赤の縁
智穏は一課長を屋上へ呼びつけた。特殊犯罪課の課長としての責任がある。解決しなければならない大切な情報だったりする。そのことをわかっていないことは重々承知していた。紙コップを持ちながらベンチに座った。
「座ったらどうだ。」
「そんなことじゃダメなんですよね。俺たちの要求は貴方が提示したものです。鑑識からはキチンともらっています。」
梅津は偉そうに踏ん反りかえっていた。見えない敵にも権力を振りかざす。
「君は特殊犯罪課だ。データをくれといわれたから大葉に渡した。それ以上に何を欲しがる。もう必要ないだろう。」
「3人の事情聴取をしてほしいと頼んだはずです。潤紀が特殊犯罪課は関わっていないといって俺たちを巻き込まないようにしてくれたんです。それを覆すわけにはいかないから頼んだんです。データの件は和翔から聞きました。大したものではありませんでした。口先だけの約束ならこれからは捜査会議も参加しません。」
智穏は怒りを含みながら言った。都合のいいように扱われないようにと思った。一課長は紙コップを握り潰していた。
「捜査一課のいうことを聞けないのか。」
「もともと聞くつもりである課なんかじゃない。それくらいわかっているでしょう。俺たちは事件解決が最優先なんですよ。」
扉の閉まる音がした。誰かが来たのだろう。紙コップを投げつけた。スーツを普段から着る習慣にしていなかったためコーヒーの飛び散りがひどくなかった。
「梅津圭吾。お前を簡単にクビにすることができるぞ。ふがいない父親が息子を支えることもできないのか。」
署長は紙を拾いながら言った。彼はハンカチを出して相宮に渡した。相宮は汚れたところを優しく拭くだけだった。
「君は守るべきものがはっきりしている。だが、梅津。お前は一体何を守りたいんだ。けがれた心は警察にはいらない。」
署長がとどめをさしたような感じがした。ろくなデータももらえないのなら切ってもかまわないと4人は言っていたから。
「俺には家族がいます。こいつらとは全然違います。」
「家族ではないですよ。鑑識長からいろいろと聞いてますし。貴方が守りたかったのは自分自身なんじゃないんですか。」
智穏は捨て台詞を言えるタイミングを少なからず計っていた。それは大切だと感じてしまっているから。
「捜査一課とはかかわりません。俺たちが解決します。貴方が作った課が一番裏切り者ではなくって貴方自身が裏切り者であることを忘れないでください。」
すっきりした感じで出て行った。




