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企画参加作品

【習作】描写力アップを目指そう企画 参加作品

掲載日:2017/07/23

 唐突な浮遊感に続く、強烈な落下感に、下腹がぞくりと震える。

 次の瞬間には、彼らは冬枯れた大地に降り立っていた。

「うわ、た、たた」

 バランスを崩し、柔らかな水色のローブを着た少年が、尻餅をつく。

「大丈夫か」

 傍らからの声に、眉を寄せながらも、うん、と返す。

 連れの青年は、真剣な眼で前を見据えていた。

 その、視線の先には。


 赤紫色をした、全身鎧が立っている。

 噂によれば、火蜥蜴(サラマンダー)の鱗を生きたまま剥ぎ、造り上げたのだという。

 どんな炎の刃も通さぬ鎧。

 それを身につける者は、世界に一人しかいない。


 魔王。



「憐れな。またもその卑小なモノを我が前に引き出すとは」

 地の底から這い出てくるかのような声が、ひび割れ、くぐもった声が、ねっとりと耳に入りこむ。

 座りこんだままの少年が、息を詰まらせた。

 あれは、存在自体が穢れだ。在るだけで、人を、生き物を、世界を汚濁に侵していく。

 今までにも、幾度か姿を見たことがある。だが、決して慣れはしない。

 呻き声を必死に堪えていた少年の視界が、すっと蔭った。

 連れの青年が、魔王からの視線を遮る位置に立ったのだ。

 脂汗の滲みた目を、上げる。

 厚い雲に覆われた空の下、黄金の髪を鈍く光らせ、彼は堂々と立っていた。

「俺の仲間を侮辱しないで貰おうか」

 魔王の存在感を、その引力をものともせずに、言い放つ。

 世界で唯一、魔王の魔力が及ばない人間。


 勇者。



 青年が、すらりと剣を抜く。

 合図だ。

 少年は、慌てて両掌を大地に押し当てた。

虚空(こくう)(よく)!」

 周囲の幾百の石塊が揺れ、宙に浮かぶ。

 そして一気に上昇し、魔王へ向けて放物線を描いた。

 勇者が、手にした剣を、ぶん、と水平に振った。鈍い銀色に光る刀身は瞬時に真紅に変わり、軌跡に添って陽炎が揺らめく。

 剣より放たれた熱線が、(つぶて)を炎の塊に変えていく。

 その威力は、並の魔物なら掠っただけで溶けてしまうほどだ。

 魔王を倒すための炎の剣の脅威を、敵はよく知っている。

 だからこそ、それは動かなかった。

 降り注ぐ炎の石を、平然とその奇怪な鎧に受ける。

 そして、その間に距離を詰めてきた勇者の剣を、悠々と自らの剣で弾いた。

「小賢しい真似を。刃でなければ通用するとでも?」

「試してみただけだよ。そいつの性能をな!」

 振り抜く刀身から迸った炎が、周囲の枯れ草を燃え上がらせる。

「どんな炎の刃も通さぬ鎧だ。それから発せられる、如何なる脅威をもこれは防ぐ!」

 魔王が、剣を横に薙ぐ。

 勇者は一歩引き、更に剣の腹でそれを受ける。

 魔王は鎧を信用し、相手の斬撃を回避すらしないことも多い。ただ、ひたすらに勇者を攻め立てる。

「試してみた、だと? だが、我に通用しなかったからといって、逃げられると思わぬことだ!」

 上段から叩きつけられた刃を受け、勇者は一歩下がった。

「俺は、いつだってお前を出し抜いてきたろうが。そっちこそ、俺を殺せるなんて思うなよ」

 不敵に笑んで、煽る。

 虚勢だ、と魔王は看破する。

 剣から生じる、魔滅の、浄化の炎は、もう魔王には通じない。

 魔王の放つ魔術は、もとより勇者には届かない。

 自然、二人の戦いは、純粋に武力によるものとなる。

 だが人間である勇者は、持久戦になればそれだけ勝機が減っていく。

 今でさえ、魔王の剣を防ぐのに幾度もよろめいている。

 先ほど空間を渡って現れたのは、勇者が連れてきた人間の術だろう。今は周囲を炎に囲まれ、地面に(うずくま)り、ぶつぶつとうわごとを呟いている。

 あれに近寄らせなければ、逃げ出せまい。

 魔王は、また、大きく剣を振るう。


 ……と、おそらく考えている。

 少年はじっと数えていた。瞳で、距離を。唇で、数を。

 場所と、時間を計っていた。

 がしゃん、と鎧が鳴る。

 その、継目の、位置。

「……今だ!」

 少年が、高く叫んだ。同時に勇者は敵の得物に剣を叩きつけ、鍔迫り合いに持ちこむ。

 深く、息を吸う。熱気が喉を灼くことも厭わずに。

堕天(だてん)(びょう)!」

 上空から、微かにきぃん、という音が降る。

 そして、三メートルはある槍が、魔王の背を貫いた。


「……………お……?」

 ぎし、と、鎧が軋む。

 最初に放った(いし)(つぶて)。幾百ものそれのうち、一つを上空に留めておいたのだ。

 雪を降らせそうな厚い雲は、氷の粒でできている。高速でその中を飛び回る礫は、やがて、長く鋭い氷の槍と化した。

 如何なる炎の刃も通さぬ鎧を貫く、槍に。

 魔王がゆっくりと腕を振り上げる。

 勿論、この程度では動きを止めることすらできない。

白檄(はくげき)(せん)!」

 再度叫んだ声に応じ、轟音と共に、槍に雷撃が落ちた。

「がぁあああああああ!」

 避けられない衝撃に、魔王が叫ぶ。

 氷の槍は流石に持ちこたえられず、弾けた。ぼたぼたと流れ落ちる体液が大地を穢し、そのただ中に魔王が膝をつく。

「あいつに出し抜かれたな、魔王?」

 視界が、蔭る。

 魔王を滅する、炎の剣を手にした勇者が、横に立っているのだ。

「貴様……」

 息を荒げ、憎しみに満ちた声で、視線で、魔王は見上げてくる。

 青年は躊躇わず、剣を鎧の穴に突き立てた。待ちかねたように、ごぅ、と音を立て、炎が勢いを増す。

 体内をくまなく蹂躙する魔滅の炎は、鎧に阻まれて体外に放出されることも許されない。

 魔王の絶叫は、先ほどの比ではなかった。

この企画で挑戦したものは、


「文字数内での伏線とその回収」

「繰り返しの表現(複数)」


でした。

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