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#066b オメガチーム

「……っ! ラル……」

 言おうとした口をつむぐ。歯を食いしばり、嗚咽をこらえた。

 力尽きた身体に腕をまわし、できるだけ優しく、ニッチ奥の壁にもたれさせる。両手を前に組ました。


 セニアもその様子をみていた。あたらしい突撃銃を発現しながら、彼女は静かに、彼をみていた。


「……やってやる」身体をセニアに向けた。

「セニア、ここを切り抜けよう。王様に会わなきゃ」


「そうね。やるだけやってみましょう」

 わずかな間のあと、彼女は小さく頬笑んだ。


「相手の様子はどう」


「銃弾を浴びせたけど全然効かない。いまは沈黙中。あの()どうも変ね」


「『ヨロイ』?」

 思わずニッチから廊下を覗いた。


 あれほど激しかった銃撃がいまは途切れている。廊下には、棒立ちでいる二体の『黒い鎧』。

 身憶えがある。あれは城内の装飾、

 『暁の鎧像』だ。


 どうしてあの黒鎧が……。まさかニッチが空なのはコイツ等が移動したからか。


 そのとき――

 一体の黒鎧の腕が動いた。


「アレク隠れて!」


 ニッチに身を隠した瞬間、無数の銃弾がニッチ近くの壁へと襲い掛かる。堅牢な石壁が瞬く間にバラバラと粉砕されていった。


「……危なかった」


「無闇に顔を出しちゃだめ」安堵の息をつきセニアが言った。

ケネスの証言(黒いアーマーを纏う兵)からして、確実にあれがオメガチームね。武器は完全に発現のルールを無視してる。けどまさか西暦二〇〇〇年代(・・・・・・・・)製だなんて……」


 黒鎧が、ふたたび突撃銃(TAR21)の引き金をひく。その形状はミラージュが用いる旧来の銃器とはまったく異なった姿。

 撃ちだす弾丸は速く、激しく、正確に、ニッチ近くの壁を壊していく。まるで、ふたりが潜むニッチまで届く穴を開けるかのように。

 もう一体の黒鎧も動きだす。別の突撃銃(F2000)を壁へ目がけ撃ちはじめた。


 セニアは六〇年代製の突撃銃(M16)で応戦する。魔術札入りのバッグが手もとに無いアレクは、剣を握りながらもどかしい気持ちを感じていた。


 セニアが放つ銃弾が一体の黒鎧の頭部に集中する。

 兜を吹き飛ばした。

「よし! はっ、うそでしょ……」


 吹き飛んだ兜の下に、生身の人間がいない。それどころか首元からは内部の空洞が見える。

 黒鎧は、中身が空(・・・・)だった。


 力なく前のめりになる黒鎧。だが次の瞬間、首元から青い火の粉をとばし、兜が再生を始めた(・・・・・・)


「……っ!?」

 もう片方の黒鎧の動きにセニアは気がつく――構えた手榴弾をニッチ目がけ投げようとしている。

 パイナップル型の爆弾が、宙を飛んだ。


 セニアは銃口で手榴弾を追い、射撃。放物線が前方からの力によって折れ曲がり、黒鎧のもとに落ちる。


 手榴弾が黒鎧のそばで炸裂した。



 広がった爆煙は廊下の微風に流されてゆく――

 しかし二体は、微動だにせず立っていた。穴が開いた胴体も青い火の粉とともに塞がる。


 頭部の修復を終えた黒鎧は腕をおろす。手元から黒い穴が出現。突撃銃を引きだしたのち、ふたたびニッチへ向けた銃撃の嵐がはじまった。

 隠れたセニアのそばの壁が削られていく。


「……嘘でしょ。アレク、奴ら人間じゃない」


「えっ!?」


「鎧のなかは空洞だった。それにあの火の粉……武器の崩壊現象と同じもの。……あれは一種のロボットよ」


 セニアが言う最中も、二体の黒鎧は鉛弾で壁を砕いてゆく。マガジンが空になればリロード。銃身が熱でやられたなら銃を再発現。その所作は効率的で無機質、かつ非情であり、血が通ったものがする動きではない。

 一歩も動かずに撃ち続ける異様さも相まって、セニアは震えた息を吐いた。


「まずい、突破口を思いつけない。このままだと手榴弾(グレネード)を投げ込まれて終わる……」


「セニア……」


「ケネスが苦しむ理由もわかるわ。動きに無駄がないもの。くっ!」


 そのとき、

「なんの騒ぎだ! ……ん、どうして鎧像が――」

 廊下の後ろに人の気配。銃声を聞きつけた衛兵が来たようだ。

 だが、

「ぐあっ!」


 黒鎧たちの射線が衛兵のいる方向に移る。銃弾が肉に当たる音と断末魔が聞こえた。


「……く、この!」

 敵の一方的な行為に憤りが湧く。堪えきれずアレクは廊下の黒鎧側を覗いた。射線はいまだ衛兵へと向けられている。

 銃撃を続ける二体の黒鎧。

 が、


「うん? あれ(・・)って、」

 アレクは、『あること』に気がついた。



 射線がふたたびニッチへ向けられる。急いで隠れた。


「ちょっと! 顔を出しちゃだめって言ったでしょ!」


「セニア。あの鎧たち、影がおかしい(・・・・・・)んだ」セニアに続けた。

「あるはずの影がない。代わりに『黒い線』が床に伸びてる。折れ曲がって後ろに伸びていたよ」


「影が、まさか?」

 セニアが動く。銃で応戦しつつ黒鎧たちの足もとをみた。

 ――黒鎧には影が落ちていなかった。あるのは細い漆黒の線。目を凝らせば、二体分の線は合流し一本となって伸び、後ろの丁字路を左に曲がっている。


 ニッチに身を隠したセニアは、口角を不敵につりあげた。

「そういうことね。ロボットなら操作する人物が居てしかるべき。あれ(・・)が配線の一種なら……! アレクありがと」


「標的は、黒い線っ!」

 セニアのM16突撃銃が火を噴いた。黒鎧の足もとに銃弾が叩き込まれる。石材でできた床が抉れ散り、鉛弾が『黒い線』を貫いた。


 効果はすぐに現れた。黒鎧の足がぐらつき、腕も下がる。銃撃がとまった。

 が、相手も抗う。


「くっ! 線が!」

 黒い線が銃弾を避けるように動きはじめた。


「逃がさない!」

 照準越しにセニアは線を追う。掃射する銃弾が一発、また一発と命中し、線は苦しむようにのたうち回る。

 線は『床に居座るのが不利』と判断したのか、左へ大きくずれ動く。側面の壁を登りはじめた。


「これで仕上げ(・・・)ね。アレク耳を塞いで」


「え、耳を!?」


 応えずにセニアは床に手のひらを置いた。

 武器を発現。引き出したのは、ロケットランチャー(RPG―7)

 壁に逃げた黒線に照準が重なる。


「……消えなさい!」

 引き金をひいた。


 炸裂音とともに弾頭が射出する。ブースターが火を吐き、空間を切り裂きながら。

 弾頭先端についた信管が、壁の線に触れた瞬間――


 黒鎧たちの廊下が爆風に包まれた。


――

 地響きがする程の轟音のあと、廊下は静かになった。アレクは伏せた頭を上げ、耳から手を離す。

 塞いでも耳鳴りが起きている。


「な、なにが……、えぇっ」

 廊下が滅茶苦茶に破壊されていた。粉塵と煙が舞い、壁は崩落して床になだれ込んでいる。


 黒鎧たちは崩れた壁に埋もれ、腕が一本露出している。

 そして青い火の粉を散らし、消えていった――


「倒せた、かな」


「ええ。わたしたちの勝ち」セニアは言った。

「ありがとう、本当に助かった」



 ふたりはニッチから出る。警戒しつつ近寄るがやはり黒鎧の腕は消え去っていた。だがまったく違う方向を見たとき、驚いた。

 ――共同部屋。その入り口近くに残りの『二体の黒鎧』が固まった状態で存在していた。どちらも腰から下が床に埋もれており、機能を停止している。持つ武器は長尺の山刀(マチェット)。青い火の粉を纏い、崩れゆく最中だった。


「コイツら、四体で襲うつもりだったの……。まさかあの二体が近寄らなかった理由って」


 ――銃撃でニッチに足止めをさせ、別の二体が山刀で襲う――

 想像したセニアは、寒気を憶えた。


「僕はバッグを取ってくる」

 アレクは、飛ばされたバッグを取りに向かった。


「いちおう報告を……」

 崩れた廊下を後ろに、セニアはミラージュ本部に通信をはじめる。


 通信に応じたのはマヤだった。

〔セニアちゃん大丈夫? こちらも位置情報のモニタリングはしてる。何があったの〕


「オメガチームと交戦、無事撃退しました。彼らはある種のロボットでした。四体のうち二体は機能不全を」


〔『ロボット』か……それはビックリだな。機能不全の件も興味深い。まあふたりとも怪我はないんだね、よかった。ハワードさんに伝えなきゃ、〕


「まだ報告することがあります。彼らの弱点を見い出しました。それと、……ラルフが――」


 そのとき、

「危ない、後ろ!!」


 アレクの声にセニアは振り返る。崩れた壁の破片が動きだし、そこから粉塵にまみれた黒鎧の背がみえる。

 消滅は一体だけだった。


 ぎこちない動きで上体を起こした黒鎧。立ちあがりながらセニアに腕を伸ばす。


 少年は声を張り上げた。

「セニア伏せて!」


 セニアが床に伏した瞬間――

 アレクが発熱の魔術札を挟み込み、『札術増幅剣』が熱の線を放った。

 超高温の線はプラズマ化した赤い空気を生みだし、一直線に黒鎧を直撃する。

 小さな破裂音とともに、黒鎧は溶け去っていった。


「……ふう。危なかった」


「あ、ありがとう」


 すると、後ろから乱れた足音が聞こえてくる。現れたのは四人の衛兵たちだ。

「爆発音はこのあたりだが、……な、なんだこれは! おいそこのふたり、何をした」


 廊下の惨状を目撃した衛兵たち、ひとりが詰め寄ってきた。

 ……これを、どう説明したら良いんだ。


 ――思い詰めるうち、アレクは閃いた。

「くろ……『黒魔術団』がやりました。どうにか撃退したところです」


「なに!? 奴らが城内にだと。……む、たしかに『あの威力』は奴らしか出せんか」

 衛兵が、ボロボロの壁と黒焦げになった廊下をみる。

 その表情から、なんとか騙せたようだ。


「僕たちは急ぎエドモント陛下のもとに向かわねばなりません。ラルフ卿が最期にそう仰っていました」


「……最期、だと」


「はい。さきほどの襲撃で……。ニッチにあるご遺体をどうか頼みます」


 衛兵たちにラルフを任せる。悲しむ気持ちをいまは抑え、ふたりは廊下を駆けだした。


◇関連話◇



 黒鎧

(二章#061b 軋み)

https://ncode.syosetu.com/n3531ej/89



 ケネスの証言

(二章#058b 三つの証言)

https://ncode.syosetu.com/n3531ej/86


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