1.2キロ
1.2
「な……なんですか……これは……」
そしてこの街を旅立つ日、私は逆らえない雰囲気で呼び出されるままにとある裏路地へと行って、そのまま透明な箱の中へと入れられてしまった。
あっさりとしていたから、笑ってしまう……
殆ど笑えなかったけど……
そんなことよりも、どうしてこんなことを……
あと私もどうして行ったのだろう……
夕方の列車で旅立つのに……
折角だから行ってみようかなという気持ちになってしまったのだろう……私のバカ……
「今日は貴女を溺れさせてあげる」
「えっ……」
そう言われたので下を見てみると、大きな水たまりが出来ていた。しかも、少しずつ深くなっているような……
どうやら水が入ってきているようだった。
私はこのままだと……
「やめて……ください……」
「嫌よ」
私はダメ元で言ってみるけれども、そんな事が通じる彼女達ではない。
このまま私は死んでしまうんだ……
最後の峠を乗り越えられずに……
「あはは!このまま溺れて死になさい!死体は街の外でモンスターの餌にしてあげるから!」
「何で……こんなことを……」
「決まっているじゃない、舞衣が嫌なのよ!貴女が就職するなんて認めない」
「そんな……今日で貴女達とは……」
「だからよ。乗り越えられたら助かるという希望を絶望に変えてあげるのよ!」
彼女が言ったことを聞いた時、私はどうして何もかもが直前で乗り越えられないのだろうと思ってしまった。
あと少しで終わりに出来るのに……
なんで……なんで……
「私って……何か悪いことをしたのでしょうか……」
「別に。ただ気に入らないからいじめているだけよ。気が弱いし、どうせ勝手に自殺してくれるだろうし。それで良いかなって」
「私を……おもちゃにしてたのですか……」
「今頃分かったの?鈍いわね」
「鈍くなんか……」
「そろそろ呼吸が出来なくなるんじゃないの?」
「えっ……?がぼっ……」
言われて気がつくと、私の口に水が入ろうとしていた。
なんとか口に入らないようにするけれども、水位が上がってきた上に力も尽きてしまって、それも出来なくなってしまう。
このまま私は死ぬのだろうか……
「もうすぐね。この世のお別れをしなさいよ」
「ごぼごぼ……」
思えば短い人生……
楽しかったことなんて一度も無いような気がする……
今までいじめられたり……嫌なことばかり……
良かったのって言ったら、就職先が決まったことくらいかな……
そろそろ、意識が薄れてきた……
もう……死ぬのかな……