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#22a Re-Debriefing

「おい、キャップ(ハワード)はまだかよ……! はやく部屋に帰りたいんだ」


「ジャン、静かにしろ。我がチーム(デルタチーム)の印象をこれ以上悪くするな、他部署へ異動の際に不利になる」


 平然と愚痴を言う隊員のジャンをデルタチームのリーダー、ケネスがたしなめた。他は残りのデルタチームの隊員が二名と、セニアがいた。


 ここはボイド調査部隊ミラージュのブリーフィングルーム。居住エリアより下の階層、通常のVRA局員とミラージュ隊員が利用する場所にある。

 横長の机にはイスが並べられ、真っ白なスクリーンが奥の壁に広げられていた。

 部屋はまだ明るい。代表者のハワードを待っているためだ。


博士(マヤ)も来てないしよぉ。『存続派』で座ってるのはセニアしかいないじゃんか」


 セニアはデルタチームの席からイス二つ分離れて座っている。片肘で頬杖をつき、何もないスクリーンを眺めていた。


 ジャンが身を乗り出した。

「なぁセニア、オレ達(解体派)と組まないか。こんないいかげんな奴らもう見捨てろよ」


 からかうようにささやいたジャンに、セニアはチラリと目を向けただけ。頬を歪めたままため息をついた。


 ジャンの舌打ちとほぼ同時に、ルーム後方のドアが開いた。

 ハワードだった。

「……すまん! 急に上層部からの呼び出しがあってな。……ん? マヤ博士はどこだ」


 ケネスから「マヤ博士がまだ来ていない」と聞いたハワードは、予定の時間が過ぎていることもあり、部屋を暗くしてデブリーフィングを行なおうとした。


「では――」


 ドアが開いた。

「あー、ゴメンゴメン。……遅れちゃった」


 マヤだ。急いで席に着こうと歩くがふらついている。

 デルタチームは、鼻を覆った(・・・・・)

「えー、オカシイなぁ。『抜けた』と思ったのに……」セニアに近づいた。

「セニアちゃん、この席座るネ」


 セニアの隣にどさっと座るマヤ。セニアもデルタチームと同じく鼻を塞いでいたが、覚悟を決めた。


「……全員集まったな。では、改めて『再デブリーフィング』を行なう!」



 ボイド調査は終了し、デブリーフィングも早々に済ませていた。しかしVRAビルにボイドノイドの少年が出現した事で、再度デブリーフィングを行なう必要性が出てきたのだ。

 また、この調査に参加していないデルタチームと情報を共有する目的もあった。


 スクリーンに映像が映る。暁の街を俯瞰ふかんした地図の中には色がついた小さな点、オレンジ色が四つと青がひとつ。

 セニアはこれが何か、すぐ分かった。


「これは作戦当時、マヤ博士が各隊員のキャスケットから取得したデータと『不完全だが広い範囲を調べられる手法』の取得データ。加えてデブリーフィングで得られた証言で構成した『各隊員の行動記録』だ」差し棒を伸ばした。

「オレンジがアルファチーム、青色がセニア・オーウェンを表している」


 五つの中で仲間はずれの青い点。セニアは当時を思い出していた。


 ハワードは続ける。

「今作戦の『ダイブイン(ボイド潜入)』は時刻15:26(ヒトゴーニイロク)。『セクション11』に発生した『特異点』の緊急調査だった」


 普段とは異なる、消滅期間が短い特異点への調査。発生数が多かったために急遽ダイブが決まった。

 時間が限られており、使用した従装具は長年のダイブ調査でストックしたコピー衣装ではなく、筋力アシスト機能等がある『エンゲージ( 会敵 )ウェア』に、栗色のフードつきマントを羽織る事となった。


 オレンジと青の点が陣形を乱さず地図を這っていく。だが突然、青の点が離れていった。

「セクション11に全隊員が到着。しかし時刻15:42(ヒトゴーヨンニイ)、セニア・オーウェンが陣を離脱した。その直後エオスブルクの衛兵団と遭遇、アルファチームは調査を断念した」セニアを見た。

「チームの通信報告で、セニアは無断で陣を抜けたと聞いている。本当か」


 セニアは立ち上がった。

「そんなのウソ!! あいつら(アルファチーム)はわたしをオトリに使って、衛兵達がわたしだけを追わせるように仕向けた!」


 琥珀色の瞳がハワードを見つめ、視線が重なる。――しかし、ハワードは目を背けてしまった。


「……アルファチームのメンバーはすでに他部署へ異動した。相手にもされないだろう。取得したデータの精度では再検証は厳しい。……胸に納めてくれ」

 顔を逸らし下を向く『義父(・・)』。

 セニアは席に着き、吐息をはいた。 


 この男はいつもこれだ。

 わたしはただ、わたしの話を信じて欲しかっただけ。わたしが見た事実に『そうだったのか』と言って欲しかった。


 なのにこの男はそれさえしない。『わたしの父親』と言っておきながら、今までわたしを守ってくれなかった。


 ……あの時だって――


 目をつむり、眉間にシワを寄せた。

「わかりました。続けてください」


 スクリーンの動きが再開した。

「……。そのままセニアは北東方面へ離脱。単独で街を進んでいった。その後調査の優先範囲からもれた『特異点』をマッピング端末で確認、特異点があるセクション13へ向かった」地図の青い点が、入り組んだ道へ入っていく。

「しかし途中、問題の少年型ボイドノイドと衝突し端末を紛失。そして特異点付近にて『TCトリアージ カテゴリーレッド』の事態を報告、少年型ボイドノイドの抹消行動を開始した」


 スクリーンの映像をとめた。

「ちなみにセニア、使用した武器はなんだ?」


 ハワードに答えた。

「使用火器はスコーピオン(短機関銃)コルト・ガバメント( 拳銃 )グレネード(手榴弾)でした。……やはりスコーピオンは『崩壊』が早く、八次遷移のボイドでも今だに形を維持するのは困難のようです」


「そうか、まだスコーピオン(一九六一年)の時代のものは難しいか。コルト(一九一一年)に頼るしかないな……」


 ダイブ時にミラージュが従装具としてストック、使用可能なのは『装備品』。これらはボイドやボイドノイドに損傷は与えられない。

 有利に抹消を完遂できる『武器』を使うには、ボイドにプール(溜め込み)されている兵器を取り出す(無理やり発現させる)しかないのだ。

 だが取り出した物は急速に劣化し消滅する『崩壊』が起こる。それは製造された年代が新しいほど早くなり、遷移でボイドの文明レベルが上がるほど穏やかになる。

 ミラージュは『崩壊』が遅い古い武器を、遷移の影響を見極めながら使用していた。


「それとセニア、グレネード(手榴弾)はやめておけ。『崩壊』は年代以外に、衝撃や部品の緻密さと強度、大きさも関係している。グレネードは小さいものの小型ゆえに部品が細かく、しかも投げ込む際に衝撃を与える。不発、暴発、どちらも作戦では危険要素だ。どんなに効果的な状況(行き止まり)でも、以後の使用は控えろ」


「まあ何にせよ、暴発がなくて良かった。あとは……」

 ハワードの表情が和らぎ、小さな頬笑みに変わった。


 セニアはこの意味が、抹消行動より前に起きた『少年(アレク)とのやり取り(・・・・)』だと気づき、恥ずかしさで目を逸らした。

 耳を赤くしたセニアを見ながらもハワードは映像を進める。

「その後、衛兵団および『暁の戦士』と遭遇し退避。少年型の抹消は未遂のまま時刻17:23(ヒトナナニイサン)、セニアはダイブアウト( 帰還 )した」


 スクリーンの映像が消え、照明がついた。

「あとは知っての通りだ。少年型ボイドノイド『アレックス』がセニアの四〇三号室に出現、……TCはブラックだ」


 ジャンがひそひそ声で仲間と話している。

「……困ったもんだよな。グリーン(通常)でも、イエロー(敵対)でも、レッドでも(暴露の危険)なく、ブラックだも(想定範囲外)んなぁ……」


 ケネスが私語を注意し、ジャンは黙った。



 ――時間は過ぎていった。

「――他に質問したい項目はあるか? ……では、これにて『再デブリーフィング』を終了する。悪いが次は『VRA統合会議』の打ち合わせだ。……五分間の休憩後、席に着いてくれ」


 デルタチームが愚痴をこぼし、マヤが席を起つ。

 そしてセニアは、白紙のスクリーンをハワードを待った時と同じ格好で、見つめていた――




 ――『お前なんかに……、僕の苦しさが分かるもんか!』――


 あのボイドノイドの、……少年の言葉。

 何故かずっと残ってる。

 いや、なぜかじゃなくて、残る理由は分かっていた。


 ……悔しかった。

 わたしに『抱きしめてくれるひと』なんて、いなかったから。

 感情のままに言ってしまった。「馬鹿馬鹿しい」と。そんなこと、本当はひとかけらも思ってない。甘えん坊でも何だっていい、その人(母親)が存在しなくとも……。

 だって、わたしはAIの母親(オーロラ)に『会った事がない』のだから。


 ……「事実を受け入れろ」、「なんにも変わらない」。放った言葉はそのまま、自身に返ってくる。

 胸が絞られたように痛くなった。


 休憩時間が終わり、少年の運命が決まる『会議』の打ち合わせが進む。あの子の言葉がずっと頭から離れない。


 ――打ち合わせが終わった。


「セニア、ちょっといいか」ハワードだった。

四〇三号室(セニアの部屋)だが、現在アレックスがいる。……セニア。帰るのが嫌ならば、私の部屋に――」


「いえ、ご心配なく。……彼に話したいこともあります」


「……そうか」


 ドア近くでやり取りを聞いていたジャンが、鼻で笑った。

「『オーロラの落とし子』のお前と、オーロラの中に生まれた『ボイドノイド』のあいつか。フフッ、お似合いだな」


 嫌味、だけど否定しない。

 ――わたしとあの少年は似ている、気がする。




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(TCレッド) #05a

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