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#037b 未来


 夕暮れの暗く淡い陽が、部屋をほのかに照らしている。いまこの場所に居るのは、アレクとケネスだけ。


「ケネスさん、それでお話というのは」


 アレクの問いに、ケネスが口を開けた。

「ああ。君に言いたいことが、二つあってな。まずは」


 すると、頭をさげた。

「君に謝りたい。我々デルタチームがこれまで君に行なった非礼についてだ。すまなかった」


 アレクが四〇三号に現れてからというもの、デルタチームはボイドノイドのアレクに対し、敵対的な態度をとった。その侘びだった。


「なっ! やめてください。僕は大丈夫ですから、どうか顔をあげて」


「……わかった。君は優しい人だな。キャップたちが大事にするのもわかる。ありがとう」ケネスは顔をあげた。

「しかし、もう一つ言わなければならない。それが二つ目」


「……我々の世界の世論は、君たちの世界(ボイド世界)とボイドノイドを憎み、消し去ることしか頭にない。ミラージュ解体派も然りだ」言葉を続けた。

「これを簡単に変えることはできない。ボイドが極相を迎えれば人類を生かしているオーロラが消え、混沌の時代がふたたび訪れてしまう……。自らの世界、存在や立場が危機に陥る前にその源を排除するのが、おそらく人間の(さが)なのだろう。私も、そんな人間のひとりだ」


「だがな、私はそのような世界を、やはり見たくない」

 ケネスは一歩、アレクに近寄る。

 彼の目は、アレクの瞳を見つめていた。


「身勝手なのは重々理解している。しかし、言わせてくれ、……アレックスいや、アレク。どうか、我々人類に示してほしい。わからせてほしいんだ。君の望む世界が、人類とボイドノイドがともに生き、互いが手を携えられる未来が、この世に存在するということを」


「ケネスさん」はっきりと、ケネスに応えた。

「その未来、僕がお見せします。人間とボイドノイドが共存できる世界を、必ず」


「ありがとう、アレク」ケネスが穏やかに口角を上げる。だが、すぐに真面目な表情に戻った。

 くるりと背を向ける。

「我がデルタチームは君たち存続派の味方はしない。しかし妨害行為も行なわない。私たちは任務をこなしながら、見守るだけだ。アレク、君の健闘を祈る」


 ダイブアウトの光を帯び、ケネスはエオスブルクを去っていった。



◇◇◇

 ――VRAビル・局長室。

 拳がテーブルに叩きつけられた。

「貴様ら!! 俺の命令を無視して存続派にデータを渡しおって。ふざけるな!」


 局長のルイが罵声を浴びせる。局長室に呼び出されたデルタチームは、命令を無視した事を問いただされていた。


 先頭のケネスが頭を下げた。

「申し訳ありませんでした、ルイ・フルトマン局長。私の独断です」ケネスは続けた。

「ボイドに対処するには、ボイドとは何かを知らねばなりません。これは苦渋の決断でしたが(・・・・・・・・・)、正確な情報を得るためには――」


「うるさい!!」立ち上がった。

「貴様の言い訳がましい御託はいらん! ケネスよ、俺は言ったよな。『存続派にいるあのボイドノイド』を手にかけていいと。あれはどうした!?」


「……はあ。局長は私に、そのようなことを?」


 ケネスの言葉に、ルイは拳を固める。眼鏡の奥にある眼光が睨みつけたが、ふっと力が抜けたようにイスに座り込んだ。

「まったく俺は、バカをしたものだ。ミラージュに残った『解体派』は貴様らだけ。感情に任せ、実動部隊の三チームを解散させたのは間違いだったようだ」スキンヘッドの頭を掻いた。

「……だが、俺は諦めんぞ。偶然ではあるが、マヤ博士のプログラムに穴をあけられた。接収した大量のキャスケットも手元にある。……あのAIめ、ミラージュが得たデータをもとに『ボイド破壊システム』が完成したなら、俺はすぐ実行に移してやる」


「フルトマン局長」ケネスがルイに言った。

「我がデルタチームは『存続派の味方ではない』こと、どうかご認識願います。あなたの敵ではございません。……ですが、局長にお聞きしたいことがあります」


「なぜ局長は、ミラージュを力ずくで乗っ取ろうとお考えにならないのですか。無礼を承知で言わせてください。ハワード氏との確執の件は承知しております。しかし『復讐』にしてはあまりに遠回りです。局長、あなたは――」


「……かえれ。帰れ! 貴様ら、ここから消えうせろ!」



――

 ――デルタチームが去った局長室は、静かだった。


 ルイはひとり、おもむろにテーブルの引き出しをあさる。テーブルに取り出したものを置いた。

 それは『写真立て』。電気を消費しない、貴重だったカラーの銀塩写真(フィルム写真)がはめ込まれている。

 ミラージュ結成当時の集合写真だ。

「こんな貴重な写真素材が使えるほどに、ミラージュは人々から慕われていたんだよな……」


 たくさんの隊員が誇らしそうに笑顔で並ぶ。その前列の一角に、若かりし頃のルイ、ハワード、そして遷移事故で世を去ったエリーがいた。


「どうして、こんなことに……」

 つぶやいたルイはひとり、写真を見続けていた。






◇関連話◇


 ルイとケネス

(二章#027b AIオーロラ)

https://ncode.syosetu.com/n3531ej/55



 ハワードとルイの過去

(二章#013b 父親)

https://ncode.syosetu.com/n3531ej/41




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