#026b 三人
亜麻のチュニック姿の彼女が、目じりを吊り上げ睨んでいる。
「『ふぇ……』じゃない!! なんでロラを抱き締めてるのよ! ……アレクは誰にでもそんなことするの!?」
おかしい。まだ一〇分も経ってないはずなのにセニアがダイブしている。しかも他のメンバーがいない――
だが疑問に思っても、いまの僕はとてつもなく危うい状況だ。ロラに腕を回し、まるで僕から抱きついたようにしか見えない。
ロラから離れて、声を張った。
「ち、違うセニア! これは事故なんだ! ロラの服を踏んで倒れただけで」
「なによそれ、そんな都合のいい出来事があるわけないでしょ!!」
眉間に鋭くしわを立て、セニアがにじり寄ってきた。
「ほんとに誤解なんだよ! お願いだから信じて!」
「バカっ! 簡単に信じられるわけ――」
そのとき。
「くすっ、くすす……」
ロラが、手で口を隠し笑いをこらえている。
「ロラが笑うなよ!」
「ロラ笑わないで!」
ふたりで同時に、ロラを睨んでいた。
ロラが気づき、笑うのをやめた。
「あっ。申し訳ありませんでした。おふたりさまの様子が、『愉快』だと認知しましたので」
「……ぷっ。まあ、そうかしれないわね。けど『愉快』というより『滑稽』のほうがあってると、えっ。ロラその裾って」
セニアが見たキトンの裾には、アレクの足跡が付いていた。
「アレク。本当だったのね、ごめんなさい」
「ううん大丈夫だよ、……あれは誰でも勘違いする」
ひとまず誤解は解けたようだ。
「ねえセニア、ダイブインが早くない? 他のメンバーはまだ来てないよね」
すると、セニアは目を泳がせた。
「え、ええその通り。普段ならもっと時間が掛かるはず。でも――」声が小さくなった。
「……昼からずっと、『コネクトスーツ』で待機してた。着用の時間を短縮したわけ」
「ええっ! あのスーツ(肌が透けるほど薄い生地のスーツ)で待ってたの!?」
「うっ、うるさいっ!! 『いちばん乗り』がしたかったのよ! あなたとわたしとロラ、三人だけの時間が欲しかったの!!」
真っ赤な顔をして、セニアが怒鳴った。
あまりに健気な行動で頬が緩んでしまった。
だが、同時に気付かされる。
――いまのセニアには大切な人がふたりもできたんだ。母と慕うオーロラを求め続ける、孤独の日々は終わった。
これからの彼女の人生はきっと、誰よりも輝くものになる――
「そうだねセニア。いまのうちに三人で話そうか!」
◇関連話◇
コネクトスーツ
(一章#10a Casket room)
https://ncode.syosetu.com/n3531ej/10
(二章#002b セニアのこころ)
https://ncode.syosetu.com/n3531ej/30





