#067b 遺された言葉
大変期間が空いてしまいました! 投稿を再開します。
今スケジュールで完結いたします。
もしよければ完結まで、お付き合いいただけますと嬉しいです!
エオスブルク城の廊下をふたりは走る。
出会った衛兵から、『城の王エドモント・ドーン』は『謁見の間』にいる事を知った。そしてその場には王以外にも、城の重要な役職を持つ人物が集まっているらしい。
別塔に入り、さらに駆け――
驚く門番を顧みずに、アレクとセニアは勢いよく扉を開けた。
「わっ! なんだ」
「何ごとだ!」
『謁見の間』には話どおり人が大勢いた。
各大臣が八人に、衛兵長と衛兵たちが四人。そして段の上にある玉座にはエドモントが座っている。
全員、部屋に飛び込んだふたりに対して驚きの表情を浮かべた。
ひとりの大臣が口火を切った。
「お前たちはラルフ卿の。……ぶ、無礼であろう! 陛下がいるのだぞ。まず入る前に申し開きを、」
アレクは、構わず言い放った。
「ラルフ卿が、亡くなられました!」
「なに。ラルフ卿が、まさか」
少年の言葉と服についた血の跡に、大臣や衛兵たちはざわつきだす。アレクとセニアは彼らをじっと見かえした。
ふたたびアレクは続けた。
「暁の戦士ラルフ・ドーン卿は『襲撃事件の犯人』に殺されました。僕たちは彼が最期に遺した言葉を、――犯人を陛下にお伝えするため、ここに」
が、
「その『犯人』とやらは、お前たちであろう?」
「……えっ? それは、どういうことでしょうか」
大臣から、敵意に似たものを感じる。改めてまわりを見て気がつく。彼らの視線がなぜか鋭い事を。
大臣は言った。
「先立って、襲撃事件の犯人について貴重な証言があがった。『当時の現場近くで少年と少女の姿をみた』とな」追求する内容に反し、彼の声は震えている。
「犠牲者は黒魔術団がつかう銃弾を浴びていたぞ。まさかお前たちが。しかもラルフ卿さえ手に掛けたのか」
「……その証言は、どこから得たものですか」
「我はここで知った。もとはこの部屋に来た兵からだ。そうだろお前」
「は、はい!」ひとりの衛兵が大臣に反応する。
「衛兵団でそういった話が持ちあがりまして、いそぎ報告を」
「ん? 現場を見たわけではないのか」
そばにいた衛兵長が振り返った。
「は……はい。私は仲間から聞きました。その仲間は、えっと……。も、申し訳ありません! いままで正確にお伝えできず仕舞いでありました」
彼らの様子に、アレクは唇を噛みしめる。共同部屋の外でなにが起きていたか、やっと理解できた。
これは犯人の情報工作だ。僕たちが黒鎧たちを倒したときに備え、先手を打とうとしていた。
そんなとき、
「報告! 報告ッ!!」
扉を開けて衛兵がもうひとりやってきた。顔に見憶えがある。共同部屋の廊下で、ラルフの遺体を頼んだ衛兵たちのひとりだ。
「ラルフ卿が黒魔術団に殺されました! ご遺体は安置室に。また城内にも被害あり」
衛兵はさらに『黒魔術団を撃退した人物』についても話そうとしている。
しかし、間が悪すぎた。
「お前たち……やはり黒魔術団か!」
大臣の一言で戦慄がはしる。報告に来た衛兵は動揺し、その場にいた衛兵たちのロングソードを抜刀する音が鳴った。
衛兵長も剣を構える。
「覚悟しろ。我が同胞の、そしてラルフ卿の無念を晴らす。……いまここで」
剣身を晒した衛兵たちがゆっくりとにじり寄る。セニアはまわりを睨み、アレクは声を張った。
「僕たちの話を聞いてください!」
「戯れ言を。問答無用ッ!」
「まあ待ちなさいな皆の衆」
兵を呼び止めたのは背が低い老人、尚書官だった。
「陛下のいる場で殺生はおやめなさい。彼らの話も聞けぬし、我われの早とちりならば取り返しがつかぬぞ。……この場合はいちど牢に入ってもらうほうが良い。落ち着いたら話を伺おうではないか。どうかね」
「いいや爺。いま訊く」
謁見の間、玉座に座る男が動いた。エドモントはおもむろに立ちあがり、赤色の階段をおりてくる。
「へ、陛下!?」
驚く尚書官をエドモントは手で制した。
ふたりの前にきた城の王は、口をひらく。
「それで、きみたちが言う『犯人』とは誰だい?」
尋ねるエドモントに、アレクは小さく礼をする。
少年はある人物を指さした。襲撃事件、そしてオメガチームを操った張本人を。
「――『尚書官』です!」
謁見の間はとたんに静かになる。
指をさされた尚書官の老人は、ぎこちない笑いを返した。
「……は、ははは。なんとまぁわしが犯人? とんでもないですぞ、おふたりさん。この城に一番ながく就いておるわしが、こんな事件を?」しゃがれた声で畳みかけた。
「証拠はあるのかね? ん、無いであろう」
「ラルフ卿の証言がすべてです」
「はあ。……死人に口なしを知らないのかね」エドモントに顔を向けた。
「陛下。ですから皆が落ち着いたおりに」
「エドモント陛下!」アレクは言葉を遮る。
「『俺の一番弟子エドモントよ、信じろ』。そうラルフ卿は仰いました!」
――ふたたび、謁見の間に動揺の声が広がった。
「……なに。陛下が『一番弟子』?」
「我も初めて聞いたぞ」
「ラルフ卿の弟子はアレックス少年ただひとりと」
「いつから師弟の関係を……?」
ざわめきはとまらない。
だが、エドモントが動いた事をきっかけに、ささやきは止まる。
エドモントは、尚書官を刺すような目つきでみた。
静かな口ぶりで衛兵長をよぶ。
「衛兵長。この爺を、いや尚書官をすぐに捕らえよ」エドモントは言う。
「アレックス少年が述べたことは『事実』である」
――私は、ラルフの一番弟子だ――
「ふふっ……ふふふ、ふはははっ!」
部屋の沈黙が破られ、尚書官は笑いはじめる。まるで狂ったように。
特徴的なしゃがれ声は消え、ケタケタと笑い続ける姿に誰もが固まった。
尚書官はようやく笑うのをやめた。
「……これは驚いた。ボイドがそんなバックストーリーまで構築していたとはな。つくづくおめでたい奴らだよ」
セニアは叫んだ。
「あなた、いったい誰よ!!」
「俺か? ふっ」鼻で笑った。
「好都合だ……。この偽装はもういらん」
不敵な笑みをたたえる尚書官。つぎの瞬間、彼の身に変化がおきた。
低い背が伸びる。丸まっていた背筋も高く真っすぐな状態となり、衣服も背丈に合わせたものへと変化してゆく。尚書官であった面影はなくなり、顔だちも次第に変わっていった。
不気味な変化が終わったとき、現れた男をみたセニア、そしてアレクは驚く。
目の前にいる人物に、理解が追いつかなかった。
それは『特異点データ』の映像でみた人物。
白髪になった髪や顔のしわなどに時の流れを感じる。だがしかし、彫りの深い顔と鷹のような眼光、堂々たる雰囲気はまるで衰えていなかった。
――消滅した企業ミンカルの、二代目CEO――
「……テッド・クレイン」
これは現実だ。
「あんた、厄災で死んだはず……」
◇関連話◇
謁見の間
(二章#045b エオスブルク城)
https://ncode.syosetu.com/n3531ej/73
襲撃事件
(二章#062b エオスブルク城内襲撃事件)
https://ncode.syosetu.com/n3531ej/90
テッド・クレイン
(二章#036b 特異点データ)
https://ncode.syosetu.com/n3531ej/64





