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#049b 中通りにて


「へい、まいどあり! ……ん、アレクどうした。仕事中に俺をじいっと見て。俺の顔になにかついているか?」


「……う、ううん。なんでもないです、おじさん」


「そうか気のせいか。ガハハハ!」

 八百屋のおじさんは、きょうも豪快に笑った。

 まさかこの人が『暁の戦士』の生まれ変わりだったとは。八百屋の手伝いを、あまり集中できなかった。



 一時間後。

「んじゃあなアレク! また来てくれよ、ガハハ」

 手伝いを終えて、おじさんに手を振られながら中通りをゆく。これで約束した四ヶ所の商店はぜんぶまわった。

 だから、次は――


「アレク、どう調子は」


 音もなく、セニアがとなりを歩いていた。心配そうな彼女に応える。

「大丈夫だよ。これから、城にいこう」



 『暁の戦士』ラルフの鍛錬を受け始めて、きょうで三回目。『戦士になるための鍛錬』だから、まずは基礎の体力づくりとか心構えとかから始まると考えていたのに、ラルフさんはそれらを完全にすっ飛ばし、いきなり木刀の振りかたとか守りの方法を指導してきた。しまいには、前回は実際に手合わまで。手加減をしている事は丸わかりだが、歴戦の人物に僕の木刀が当たるはずもなく、ぶつけられた木刀はとても痛かった。

 鍛錬のあいまに城内の特異点を調査して、商店の手伝いもこなす。そして異常なほど少ない鍛錬日を補うために、四〇三号室でセニアから体術を教わって――

 ……思いだすだけで目がまわる。


 と、

「あれ……? あそこにいるのは」

 視界の先に、幼子たち五人と無邪気に話す金髪の女性がいた。

 ロラだった。


――

 ――

「ロラ、きょうは特異点調査をする日でもあるんだよ。分析支援、まさか忘れてない?」

 子供たちからロラを離したあと、一緒に街を歩く。ロラは少しばかり、しょんぼりとしていた。


「申し訳ありません。記憶(メモリー)はしていましたが、人類を知るために街の人々(ボイドノイド)と関わるうち、うっかり時間を忘れていました」


「まったくもう、『全人類を支えるAI』なのにうっかり忘れちゃうなんて、ほんとにロラはおもしろいな」奇妙に思えて少し吹きだした。

 でも、

「『遷移の影響』も、あるんじゃないかな? その点はどうなの」


 ロラは自信満々な表情で言った。

「ご心配ありません。このうっかりは外界への学習が不完全なせいでおきているもの。わたくしがダメージを受けたせいではないのです。また、十二回目の遷移でわたくしはおおよそ六〇パーセントまで損傷し、一部の機能で処理速度低下が確認されましたが現実世界のインフラ維持にはまだ余裕はあります。それ以上にボイドでの学習を、現実世界に生かすのほうが重要です」


「よかった、まだ大丈夫なんだね。……あと、ロラ」話題を変える。

 ――近ごろの彼女には、すこし気になる事があった。

「城の特異点。三日間のうちにとれたデータが、どうもおかしいよね。ロラが支援してくれたのに以前より、情報量が少ないというか、」

 ――足りない。ロラから受けとるデータ量が、城内調査を期に激減したのだ。

 はじめは城特有の現象ではないかとミラージュ全体で意見はまとまったが、データが集まるにつれ、マヤは首をかしげるようになった。「情報の抜け落ちかたが、意図的に感じる」とも。


「ねえロラ。……僕たちに秘密にしてること、なにか無い? 話してもみんな怒らないしさ、大丈夫だから」


 わずかに間があいたのち、

「……。いいえ。わたくしは皆さまに、秘密にしていることはありませんので」

 ロラは、僕とセニアを見ずに反論した。



◇関連話◇


 オーロラと遷移の影響

(二章#027b AIオーロラ)

https://ncode.syosetu.com/n3531ej/55

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