表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/111

#04a 対峙の結末


 息を整えゆっくりと立ち、アレクは物陰から出た。堂々と『覚悟』を持って少女と対峙する。

 十歩ほど先、走ればすぐの距離にあいつが居る。

 出していた腕はマントに隠され、顔もフードでほとんど分からなかった。口元が少し見える程度か。


 『黒魔術師』と『札使いの少年』。

 二人だけの沈黙の路地――硬直した空気を少女が破った。


「さっきの子供……か。姿を見せてくれて感謝する。少年」

 衛兵でない事が判ってか、不敵な言い回し。


「何が『子供』だ!」アレクは噛み付いた。

「子供のお前に言われる筋合いはない!」



 一般市民の常識ならば奴等を見つけるか活動を把握すれば、急いでその場から逃げなければならない。

 勝てる相手ではないのだ。城の兵だとしてもたやすく命を奪われると聞く。

 だが今のアレクにはむしろ好都合なのだ。虚勢を張ってでも歯向い、あいつを怒らせた事でやってくる『結末』。それを狙うのだ。

 ただ、一つだけ心残りがあった。


 最期に――いや最期ぐらい、奴等の正体が知りたい。目的は何なのか、あいつに聞いておきたい。黒魔術団に疑われ、苦しんだ頃の怒りが湧き上がる。

 だからこうやって戦わずに話し続け、突破口を見出そうとしていた。


「こっちは姿を見せたんだ。顔ぐらい出したらどうだ、臆病者!」



 彼女はといえば「ふぅん」と珍しいものでも見たように、フード奥の口元をすぼませている。


「わたしがどんな存在なのか、もう分かっていると思っていたが……」

 途端、こちらに突っ走る!

 ――と見せかけて、フェイントを掛けた。だがアレクは睨むだけ。


「怖くないの?」


「ああ、……怖くないさ」


 はっきりと口にした。改めて自らに言い聞かせる為に。

 少女の奇妙に思う心情は更に増しているようだった。

 だが、それはすぐに変わる。


「肝が据わっているのか。……いや、それとも」

 蔑むように口角があがった。


 ――見透かされている……!

「うるさいっ。……黙れ!」


 少女は揺らがない。

「今黙る訳にいかなくてな」



 勝気な口調で制止させると、何故か周りを確認しだした。

 そして、急に声を抑えた。

「……衛兵も居ない事だし、ちょっといい? 一つ君に聞きたいことがある」


 意外な言葉が返ってきた。

 何かを気に掛ける様子。フードのうろの中、彼女のはっきりと見えないその顔が、じっと反応をうかがっている。


 ――はっとした。これは願ってもないチャンスなのだ。

 彼女の『聞きたい、知りたいこと』。それはアレク自身が答えなければ成立しない。


 自分が『求める結末』。そこに向かわせるまで、こっちのペースに乗せてやる……!

「あぁ、いいぞ」


 彼女が安堵し口を開こうとした時――

 遮ぎってアレクは声を張り上げた。

「お前に訊ねる!」



 止めようとする彼女を無視し吐き続ける。


「正体が知りたい――」口走った声には怒りが混じっていた。

「僕達は長い間怯えさせられてきたんだ。平和な街で暴れられて、死人だって出た。名前も目的も分からないお前達犯罪者に」もう止まらない。

「僕は、お前達の仲間だと疑われた事もあるんだ。思い出しただけで嫌になる。同じような思いをしているまともな人は他所にも大勢いるはず」止めてたまるか。

「ここで会ったのがお前で良かったよ。お前達は弱い子供を使いっぱしりさせる程、切羽詰まっているんだな。ねぇ、やっぱり『暁の戦士達』は強いの?」


 少女はじっと聞いていた。――いや違う。

 わずかに震えている……。呼吸は固まり、身体を強張らせている……!


 アレクの怒気は喉を駆け上がり

「……絶対許さない。得体の知れないお前達にはうんざりだ!」

 ついに核心の激語が炸裂した。

「お前達は何者だ。言え! 目的はなんなんだ。いったい何を企んでいる!」



 再び訪れる静寂――

 全てを放ったアレクは、これから起きるであろう『結末』を悟った。


 マントをかぶり、身体をわななかせる黒魔術団の少女は――




 ――堪えきれず笑った――

「ぷっ……あっははは……あはは! あははぁ……あははは」


 何が起きたのか、まったく判らなかった。


 あらん限りの罵倒をしたつもりだ。

 あいつの怒りで破滅する前に、積もりに積もっていた疑問の答えがのぞけるとアレクは思っていた。

 ところが、目に映る少女は腹をかかえ大笑いしている。

 そして彼女が発したのは、邪悪な色も企みを含んだ残忍なものでもない。


 ――笑い声はただただ無邪気で、

 まるで出来たばかりの鈴が可憐に鳴っているようだった。


「ごめん。ふふ……わたしの『知りたかったこと』と、君が聞きたい事が一緒こたになってたもんだから、つい――。果敢に言ってくれたのに。でも、それもまた……あはは」

 また笑いだす。


 何がなんだか余計にわからない。

 あいつが『知りたかったこと』ってなんだ。

 それに……なぜここまで笑われるんだ。


 少女の笑いがようやくしぼみ、

「あー笑った……。そっか……」


 穏やかにつぶやくと、勝ち気な声色に戻っていた。

「感謝する。そうだな、喋ってくれたお礼としてヒントくらいなら言っても良い」


「えっ」


「さっき『何者だ』って聞いたじゃないか」


 確かに、僕は訊ねた――でもそれは……。


 少女は続ける。

「われわれは君達から身を守る為に、ここにいる。これ以上は答えない」


 掴みどころのない中身。返す言葉に迷うアレクをまじまじと見て笑みを含んだ。


「君の要望にも応えられたし、……それじゃ、わたしはこれで」

 そう言って、くるりと背を向けた。


「ちょっと待って!」

 ――行ってしまう。

 このまま、あいつがどこかへ消え去ってしまう。

 アレクは足を踏み出していた――

 歩く少女へ走っていても、焦りばかりが募る。


 十字路の真ん中まで来ていた。

 少女の歩みがとまる。アレクもとまった。


「待てってば」


 しかし彼女は振り返らなかった。

「君は、わたしの手にかかりたいと思ってたみたいだけど、行わないぞ」冷やかに言葉を締めた。

「君は対象に当たらない」


 少女は再び歩き出す。

 響く足音、静かに揺れるマントの裾が、彼に脅威も関心すらも持ち合わせていない様を見せていた。


 少年は立ちつくす。

 このまま運命に取り残されていく『結末(・・)』がアレクの目前まで迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▽ 感想をツイッターに投稿できます▽


twitterでシェアする
====================
◇小説家になろう 勝手にランキング◇


→ 活動報告はこちら ←

tueee.net sinoobi.com
kisasagi g00g1e
分析サイト群
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ