事の派
吉崎は個室の椅子に座った。園長という権威をもったないので苗字で呼ばれるためそのまま反応している。一服するためにコーヒーを沸かした。緑茶は近頃よく飲むので飽きてきた。健三なんていう名を古臭く思ってしまっている。コスモスのようなすたれることのない名前が良かった。
「吉崎さん。やっと済みましたか?」
「ああ、あの資料を彼に託した。きっと佐伯の何もかにもがわかるだろう。」
「本当に彼は警察なんでしょうか。刑事であることも嘘であるような感じがしてならないんですよ。あんな大切なものを託してよかったんでしょうか。」
二松は小さな声をつぶやいた。これは明らかな不安から伝わってくるのだろう。二松もまた養護施設出身であるため警察沙汰になったが此処まで改善することができた。
「特殊犯罪課に在籍している。写真にもはっきり写っている。本人に確認したら認めた。これ以上に確かめるのもあれだから過去のことを聞いてみた。」
「過去ですか。話したがらないでしょうことを簡単に聞いてみたのですね。苦しいことを思い出させるようなことをしてはいけません。」
「話してくれたよ。苦しかったこと。何故人を安易に信用できないのかもすべてわかっていた。開かせられるということは仲間への信頼とある程度のゆとりがないとできない。恵だってそうだろう。」
恵は政治家の子供だった。金は余るほどあったはずなのに捨てられた。吉崎は拾って育てた。それは総理大臣の秘書をしていた頃だった。ぐれたのは手に負えなかったが2人で育てた。帰ってくるとか考えていなかった。二松という苗字は元のままだ。父への反抗だろうと考えた。
「私の場合は親が屑だったからこんな生活をしているんです。佐伯海斗のような豪遊をしてみたかったな。」
「ヒロは君とは全然違うな。金とか嘆いてはいないだろう。やっぱり君が育てて正解だったよ。立派な母親なんだから。」
コーヒーを湯呑に注ぐという和洋がぐちゃぐちゃになってしまっている。彼も国民を守るという最前線に行ったのだ。今は子供を救っている。
「政治家だなんて思いませんでしたよ。週刊誌に取り上げられたのに金で解決すると思っていたんですから。表ざたにしたら政治家生命が悪くなるからといって喋らせてくれなかった。そんなの親だなんて思いません。」
「だから、私の養子縁組に入ったんだろ。それに対しての意義は私にはないよ。子供がいなかったからさ。よかった。」
意義はない。吉崎の人生を表した言葉だろう。




