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#051b 魔術札のカラクリ


「――つまりマヤ。僕の魔術って」


「うん。キミの魔術は、『ラルフが使用する魔術』とおなじ系統だった、というワケ」

 寝癖で乱れた黒髪を掻きながら、マヤは言った。


 ラルフの紋様が彫られた大剣『紅炎の剣』を調べたデータをマヤに渡して、およそ半月が経つ。彼女が導いた結論に、ただ驚くしかない。僕固有の魔術札とラルフさんの魔術は、同種の存在だった。


 しかも判明した事はさらにあるらしい、ちなみに彼女に元気がない理由は、大発見の嬉しさで二日間眠れず、その後寝込んでいたからだ。

「……このデータはね、いままで謎だった魔術のカラクリさえも教えてくれたんだ。ほんとすごい。いま見せるから」


 そう言うとマヤは、コンソールデスクから映像を映しだした。



 内容は以下のとおりになる。

 ――ボイドノイドの一部にしか使えないと考えられていた『魔術』能力は、実はすべての個体に抑制された状態で実装されていた。

 ――その種類は、『治療用の札』を除いたアレクが使う魔術とまったく同じ内容。

 ――魔術能力の発現には『しきい値』が存在し、各ボイドノイドにある程度の素質があっても、一般的にこの値を超えられず魔術が使えない。魔術を使う個体も、しきい値を超えたとして一種類が限度。

 ――だがラルフに関連付けられた大剣にはしきい値をわずかに下げる『因子』が、明示的に記述されていた。しきい値が下がる事で直下に隠れていた『溜め込み』と『発熱』の魔術が発現した事になる。

 ――大剣のデータを参考に魔術札を調べたところ、魔術札の未知のプログラムであり暗号化されていたデータの全解読に成功。

 結論として、『ラルフの剣』と『魔術札』には同じコードが使われているとわかった。



「ラルフを含めた『防衛特化型ボイドノイド』は二種類の魔術が使えたワケだから、……おそらく全員がこの特殊なコードを持っていたんだろう。けどキミの魔術札のほうがしきい値を下げる因子が非常によく働いてる。……正直、魔術の真相がわかった反面、『キミという存在』にはより謎が深まったカンジだね」


 マヤはため息をつく。それは疲労のせいとは違う、もっと明確なもの対してだった。


 いままで抱いていた漠然とした気持ちが、はっきりとした感情に変わる。

 僕は、はたして何者なんだろうか――


◇◇◇


 ――エオスブルク(暁の街)、城内。

 ラルフがほえた。


「避けてみろっ!」

 木刀が上段から振り降ろされる。


 ――無理に相手を見るな。頭より身体を動かせ――

 体重を片側へ、最小限の動きで攻撃を避ける。

 ラルフのひと薙ぎが間髪をいれず襲いかかる。

 鋭く楕円を描く木刀、狙う部位は、


 ――手首だ!

 ななめ後ろに退く、木刀が空を切る。隙を見計らい一気に間合いを詰め、ラルフに振り下ろした。


 木刀同士がぶつかる固い音。反撃の速度より早くラルフは木刀を動かしていた。

 迫り合ったまま、お互い動かない。


 が、

「ふう、ダメだ小僧。重心はより下にしろ!」

 膝をまげた次の瞬間、溜めた力がアレクにぶつけられる。


「うわっ!」

 体勢が完全に崩れ、アレクは後方に突き飛ばされてしまった。



 ――

――

「そう落ち込むな。ずいぶん上達しているぞ」


「……ですかね」

 休憩時間になり、へたり込んでいるところをラルフさんにねぎらわれた。


「ああ、回避するあの判断はよかった。剣筋のブレも減り、防御も先読みも研ぎ澄まされている。俺の見込みどおりお前には才があるんだ。もっと自信を持て」思いっきり肩を叩かれた。ラルフは顔を横に向ける。

「なあセニア。お前はコイツの動き、どう感じた」


「は、はい」セニアは用意されたイスに座っている。

 たどたどしい返事をしたのちに答えた。

「まえに比べて、()の動きの切れは上がっているように思います。実戦が可能なレベルではないですが、同意見です」


「……ふむ、俺がいるとアンタは他人行儀に喋るな。おそらく小僧とはいつも親密に話すだろうに。まあいい、小僧そういうことだ」

 セニアの反応にラルフはすこし顔を曇らせる。


 ふたたび僕のほうを見た。

「小僧――いやアレク。お前に渡したいものがある。ここまで努力したからな、お前への『ちょっとした褒美』だ」



 ラルフは鍛冶の炉がある場所に歩きだす。そして亜麻の布が巻きつけられた物体を手に取り、目の前に持ってきた。それは横に伸びた形をしていて、布がはだけないよう黒い紐がまわされている。


「ラルフさん。これは?」


 質問にラルフはにやりとしただけ。

 紐を解くほぐし、彼は言った。

「お前の剣だ」


 亜麻の布がするりと落ちた。

 そこに現れたのは、銀色に輝く一振りの両刃剣。

「鞘も用意したが先に剣身を見てほしいから抜き身にしてある。ロングソードの形を基として剣身はある程度幅広につくった。理由は俺の剣と同じく、この紋様を彫るためだ」


「え、ええっ! ラルフさんが僕のために剣を!?」

 驚きで声が裏返った。街の英雄から指導を受けているとはいえ、僕はまだ未熟者だ。

 鋭く研がれた(やいば)、磨かれた剣身、そして繊細な魔術の紋様。こんなにすばらしい剣が僕の剣なんて。セニアも驚いた表情で剣を見ている。


 だがラルフは僕たちの動揺などお構いなしに続けた。

「どっちみちいつかは『真剣』を握るんだぞ。慣れの作業は早くしておいたほうがいい。……あと、すこし『試したいこと』もあってな。久し振りに鍛造ができて楽しかったよ」


「試したいこと?」


「うむ。『お前の魔術札』が、使える気がしたからな」



 促されて剣を握ったが、想像よりも軽い。ラルフいわく剣の重心位置と、先代から受け継いだ特殊合金『メタアロイ』の超軽量性によるものだそうだ。彼が愛用する『紅炎の剣』にも使われている金属らしい。


「では本題に移ろうアレク」ラルフは言った。

「お前の魔術札は、俺の魔術に近いのではないか?」


「えっ」


「言葉のとおりだ。俺は二種類の魔術が使え、お前は七種類。魔術使いならばふつう使える魔術はひとつのはず、……だが俺たちは違う。もしかすると、俺が造る『剣』とお前の『魔術札』には親和性があるのではないか。そう思ったんだ」


 考察は正しい。僕の魔術能力はラルフさんと同じ系譜だ。

 マヤが導いた結論を勘で言い当てた。改めてすごい人だと思う。


 ラルフは話を続ける。

「その剣には『カラクリ』が仕込んであってな」すると、剣を指差した。

「アレク。(つば)のあたりに、おかしなものあるだろう」


「はい、……なんですかこれ」

 厚みのある鍔にまたがるように、U字の形をしたフレーム状の金属が取り付けられていた。まるで上に持ちあげられるような構造をしている。

 これは、――レバー(・・・)の一種か?


 動かしてみろとラルフから言われ、フレームを直角に持ちあげた。驚くべきことに、剣身の根元部分が下へとスライドし小さな四角い穴が現れた。

「『くるみ割り人形』の要領だ。ここにお前の魔術札を咬ませてみてくれ。……正直、俺の魔術とお前の魔術札が合わさるとなにが起こるか、まったく見当がつかん」


「わかりました。試してみます」

 念のためラルフさんとセニアには離れてもらった。


 手に取った魔術札は『冷却する』札。剣身の穴に札を押し込んでレバーを下ろす。札が剣身に挟まれ、金属のぶつかる音がした――


 その瞬間、剣に変化がおきた。


 剣身が一気に冷えはじめたのだ。作用は普段の比ではない。冷気はより強く、際限なく増幅する。

 つかむ手が次第にかじかみだす、


 と、

「――なっ!」

 切っ先が白く輝きだした。瞬間、一直線に光る帯を伸ばす。

 目を凝らせば輝きの正体は舞い落ちる『氷の結晶』。


 輝く帯とぶつかった石の壁とその周りは、ひび割れるような音を出し一瞬のうちに凍りついていた。



「……え、ええ!」


「ほぉ、これはすばらしい」驚きで固まっている僕に対して、ラルフは余裕を持った笑み浮かべていた。

「やはり相性が良いらしいな。俺とお前の魔術は」


 ぼうっとしたまま剣を眺める。想像のはるか上だった。相性が良いどころか、魔術札の能力が異常なまでに強化されていた。


――

 その後の分析で判明した事だが、この現象は魔術札の『しきい値をさげる』作用と、近い作用を持つこの剣同士が干渉しあう事で値を限界まで下げたせいらしい。


 『冷却』は原子や分子の振動を抑制する力をさらに強め(ゼロ)ケルビンの『絶対零度』に、

 『加熱』は対象の物質を超高温に。指向性も相まってプラズマ化した大気は赤色を帯びる、

 『溜め込み』の損失がなくなり、溜めた物質すべてが切っ先から放出可能になった。


 他の魔術札の能力においても強化が確認された。だが、なぜか『治療』能力については何も起きなかった。

――


 笑顔でいるラルフさんをみて、呆然とした気持ちから我にかえる。


 こんなにすごいものを貰ったんだ。この剣に見合うよう、僕はもっと強くなりたい。そう思った。


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