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#05a オトシモノ

『行かないでくれ。待ってくれ』

 すがりたい願いが少年の心を埋めていく。

 

 僕は自分で自らの道を閉ざした。もう進みたくなかった。

 そして、不意にあいつと出くわしたんだ。

 運命が彼女によって大きく変わるんだと信じた。

 その彼女さえも僕から去ろうとしている。


 だが次に出すべき言葉をアレクは見つけられずにいた。声にもならず口だけが開く。

 どうすれば良いんだ……。あいつの興味は何だ。


 偶然、ポケットの硬いものが手に当たった。

 中にあるもの――あいつの落し物だ!



 隠れていた時、喋っていた内容で分からない名前があった。だが聞き取れなかったという訳ではない。

 この落し物の名前も他の部分も、明確に憶えている。


 彼女が言った『知りたかった事』。それは僕が訊ねた内容で事足りた。

 つまり彼女は『何も知らない』僕に安心したのか。


 僕は知っている。

 理解はしていないが、あいつが落とした物を持ち、名前もはっきりと口に出せる!


「おい!」

 アレクは高まる感情のまま彼女を呼ぶ。

 これに掛けるしかない!

 ――頼みの綱――聞こえた落し物の名を力の限り投げた。



「――『タンマツ』って何だ」


 はたりと、足が止まった。

「今、なんて言った」


「『タンマツ』と言ったんだ。落としたんだろ、これを」

 ポケットから見せ付けるように取り出した。

 小さな板状の姿が、路地に入る陽で白く光る。


「……聞き間違いでは。わたしは、知らない」


「いや、お前は確かにそう喋っていた。間違いない」

 アレクは聞こえた内容を再度思い起こす。絶対に合っている。



――『……ただ、端末を落としました。……心配には及びません。……メインアナライザは無事です。任務終了後、自動抹消を願います』――



「『タンマツ』。これはどんなものなんだ。『めいんあならいざ』って何だ。いや人か? 何者だ!」


「……そう、か」

 声を低く発し、背中を向けていた彼女はゆっくりとアレクの方へ振り返る。


『やった!』

 あいつが、やっとこちらを意識した。

 アレクは睨みながらも気分が沸き立つ。これで僕は、

 しかしその奥に、――何だろうか小さく異色な『塊』がある気がした。


「なら仕方ない……」 


 彼女は、おもむろにフードに手をかけ、静かに後ろへと下ろした。頬に下りる髪が揺れる。


 少女は端正な顔立ちだった。

 透明感がある肌に、髪は淡いアッシュブロンドのショートカット、大きな目にきりりとした琥珀色の瞳。

 だが、こちらを据える美しい顔は不気味にこわばり、血走るように目を見開いている。

 直ぐに判った。これは――殺気だ。


 アレクの心に落ちていた塊は赤黒く広がり、埋め尽くしていく。



 マントから腕が伸び、手のひらが壁に当てられた。白い袖から鈍い光の線が走る。伝う光が壁に弾け、格子状に広がると手元の壁は歪む。刃で切られたように裂けた。

 奥に広がる漆黒の渦。そこから彼女は手元に武器らしきものを徐々に形作り、引っ張りだしていく。


 十字路に得体の知れない音が反響した。



 ――なんで、どうして。……もう決意したはずなのに。

 抑えていた感情が溢れる。遂にアレクの心は破裂した。


 黒々とした武器がこちらに向けられていく……。

「君には――」


 いやだ……! 死にたくない。

 ――生きたい!


「消えてもらう……!」



関連話 (落し物の形状など)

※別タブ推奨

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