禅
智穏は特殊犯罪課に戻った。潤紀はいなかった。3人は調べものをしている。
「捜査一課と手を組むことはなくなるかもしれない。一課長の態度が明らかにおかしいんだ。だから離れたほうがいいと考えたんだけど。」
「俺たちはかまわないさ。問題は潤紀だよ。実の親を疑うことができるかだ。後、3人の事情聴取はどうするんだ?」
雅也の心配そうな声が響いた。そこにいる人は一番感じてることだった。怪しいから調べるということを含んでいるのは智穏の態度で丸わかりだった。嘘が下手で構わない。事件解決に役立つことなのだから。
「3人は署長がやってくれることになった。傍にいる人がしっかりしてくれないと困るな。」
「潤紀はこもっていて顔出さないんだ。だから俺が呼びに行こうか。」
優唄が言った。死神のことで手一杯なのだろう。和翔は椅子に座ってくるくると回っていた。
「そろそろ来るよ。たいてい来る時間決まっているんだ。」
4人はソファに座って待った。コーヒーを出して飲むような時間帯だが、そんな感じではなかった。ドアの音が鳴った。潤紀だった。
「どうしたの?皆そろって待っているなんて。」
「お前に相談というかそうなってしまったというかさ。話がしたい。5人でな。」
コーヒーを出して5人で小さなテーブルを囲んだ。家族が居間にいるような感じだ。ホワイトボードがすべてを眺めている。
「一課長の取り調べをしたい。死神につながる以前の事件とかに関わっている可能性があるんだ。捜査一課は別の事件を追っているわけだから大丈夫だろうと踏んでいるんだ。お前さえよければ一緒に取り調べをしたい。」
彼の手のひらに汗が見えた。戸惑いがあるのだろうか。実の親を疑うのが嫌なのだろうか。
「調べるよ。親父だと知ってもどこかぎこちない態度ばかりで何かかくしていそうな感じがする。おふくろは全くないんだ。明らかにおかしいだろ。だからすべてはっきりさせたい。それに仲間だからね。不参加なんてないよ。」
「そうか。またつらいことをさせることになるけど。」
「大丈夫。辛いときは嘆いてもいい人ばかりいる。むしろそうしないと心配なんだろ。」
潤紀はミルクとガムシロップを入れた。4人もそれに倣って好き勝手に好きな味にした。
「僕はな。養護施設にいた頃、何もかもついていないと思った。二松さんに育ってられたけどそこまでいい人に会ったとは思っていなかった。お前らに会ってからいい人に会ったっていたんだと思った。俺の人生は最高だよ。」
潤紀の飛び切りの笑顔だった。




