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#073b 作戦開始


 城内の一室に緊急招集が下された。エオスブルク側、ミラージュの両者が円卓に集う。

 空間上のディスプレイに映るマヤが、口火をきる。


「時刻09:43(ゼロキュウ ヨンサン)。ぼいど……エオスブルク領内に、テッドが現れたことを確認した。場所は街の西端から一・五マイル(二・五キロメートル)西の森林地帯。記録した映像をみてほしい」


 あらたなディスプレイが空間に立ちあがり、遠くから望遠したような映像が表示された。

 森のなかに円状にひらけた草地があり、テッドの姿がみえる。……黒い塔に似た物体のうえに立っていた。

「形状からみて、塔状の物体は『巨大な黒鎧の腕部』で間違いない。高さはおよそ四六ヤード(四二メートル)、それの(てのひら)に彼は乗っている。腕部以外は地中か、あるいはそもそも腕だけか。どちらにせよこの黒鎧が移動する可能性は低いとおもう」


「……『動かない』? なぜですか」


 尋ねた衛兵長にマヤが答える。

「憶測がはいるケド考えられるのはふたつ。テッドは女神エオス( ロラ )の引き渡し、および屈服を要求してる。『森に話し合いの場をつくった』。これがひとつ目」画面が地図の映像に切りかわり、マヤは続けた。

「もうひとつは、……『街を人質に女神エオスを脅すため』。この森は台地にあって、テッドがいる草地はそのなかでも比較的標高が高い。無人機もしくは射程の長い兵器をもちいれば遠くから街を破壊できるんだ。ここは一方的に攻撃を仕掛けられる、最適かつ最悪な場所だ」


 画面の地図上に、射程をしめす概念図が重ねられた。続いて航空機とミサイルの動きも。森から放たれた攻撃が西側の街を破壊していく。


 映像に息をのむ大臣たち。

 ディスプレイにうつるハワードが、丁寧な口調で言った。

「これが我われミラージュが得た情報です。どうか信じていただくとともに、テッドを倒すために協力を」


「……わかった。この街を守るためなら」


 エドモントは同意をする。エオスブルク側とミラージュ側は作戦内容を確認しあい、実行に移すと決めた。



――

 ――

 作戦会議が終わり、双方が準備をはじめる。僕はセニアのそばに行った。


 僕に気づき、セニアは言う。

「ついに、なのね」


「ああ。ついにだね」彼女をみつめ返す。

「奴と決着をつけよう。セニア、きみが危ないときは助ける」


「ふふ、それはわたしのセリフ」


 セニアが口もとをほころばせ、僕も頬笑む。お互いに交わした言葉はそれだけ。でもいまの僕たちにはそれで充分だった。

 と、脳内に声がひびく。

 ロラだ。


〔アレクきこえますか。その、どうかご無事で〕


「ロラありがとう。絶対に死なせたりはしないからね」


〔はい。ありがとうございます。嬉しいです……〕

 ロラはその返事のあと、なにも言わなくなった。



 ――

――


 午前一〇時五〇分。

 エオスブルクの衛兵団分隊二五〇人と僕は、森林地帯の丘を進んでいた。北東からテッドがいる草地へ向かう計画だ。間伐もされた森のため歩みが留まる事はない。けれど鬱蒼(うっそう)と茂る木立のせいで見通しは悪く、簡単に死角ができてしまう。みな慎重だった。

 作戦どおり僕を含めた全員が雨天時に使うマントを羽織り、フードも被っている。


 作戦会議が終わったあとすぐさま城下の市民、とくに西側に住む住人たちへ避難命令が告げられた。理由は街の東側に避難をしてもらい、人的被害をできるだけ抑えるため。避難はテッドが街で暴れた事件があってか、予定よりはやく完了している。

 いまのところすべて順調だ。……ただ、勝算があるかは、やってみないとわからない。


 兵たちが踏む小枝の音、落ち葉の音が鳴り続けている。



 そのとき――爆裂音が一発、森を揺らした。鳥たちが騒ぎだし、街の方角からは何かが着弾した音がきこえた。テッドが砲撃をおこなったに違いない。

 轟きが止むとこんどはプロペラ音が森に響く。木々の隙間からみえた機影(MQ―1C)無人航空機( UAV )だ。


 どうやら拡声器をつけているらしい。テッドの声が無人機越しにとどいた。

「ほう、大人数でよく来てくれたな、無駄な足掻(あが)きだ。オーロラはどこにいる」


 ――わたくしはここにいます――


 エコーが掛かったロラの声がきこえてきた。予定どおりテッドのまえに出現したらしい。


 テッドがロラに要求する。

「オーロラ、さっきの砲は予告だ。これが最後だ、俺に従え。断るのならあれ以上の砲弾で街を破壊しつくす。いまきた雑兵らを殺してもいい」テッドは続けた。

遷移(せんい)、そして極相(きょくそう)になるまえに諦めろ。俺のもとへ戻れ」


 沈黙のあと、ロラは言った。


 はっきりとした口調で。

 ――いいえ。わたくしはアレクと皆さまを選びます。あなたには従いません。これからも、絶対に――


 無言だがテッドの怒りが伝わってきた。じわじわと増大する彼の感情は、

 ついに爆発した。

「この壊れかけが(・・・・・)……! オーロラ、貴様には地獄をみせてやる!」



「ミラージュ! フードで顔を隠しても無駄だ。そこにいる雑兵らとなかよく消えてしまえ」

 テッドが怒号をあげたすぐさま、僕は動いた。

 ロラに呼びかける。


「ロラ! 作戦開始」


〔承知いたしました。支援能力をアクティブ〕

 木々に遮られた視界に『あらたな視覚』が付与された。テッドの塔と無人機、空中に浮かぶ砲台が、オレンジ色に光る線によって立体的に浮かびあがる。つまり『透視』だ。


――

 ――

 無人機が急旋回をはじめる。攻撃態勢を整えたそれは、増幅剣の熱線を浴びた。つぎに砲台、そして黒い塔へと熱線は振りおろされる。空を薙いだひとすじの赤い線。無人機と砲台は消滅。だがテッドがいる塔は傷ひとつない。


 テッドは(さげす)む。

「かかったな阿呆。まずはそこのガキからだ」


 熱線が放たれた場所へ黒鎧たちが次々に現れる。

 突撃銃を手にもった次の瞬間、

 ――黒鎧たちは力を失い、崩れ去った。


「なに?」

 驚くテッド。塔の直下をみた彼は、何がおきたのかを察した。


 草地にはミラージュメンバーの五人、セニアとデルタチームがいた。塔の根元から伸びる黒線は彼らによってすべて切断されている。

 ――いつのまに、ここへ。


「……まさか」

 ――

――


 作戦の第一段階は次のとおりだ。


 テッドがいる草地に、機動力と接近戦に長けたミラージュメンバーが突入する。そのために衛兵団と僕――アレクは、別方向から(・・・・・)草地へ近づきテッドの注意をそらす。

 フードを被る事でテッドに『衛兵のなかにミラージュたちが隠れている』と誤認させる。放った熱線がよりその誤認を揺らがないものにするはずだ。


 拡張された視覚にセニアたちが草地にいる事がわかった。第一段階は成功したようだ。


 フードをはずした。周りの衛兵たちに大きな声で伝える。

「第一段階、成功しました! みなさんは森の外へ退避を!」


「承知ッ!」

 僕の声をきいてまわりの衛兵が合図のホイッスルを吹いた。合図は衛兵団全体に中継され、彼らの退避がはじまった。

 衛兵たちは草地から放射状に退避する。密集をさける事で衛兵たちがテッドに襲われる危険を減らす。


 近接、近距離の攻撃は僕たちミラージュメンバーの役目。マントを脱ぎ捨て、熱線で切り開かれた森の裂け目を見据えた。

 遠くに見える、草地とテッドの黒い塔……。


 増幅剣をもつ手に力がこもる。

 練られた作戦すべてが、憶測(おくそく)の域を出ない危ういものばかり。さっきの第一段階も無人機がミラージュたちに気づかない事が前提。森を襲うのが砲弾の可能性さえあった。つぎも同じ幸運がおきてくれるとは限らない。


 でもやるしかない。勝つ道はこれだけだ。

 森に開いた一本の道を僕は駆ける。テッドを倒すために。



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