#048b Colonnade
城内のとある中庭。吹き抜けの回廊に囲われた小さな庭園は、芝や生垣の瑞々しい緑に染められている。六月の花、淡い紫の筒花も、静かな庭にいっそうの静けさを与えていた。
その庭を眺めながら、庭と回廊をつなぐ階段にラルフは腰をすえていた。人を待つために――
後ろに足音が聞こえ、ラルフのそばで音はとまった。
人物が、きた。
ラルフは振り向かず言った。
「遅いな。待ちくたびれたぞ」
「――、――――。――、――――」
「ああ知っている。そうでなけば来ない」
「――、――――」
「まあ小僧に見込みはあるだろう。けどな、」
息を吸うラルフは、丸めていた背をのばす。
「あの娘、……やつは『黒魔術団の娘』だ」
動揺する人物に対し、ラルフは続けた。
「そうだ間違いない。彼らには俺が気づいていないよう見せかけておいた。当分は誤魔化せるだろう」
「――。――」
「ん? 俺が、どうしてあいつだと思ったかって? ちげぇよ。顔立ちじゃねえ」クスリと笑った。
「『気配』だ。無理やり抑えても漏れるもんはある。とくに謁見の間で、あいつは戸惑い以外に『殺気』を一瞬だけ漂わせていた。あの類の殺気は、黒魔術団の娘にしか感じたことがない」
「だがまあ。あいつはトンでもなく見違えていたぜ。くされ縁な俺が言うんだから、これも合わせて間違いねぇだろうよ、わはははっ」
「――――。――」
「いや、様子を見よう。娘は城内で暴れる気はないはずだ。俺がいうことじゃないがどうか辛抱してほしい。それに小僧は『女神に選ばれた少年』には違いない。小僧……アレクは娘の正体をしらんのか、あるいは……。それも気になるからな」
「――、――。――――」
「……ああ、わかっているさ。もしも、娘がおかしなマネをするなら、……俺が思う『黒魔術団の娘』が、俺の単なる幻想ならば――」
ラルフは傍らに置く大剣の柄を握り締めた。
柄の布地は強くこすれ合い、剣身はわずかな金属音を鳴らした。
きょうはもう一話投稿します。





