表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特別配達人舞衣  作者: 東都新宮
1.1~2キロ:旅立ちまで
9/38

1.4キロ

1.4

ヘルエス駅 → グリサ駅



「1番線から列車が発車します。ご注意ください」


 いつも聞いている、この発車アナウンスと発車ベル。

 それは全く同じものだけれども、今の私にとっては、全く違うものへとなっていた。

 例えて言えばそう、始まりと決別。

 私はこの街と別れて他の街に行く。

 この街に帰るつもりなんて無い。

 嫌な街だった。

 服はなんとか着替えたので、風邪をひくことは無いだろう。

 とりあえず、明日から私は世界鉄道交通事業で働く。

 これで新しい人生が待っている。

 この遠くの行き先が書かれている切符を持ちながら。そんなことを考えていた。

 汽笛が鳴り響く。

 それとともに、黒い汽車はゆっくりと、ホームを出ていって、見慣れていた駅舎や街並みを後にしていく。

 やがて、夕暮れの畑の間にある線路を進んでいった。

 私は横にある窓からそれを見ている。


「切符を拝見いたします」


 藍色のスーツを来た車掌が、この車両の中に入ってきて、他の乗客が持っている切符を見ていった。

 やがては私のところにも。

 初めてだから私は緊張したものの、こんな様子は、何度も見ているであろう車掌さんはかなり慣れているであろう……

 いいな……


「ありがとうございます」


 車掌は愛想良さそうに言いながら、切符にスタンプを押して、また別の乗客のを見ながら、奥の車両へと進んでいく。

 それを見たら、緊張が少しほぐれる。

 私も車掌になりたかったな……

 かっこいい……

 憧れてしまう……

 でも似たようになれるからいいのかも……


「あの、そちらいいかしら?」


 通路側から言われて振り返ると、見た感じ強気そうな、黒髪をボブにした私と同じくらいであろう少女が立っていた。

 服装はどこかの軍の司令官が着ていそうな、茶色の服。

 彼女のお気に入りなのかな?

 ちょっと変わっているけれど。


「いいですけど……」


「ありがとう」


 その少女は向かい合わせの座席に座る。

 私はこの性格も相まって、目を合わせるのが恥ずかしくなってしまったから、窓の外にある風景を見ながら、目を見ないことにした。

 けれども気になって見てみる。

 すると、あの少女の顔に瓜二つであった。

 私を助けてくれたあの少女に。


「あっ……!?」


「どうしたのよ」


 彼女は驚いた表情で私を見ていた。

 それはそうだろう。

 急に大きな声を出したら、誰だって驚くに決まっている。


「貴女は……私を助けてくれましたよね……?」


「そうだったわね。服が違っているから分からなかったわ」


「お、お礼を……」


「そんなの良いわよ」


「でも……」


「貴女が助かっただけで良いわよ」


「そうなんですね……」


「ところで、アナタもグリサに行くの?」


「はい……」


 返事をしようとするけれども、気が弱くなってしまって、彼女に比べて、さっきよりも小さめの声になってしまった。

 一応、目は見ているけど。


「気が弱いのね。そんなんじゃ、あんまりやっていけないわよ」


「余計なお世話です……」


「あら、失礼」


 少女に怒られてしまったけれども、これしか言い返すことが出来ない。

 これが私の性格だから。

 直したいけれども、なぜか人前で話すと、緊張したり声が小さくなったりして、ずっとこのまま。早く直りたいのは分かっているけど……


「まあいいわ。グリサで何をするのよ?」


「仕事を……」


「ふうん」


 少女は興味を無くしたかのように、窓から見える風景を見ている。

 しばらくすると、疲れていた私は、横になった。

 メガネを横に置いて。

 感触的に固めの椅子であまり眠れそうには無いものの、いつも座っている椅子やベッドに比べたら、柔らかいし、なんとかなりそう。

 窓は・・・そのままにしておく。

 風も気持ちいいし、景色だって。

 そこからの景色は、列車が走っていく度に、オレンジ色の空からだんだんと青くなり、やがては紫、黒へとなっていった。

 早いものだ。


「いい景色ね」


「はい……」


 少女の言うとおり、灯りなどが何もない場所を通っていっているのか、星空がよく見える。

 初めて見る景色だ。

 私の街ではあまり見なかったから。

 だって、私が住んでいた街では、色々と明るかったから。

 私は暗かったけれども……


「ところで訊いていい?」


「何でしょう……」


「貴女が就職するのって、何ていう会社?」


 まあ、彼女とは親しい訳でもないけれども、彼女でしたら言ってもなんとも無いかもしれないので、言ってみることにする。

 どうせ分かるかもしれないし。


「はい……世界鉄道交通事業に……」


「交通事業?」


「ええ……先輩に教えてもらいながらやっていくんです……」


「そうなのね。どんな先輩なの?」


「まだ分からないのですが……きっと、素敵な人かもしれませんね。優しくて頼りになる」


 私はどんな人かを想像しながら、目の前に居る少女に教えていく。

 この部分はいい人だと思う所。


「へえ~それは楽しみね」


「ええ……ただ……」


「ただ?」


「もしかしたら……かなりガサツだったり……怒りっぽいかもしれないのが怖いですが……」


 私が不安になっていることを言うと、さっきまで嬉しそうに聞いていた彼女は急に、表情を元に戻してしまいました。

 どうしたのでしょうか。

 もしかして、悪いことでも……!?


「……分かったわ」


「いえ……」


 これで会話は終わったけれども……

 なんとかなったみたい……


「痛っ……」


「大丈夫?」


「ええ……」


 ふとしたはずみで新しい傷を触ってしまう。

 殴られた時の傷……

 そんなに痛くはないものの、気分がいいときに痛みが出てきてしまったことは、ちょっと嫌な感じになってしまう。

 なんでこんなのが残っているのだろう……

 忘れたいのに……

 まあ、時間が経てば治ってくるだろうし、気にしないでおこう。

 そろそろ窓は閉めておこう。眠くなってきたし、気がついたら少女も既に眠っているし……

 私は眼鏡を外して、横になった。

 なんかよく眠れそう……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ