふ。おれいならもうもらいましたよ」「え?」しまこはかめとかおをみあわせてほほえみました。「おやこがさいかいするしあわせが、なによりのおれいです」そういいのこし、ふたりはさっそうとさっていきました。まだみぬ、まいごのさかなをすくうために。
【[F]ish saver】【Fエンド】
【31】
「ほら、みてください。あれがりゅうぐうじょうですよ」「わあ、おおきいなあ……!」たろうがめにしたのはけんらんごうかなおしろでした。あたりをひらひらしたかざりをつけたさかなたちがおよいでいます。「あ、かめ! かめなのね!」そこへあらわれたのはおとひめでした。「お、おとひめさま~!」たろうをおろし、かめがおとひめにかけよります。「よくぶじにかえってきましたね、かめ。わたしはとてもうれしいわ」おとひめはかめとのさいかいもそこそこに、たろうにかけよりました──
『「ありがとう。あなたがかめをたすけてくれたのね」』→【35】
『(あれ……このにんげん、どこかでみたことがあるような……)』→【36】
【32】
「しまこさんっていうのね。すてきなおなまえだわ。かめをたすけてくれたおれいに、ぜひ、おもてなしさせてくれないかしら?」おとひめのていあんに、しまこはうなずきました。「ありがとう!」「おれいをいうのはこちらだわ。さ、どうぞなかにはいって」
→【37】
【33】
「え?」「あ、ああ、ごめんなさい。こんなにきれいなひと、みたことなかったから……」「あら、あらあら、うふふ、ありがとう……」なにやらおたがいにてれあっているしまことおとひめ。かめはそんなふたりを「とうといてんかいになるきがしますねぇ」おたくみたいなめでながめていました。
→【38】
【34】
おやこのさいかいをみとどけたあと、しまこはちじょうにかえりました。かめはりゅうぐうじょうでしまこをもてなしたかったのですが「だめだだめだ! いくらこんおひとがおめはたすけてくれたかて、きまりはきまりっちゃけ。にんげんなんていれるこつはできなか。とゆうか、こんにんげんがじつはおめはいじめとったんでねが!?」かめのおかあさんが、そういってききませんでした。なくなくかめにおくられて、もどってきたしまこ。「……おなかへったなあ」そのすがたは、どこかさみしそうでした。
【monster [P]arent】【Pエンド】
【35】
「おれいがしたいわ。さあ、なかにはいって」いわれるがままに、たろうはりゅうぐうじょうのなかにはいりました。
→【39】
【36】
「どうかしましたか?」おとひめをみつめるたろう。「い、いいえ、なんでもありませんわ。さあ、かめをたすけたおれいをしなくちゃ。おしろのなかにはいって」おとひめのかおがいつもよりあかかったことに、きづくひとはいませんでした。
→【40】
【37】
りゅうぐうじょうのなかにはいったしまこは、まずおとひめおてせいのごちそうをいただくことになりました。ふるまわれたのはごうせいなさかなりょうりです。「さあ、たあんとおたべになって」ごちそうをめのまえにしたしまこはつい、いいました──
『「とってもおいしそうね!」』→【41】
『「さかなりょうり……なんですね?」』→【42】
【38】
「さあ、まずはわたしのつくるごちそうをおたべになって」そういうおとひめに、しまこはおどろきます。「こんなにおきれいなのに、おりょうりまでおじょうずだなんて……!」「もう、そんなにほめないで。てれてしまうわ」「あはは、ごめんなさい」「……えへへ」「とうとさがたかまってきましたわー!」かめがきもちわるいです。
→【43】
【39】
「まずはごちそうをたべてほしいわ。ささ、めしあがって」たろうはさっそくふるまわれたごちそうをたべようとしました。まずてをつけたのは──
『ふぐのおさしみです』→【44】
『あじのおさしみです』→【45】
【40】
たろうにふるまうためにりょうりをつくるといったおとひめですが「あいたっ!」ほうちょうでゆびをきってしまいました。「ひめ! だいじょうぶですか!」みかねたえいのえいへいがかけよってきます。「だいじょうぶよ。すこし、ぼうっとしてしまって」「そうですか」そのごもりょうりをつくるてがおぼつかないおとひめ。そして──
『りょうりがかんせいしました』→【46】
『りょうりはかんせいしませんでした』→【47】
【41】
「ええ、そうでしょう。さあ、どうぞ」「いただきまーす! おいしい!」まぐろのおさしみにしたづつみをうつしまこ。つりをしてくらしてきたしまこですが、こんなにおいしいさかなりょうりはたべたことがありませんでした。
→【48】
【42】
「え、ええ。魚料理ですが……それが何か?」「おかしいとは思いませんか? こんな夢のような場所で、魚だけの料理……周りにいるのはみんな魚なのに……乙姫様、あなただけは人の姿をしている。さらには魚が食べるためのものがどこにもないなんて……これではまるで、ちぐはぐじゃあないですか」貼り付けたような笑みを浮かべる乙姫。島子との間に流れる、不穏な静寂──それを破るかのように「違和感を覚えた時……既にもう、敵の攻撃は始まっているのねッ!」料理を薙ぎ払いながら、島子が走り出した!
→【49】
【43】
なんだかんだでおとひめのりょうりをたのしんだしまこ。つづいて、さかなたちがおどりをひろうしてくれるようです。「このおしろで、いちばんめとにばんめにおどりのじょうずな、たいとひらめのふたりがおどるのよ」それをきいたしまこはいいました──
『「とってもたのしみ!」』→【50】
『「おとひめさまはおどらないの?」』→【51】
【44】
太郎がフグの刺身を食べると、ほどなくして体が痺れるような感覚が襲ってきた。「あの、乙姫さん。これは」「あら、もう効いてきたのね」「効いて……?」霞む視界。狂う平衡感覚。「……竜宮城に来てくれて、ほんと助かったわ。私の大事な亀をいたぶった人間に、どうしても仕返しがしたくって」「そんな……僕は亀を、助けて──」「人間なんてどいつもこいつも一緒よ。さようなら……ええと、なんて言ったかしら。人間の名前なんてとても覚えていられないわね」みるみる青ざめていく太郎の顔。暗転する意識の中で最後に映ったのは、蔑むような乙姫の瞳だった。
【cold eye[S]】【Sエンド】
【45】
「おいしい!」「でしょう? さあ、もっとおたべになって」あまりのおいしさに、たろうのごちそうをたべるてがとまりません。すべてたいらげるころには、たろうのおなかはもうぱんぱんになっていました。「つぎはたいとひらめのまいおどりですわ」
→【52】
【46】
なんとかかんせいしたりょうりをもってきたおとひめ。「ずいぶんじかんがかかってしまってもうしわけありません。こちら、おもてなしのおりょうりですわ」しかしたろうはりょうりなどみてはいません。「そのて。けがしてるじゃないですか」「いや、これは、その」「みせてください」ゆびのきりきずを、もってきていたくすりでちりょうするたろう。「どうしてくすりなんて……」「ぼくもふだんからはりをつかうので、よくけがをするんです。はい、できた」おとひめのかおは、いっそうあかくなってしまいました。
→【53】
【47】
「ごめんなさい……」おとひめがもってきたのは、くろい、なんか、その、けいようしがたいぶったいでした。「これは……」「すみません、こんなの、たべられないですよね」なきそうなおとひめをみかねたたろう。おもむろにぶったいえっくすをたべると──「んへあぽもぎゃほんっ」きみょうなこえをあげ、たろうはばたんとたおれてしまいました。それからにどと、たろうはおきあがりませんでした……
【material [X]】【Xエンド】
【48】
つぎにしまこは、たいとひらめのまいおどりをみました。「あんなにきれいにおどれるなんて、すごいなあ」せんれんされたうごきというのは、いつでもひとのこころをかんどうさせるものです。さて、つぎにしまこは──
『りゅうぐうじょうをたんけんしました』→【54】
『かえろうとしました』→【55】
【49】
「チッ、追え!」曲がり角を利用し身を隠す島子。気づけば乙姫は異形の魚に姿を変え、料理も廃棄物のような物になってしまっている。「……いいえ……きっと、あれが料理だと思っていた物の本来の姿なんだわ……これがあいつの能力? いいえ、違う……認識を騙すのは、きっとこの城の能力……」持ち前の直観で状況を理解する島子。「いたぞ!」エイの衛兵が叫ぶも、島子のハイキックで吹き飛んでいく。「留まるのは得策ではないかしら……ここは──」
『攻め込む』→【56】
『留まる』→【57】
【50】
たいとひらめのおどりは、とてもうつくしいものでした。「たのしかったなあ。そろそろかえろうかな」しまこがそういうと、おとひめはあるものをよういしました。
→【58】
【51】
「え?」「だから、おとひめさまはおどらないの?」「わたしは……」おどおどするおとひめに、しまこはいいました。「じゃあ、ふたりでおどらない? ふたりでおどれば、きっとたのしいよ!」「……うん」ふたりはてをとりあってぶたいにのぼりました。たいとひらめも、えがおでむかえます。「はあはあ……むり……とうとい……しんど……」かめはそろそろげんかいです。
→【59】
【52】
たいとひらめのおどりをたのしんだたろうは、いよいよかえろうとしました。「ありがとう。とてもたのしかった。いつまでもここにいたいけど、そろそろかえらなくっちゃ」「そう……ですか。それでは、さいごにこれを」そういっておとひめは、おおきなはこをたろうにわたしました。「これは?」「これは、たまてばこです。ちじょうにつくまで、ぜったいあけてはなりませんよ」
→【60】
【53】
つづけてたいとひらめのまいおどりをたのしんだたろうですが、そのさいちゅうも、なぜだかおとひめのことがきになってしかたありませんでした。かくいうおとひめも、たろうのことがきになるようす。たがいにうわのそらのまま、たろうがかえるじかんがちかづいてきました。
→【61】
【54】
りゅうぐうじょうのなかはとてもふしぎでした。「あれはなに?」「ああ! そこにはいってはいけません!」「え──」おとひめのせいしをきかずにしまこがはいったのは、たくさんのはこがつまれたへやでした。「しまこさん!」とびらがしまるとそのしょうげきではこがおちてきてしまい──!
→【62】
【55】
「もう、かえってしまうのですね」おとひめはさみしそうです。「かめ」「こちらを」かめがよういしたのはおおきなはこでした。「これは?」「これは──」
『「たまてばこです」』→【58】
『「おべんとうです」』→【63】
【56】
「のこのこと……来たなァ~人間風情がァ~!」部下らしき兵隊を蹴散らし、再び乙姫と対峙する島子。先手を打ったのは乙姫だった。不揃いの歯がミサイルのように発射され、島子を猛追する。島子は軽やかに跳躍し回避、勢いのまま乙姫に肉薄した。「ふんッ! この城に入った時点でアンタはもうおしまいさ! 大人しく海の藻屑になりなァーーー!」乙姫のヒレが鉤爪のように変化し島子を襲う──その時。「いいや、おしまいなのはそっちよッ! ──≪釣り人の青≫ゥーーーッ!」島子がオーラの力を人型の≪傍らに立つ者≫として具現化したッ!
→【64】
【57】
留まり戦況を見極めようとするも、迫る兵隊に苦戦を強いられる島子。そして遂に「くたばれぇっ!」エイの衛兵の連撃に「ぐああっ!」島子は倒れてしまった。「ふん……苦労させおって、人間風情が。単身海の底に乗り込むなど愚の骨頂なり」エイの鋭利な槍に貫かれ、島子の体は海に投げ捨てられてしまったのだった……
【[R]ay soldier】【Rエンド】
【58】
「たまてばこ?」「ええ。ちじょうにつくまで、ぜったいにあけてはなりませんよ」そうして、しまこはかめのせにのってちじょうにもどっていきました。そのとちゅう、うみのなかでしまこは──
『たまてばこをあけた』→【65】
『たまてばこをあけなかった』→【66】
【59】
すべてのおもてなしがおわりました。「わたし、そろそろかえらなくちゃ」しまこがかえろうとしたとき、おとひめがいいました──
『「これをもっていって」』→【67】
『「ほんとうにかえってしまうの」』→【68】
【60】
そうしてちじょうにもどったたろうは、なにかがおかしいことにきづきました。じぶんのいえがないのです。「これはいったい……」そこへ、こどもたちがとおりかかりました。「きみたち。うらしまたろうのいえをしらないかい」たろうがきくと、こどもたちはこたえました。「うらしまたろう? むかしここにすんでたひとなら、ずっとかえってこないってんで、いえはこわされてしまったよ」たろうはしょうげきをうけました。
→【69】
【61】
「これをおもちになってください」おとひめはたろうに、たまてばこをわたしました。「としおいるまで、けっしてあけてはなりませんよ」たろうははこをうけとり、おとひめにききました。「あの、おとひめさん。あなた、ぼくとあったことがありませんか?」「え!?」「いえ、あなたが、まるでぼくをしっているかのようにふるまっているきがして……」するとおとひめはすこしうつむき、そして、いをけっしていいました。「あなたが、むかし、わたしのいのちをすくってくれたひとにそっくりだったのです。わたしはそのひとにおれいをするために、こうしてうみのそこにおしろをたてた。……もっとも、おおむかしのはなしなので、たろうさんだとおもったのは、わたしのかんちがいなのでしょうけれどね」いいおえるとおとひめはたろうをみおくりました。たろうはなぜか、むねがざわつくようでした。
→【70】
【62】
きがつくと、しまこはけむりにつつまれていました。けむりがはれると「ああ、なんてこと……」おとひめのめのまえには、こどもになったしまこがいました。「このはこは……いずれときをためるひとのはこ。じかんのいんががぎゃくてんし、わかがえってしまったのですね」じゅうにさいほどだったしまこは、さんさいほどのすがたになっていました。「ごめんなさい、しまこさん……」さんさいのしまこには、しかしじょうきょうがどれだけざんこくなのか、りかいすることができませんでした。
【[Q]uarter age】【Qエンド】
【63】
「どうちゅう、たべながらかえってくださいね」おとひめのきづかいに、おもわずえがおになるしまこ。たのしいおひるごはんをおえちじょうにもどったしまこは、そのごもへいわにくらしましたとさ。めでたしめでたし。
【happy [L]unch】【Lエンド】
【64】
「海の藻屑になるのはそっちよッ!」≪釣り人の青≫が乙姫を捉え、まるで水面を荒ぶる飛沫のような乱打を喰らわせるッ!「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ、シマァァーーーーッ!!!!」「ぐあああああっ!」乙姫が倒れる。同時に竜宮城も崩壊を始めた。「さよならよ、乙姫」島子は崩壊する城を眼下に、地上を目指す。遥か上には、太陽の光が輝いていた。
【[U]nder the sun】【Uエンド】
【65】
「な、なにをしているんですかしまこさん!」「ついできごころでー!」けむりにつつまれるかめとしまこ。としおいてちじょうへもどれなくなったふたりは、うみのそこでくちはてるのをまつだけでした……
【sudden [I]mpulse】【Iエンド】
【66】
ぶじ、ちじょうへもどってきたしまこ。しかし、いえがみあたりません。「もしかしてここ、ちがうかいがんなのかな」しまこはうみぞいを、しばらくあるくことにしました。
→【71】
【67】
おとひめがわたしてきたのは、たまてばこでした。「ちじょうへもどるまで、それをあけてはだめだからね」「うん」「たのしかった、ありがとう、しまこ」「こっちこそ、ありがとう、おとひめ」どちらともなくなみだごえになるふたり。かめがみえなくなるところへしまこをつれていくまで、ふたりはなきながらてをふりあいました。
→【72】
【68】
「え?」「かえらないで、しまこ!」おとひめがとつぜん、しまこにだきつきました。「わたし、はじめてなの。こんなにたのしかったの。こんなにいとしくなるの。こんなに……さみしくなるの」そのからだはふるえていました。「ずっとここで……いっしょにくらそうよ、しまこ……」おとひめをだきしめるしまこは──
『かえりました』→【73】
『かえりませんでした』→【74】
【69】
たろうはこまりはててしまいました。「こうなったら、たまてばこをあけるしかないのか……」たろうはたまてばこを──
『あけました』→【75】
『あけませんでした』→【76】
【70】
とちゅう、しおのながれがはやいところでたろうは、このあたりできれいなさかなをたすけたことをおもいだしました。「しおがはやいですねぇ。そういえばしっていますか? たろうさん」「なにをだい?」「しおのながれがはやいところって、じかんがいりみだれるらしいですよ」たろうはくびをかしげます。「どういうこと?」「このあたりでは、かこのひともみらいのひとも、みんなおなじじかんにいるかもしれないってことです」「それって──まさか──」たろうのなかでなにかがつながりかけたとき、ひときわつよいすいりゅうがおそってきました!「た、たろうさーん!」たろうはのみこまれ、かめからはなれていきます!
→【77】
【71】
しまこはしばらくかいがんをあるいてしまいましたが、とうとうつかれてしまいました。「こまったなあ。そうだ、たまてばこがあったなあ」しまこはたまてばこを──
『あけました』→【78】
『あけませんでした』→【79】
【72】
そしてしまこはちじょうにもどってきました。しかし、いえがみあたりません。「どうなってるの?」こまったしまこは、たまてばこをあけることにしました。
→【78】
【73】
地上に戻った島子。知っているものが何もかも無くなっていたが、乙姫との楽しい時間を思い出せば、不思議と何でも乗り越えられる気がした。「素敵な思い出をありがとう、乙姫」愛用の竿を一層強く握り直し、島子は歩き出した。「私、一生忘れない」涙の乾いた横顔は、とても晴れやかだった。めでたしめでたし。
【radiant fa[C]e】【Cエンド】
【74】
「私、帰らないよ」「島子……!」抱きしめてくる乙姫を、一層強く抱きしめ返す島子。「帰らない。ここで乙姫と暮らす」「でも……あなたには、地上の生活が……」感情的に引き止めながらも現実的な心配をする乙姫に、島子は笑って言い返した。「どうせ釣りしかしてこなかった人生だもん。きっと戻っても同じことを繰り返してた。でも……ここでなら、また新しい人生を送れる。でしょ?」「し、島子ぉ……」乙姫の目に大粒の涙が溜まる。「もう、泣かないで乙姫」島子が乙姫を優しくなでる。「……ねえ、乙姫」「なに?」「私と一緒に、暮らしてくれますか?」島子の言葉に、遂に乙姫の涙が零れ落ちた。感情はとても言葉にはならず、ただ繰り返し頷くことしかできない。「感動的ですねぇ」何故か亀も号泣していた。それから二人は海の底、竜宮の名のついたお城で、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
【beautiful lil[Y]】【[Y]エンド】
【75】
「うわあ!」たろうがたまてばこをあけると、なかからけむりがもくもくでてきました。「げほっ、げほっ」けむりがはれるとそこには……「な、なんじゃこれは!」なんとたろうはおじいさんになってしまいました。こまってしまったたろうは──
『うみにとどまりました』→【80】
『やまにむかいました』→【81】
【76】
「でも、こまったらじぶんのちからでみちをきりひらかなくちゃ」たろうはたまてばこをそのままに、かいがんにあったざいもくでいえをつくりました。「あんがいたのしいなこれ」それからでぃーあいわいにめざめたたろう。すうねんご。つりびとをやめたたろうはだいくのとうりょうになっていました。「おやかたってすげぇっすよね。どんなじんせいおくったらそんなすごくなれるんすか?」「そうだなあ。こまってるかめを、まよわずたすけてあげたからかな」たまてばこは、いまでもたろうのたからものです。
【[G]reat carpenter】【Gエンド】
【77】
すいりゅうにながされるたろう。いしきがもうろうとしてきました。(でも……ここでしぬわけには……!)たろうは──
『いしきをたもった』→【82】
『いしきをうしなった』→【83】
【78】
「うわあ!」はこからでてきたけむりに、しまこはおどろきました。「げほげほ」けむりがはれると、そこには……「な、なんじゃこりゃあ!」おばあさんになったしまこのすがたがありました。それからしまこはときおりおとひめたちのことをおもいだしながら、こどくによせいをすごすのでした。
【old alon[E]】【Eエンド】
【79】
しまこはたまてばこを、たからものとしてそのままにもっておきました。それからしまこはまた、つりをしてすごすせいかつにもどりました。それはいぜんとかわらないせいかつでしたが……「あっ!」たまにさかなやかめがてをふってくれるようになったのは、しまこにとってはうれしいへんかでした。
【usual [D]ays】【Dエンド】
【80】
うみにとどまったたろうは、そこでよせいをすごしました。「なあなあ、あそこにすんでるうらしまってじいちゃん、めちゃめちゃつりがうまいんだぜ!」きんじょにすむしょうねんたちは、たろうをめいじんとよびます。「めいじんさーん!」「さんはいらぬ。うらしまめいじんとよぶのじゃ」「おす! うらしまめいじん!」なんだかんだ、たろうはたのしくすごしましたとさ。めでたしめでたし。
【m[A]ster urashima】【Aエンド】
【81】
やまにむかったたろうでしたが、そこでなにをするかはきめていませんでした。「さて……」たろうはやまで──
『いえをつくりました』→【84】
『しゅぎょうをしました』→【85】
【82】
意識を保った太郎。しかし、水流の勢いはより激しさを増す。(これ以上はもう……!)とうとう太郎は意識を失い、海の中に消えて行ってしまった。その後太郎の姿を見た者は、誰もいない。
【marine [T]ornado】【Tエンド】
【83】
意識を失った太郎。長い時の果て、目を覚ました太郎が横たわっていたのは、太郎の故郷である海岸だった。「う、うう……」意識を取り戻す太郎。痛む頭でここが故郷だと理解するや否や、太郎は何かに突き動かされるかのように海を睨んだ。「僕は……行かなきゃ、また。あの城へ!」太郎は玉手箱を手に、再び海へ飛び込んだ!
→【86】
【84】
すうねんご。やまでいんきょせいかつをおくっていたたろうは、だれにみとられることもなくしずかにいきをひきとりました。やさしいにんげんだったそのひとのことを、このじだいのひとは、だれもしりません。
【[K]ind hermit】【Kエンド】
【85】
やまでしゅぎょうをつんでせんにんとなったたろうは、ながいじかんのはてに、つるになりました。つるになったたろうはせかいじゅうをとびまわり、ひとびとをみまもりました。そしてさらにながいときのはてに、たろうはせかいのまもりがみとなるのでした。めでたしめでたし。
【crane the [B]eyond】【Bエンド】
【86】
海に飛び込んだはいいものの、息が続かなくなってしまう太郎。そこへ通りかかったのは──
『亀だった』→【87】
『クラゲだった』→【88】
【87】
「ああ、太郎さん。太郎さんなのですね」「亀……亀なのか?」それはとても年老いた亀だった。「はい。私です。亀です。水流に飲まれていなくなってしまったあなたを……私はずっと、ずっと、探し続けていました」感動の涙を流す亀だったが、太郎は驚きを隠せない。「お前、なんでそんなに年老いて……」「海の中は時間の流れが違うのです。さあ、行きましょう、太郎さん」「え?」「行くのでしょう、竜宮城。私が助けますよ」かつて助けた亀に、今度は自分が助けられる。その数奇な運命に身を委ね……「──うん! 行こう!」いざ、太郎は竜宮城へと向かう。
→【89】
【88】
「く、クラゲ!?」大群で押し寄せるクラゲ! 困惑する太郎!「ヒャッハー人間だ! 殺せ殺せ!」無数のクラゲから伸びる触手! 太郎は水中だから身動きが取れない!「死ねェー!」「グワァー!」南無三、太郎! 痺れる体は焼け焦げる!「キハハッ! やったぞやったぞ!」無情! 海に行く時は殺人クラゲに注意すべし!
【murder [J]elly】【Jエンド】
【89】
それはとても、とても長い道のりだった。ただでさえ年老いている亀の案内に加え、海は荒れに荒れている。しかし──「諦めるわけには……いかないんだっ!」太郎の鋼鉄の意志力が、折れそうな心を支えていた。数年が過ぎ、数十年が過ぎた、ある日。「ああ、やっと……」「つきましたね……竜宮城」亀と太郎の二人は遂に竜宮城へ戻ってきた。「ああ、亀! 亀なのね! もう、そんなに老いてしまって……」出迎えてくれたのは乙姫だった。年老いていても亀だと判断できるのは、情愛が故だろうか。「そちらのあなたが亀を助けてくれたのですか?」しかし乙姫は太郎を太郎と判断することができなかった。それもそうである。太郎は今、成人男性の姿をしているのだから。「──」『助けてもらったのは僕のほうです』太郎はそう言おうと思ったが、しかし、乙姫の変わらぬ姿に言葉が出ない。そのあまりの衝撃に、手から玉手箱が落ちる──カタン、と音を立て、玉手箱から溢れた煙がその場を包んだ──
→【90】
【90】
『良いのですか、乙姫様』かつて太郎が竜宮城を離れた時。エイの衛兵は乙姫に問いかけをしていた。『玉手箱とは本来、外界から訪れた人間に、海底と地上の時間差を反映させるための物。奴に渡すのは、年老いる煙が出る箱であるべき……でしょう』『ええ。そうでしょうね』『では何故、あやつに若返る箱を渡したのですか』衛兵は険しい表情を崩さない。乙姫は静かに瞳を閉じ、かつて自分を助けてくれた青年に思いを馳せた。『……淡い、夢なのです』『夢?』『きっと、あの人はもうここへ来ることは無いでしょう。それでも……』乙姫は目を開き、その麗しい瞳を海上に向けた。『彼があの人だというのなら。再び、長い時の果てにここを訪れることがあるのなら……また、あの時の彼に出会いたいと、そう願ってしまったのです』──そして現在。
→【91】
【91】
「ああ、やっと……やっとあなたに出会えた、乙姫」煙が晴れる。その姿は若い日の浦島太郎そのものだった。「あ、あなたは……まさか……」乙姫の目に涙の粒が溜まる。その体は震えていた。「あの日針を抜いて助けた綺麗な魚。あれがあなただったんですね」太郎は一歩、また一歩と乙姫に近づいていく。「──許してください、乙姫」「……え?」太郎の思わぬ一言に、乙姫の震えが止まった。「数十年前、僕が初めてここを訪れた時。僕はあなたが、あの時の魚だと気付くことができなかった」「そんな! 謝らないでください! こうして……こうしてあなたはまた、ここへ来てくれたではないですか! 長い時を……経て……!」乙姫の涙が決壊する。顔を覆って泣く乙姫を、太郎は優しく抱きしめた。乙姫はその体を強く、強く抱きしめ返す。と、同時に──「た、大変だ! 城が! 城が崩れていく!」『かつて助けてくれた浦島太郎に恩を返す』ことを目的に作られた竜宮城はこの瞬間その役目を終え、今まさに崩れ去ろうとしていた。「ひ、姫──」慌てる衛兵を亀が叱咤する。「慌てるでない!」「か、亀さん!?」「慌ててはできることもできん! 各々やるべきことをなすのだ!」「は、はっ!」衛兵が慌ただしく動き回る。その様子を乙姫は寂しそうに見ている。「……また、城を作りましょう」「え?」太郎の言葉を、乙姫は聞き返した。「城……?」「ええ。また、ゼロから始めましょう……僕たちの、新しい生活を」「……はい」──それから数年後。二人は新たな城を建てた。そこで幸せな人生を送ったのは、想像に難くない。
【from [Z]ero】