愚問の正義
智穏はうるさい町中を歩いている。騒音と戦っている感じがしている。鞄には重い荷物ばかりあるが大切なものがある。父親が書き記した日記を袋に入れている。残したものがたくさんがある。
智穏には俺のようになって欲しくない。親を信じられなくなり逃げたのだから。今、どんな仕事をしているかはわからないかもしれない。探偵なんてならないほうがいい。警察の犬になった気分だった。捜査一課は権力があるものしか興味がない。俺の能力は必要ではないのだ。手柄という上の人に褒められることにしかない。ふざけていると思っても無視するのが一番だ。
幹治が残したのは単純なものではない。奏は気づいていたのだろう。同じように狙われていることもすべて。何かあってきたわけではないが電気量販店に行くことにした。大したイベントがないのにテレビには沢山の人がいた。
「死神が大学に脅迫していたことがわかりました。佐伯琢磨を総理大臣なんて馬鹿げたくらいから降ろさない限り、このテロめいたことはやめるつもりないと書かれてあったそうです。最近では佐伯総理はテレビには顔を出していません。何処か後ろめたいことがあるから出てこれないのでしょうか。今、総理には名誉という位は必要ありません。逃げずに戦うことだけをしてください。」
アナウンサーは誰の味方のだろうかと思いながら見ていた。犯人に対して怒りを示したり、そうかと思えば事故に対してろくに行政が手をかけないために起こる事故を犯人の所為にしてみたりする。ただの傲慢さを図々しく感じてしまう。親の事故はどちらかといえば加害者ではなく被害者が悪いという言い方をしていた。細工をされていてブレーキが利かなかったという都合の悪いことは明かさないのは警察と一緒だと思ってしまう。
「死神と名乗っている方に問います。貴方には大切な人はいますか?奪われた人の気持ちがわからないのですか?我々はもううんざりです。誰かが死ぬということを知らせなければならないことに。」
智穏は逆効果になると思った。むしろ狙われてしまう。死神が話したいのは佐伯琢磨であって外野に騒がれるほうがうんざりしている。とんだ正義が裏目になるのはわからないことに彼は嘲笑った。あのアナウンサーに人殺しというレッテルを張らせることは簡単なことだ。
「死神は正義を間違えています。何に対しての正義なのでしょう?良心がない限りわかるはずがないとしか言えないのです。」
フリーになったばかりかはわからないが変な正義を振り回しているのは貴方だと叫びたいと思ってしまう。智穏は下に向けて静かに笑っていた。




