回復
優唄は特殊犯罪課に戻った。3人はホワイトボードで何かを書き込んでいた。死神の事件は総理をも巻き込んでいる大事件でもあるからだ。
「優唄、智穏に会えたか?」
「会えたけど。あいつを救えなかった。俺の所為だ。」
「何を言ってるんだ。あいつは生きてる。それは間違いないだろ。」
辞表を手に抱えていた智穏は決意があったのだろうか。優唄には迷いがあった。
「飯もろくに食わずに屋上に最近いるらしい。それに今日、辞表をもっていた。どうすればいい?救えるのかな?」
弱い弱い声がこだまする。ホワイトボード用のペンが床に落ちた。独特ともいえる音だった。
「あいつは?」
「きっと病院にはいるはずだよ。」
車を急いで出した。辞表はなくなっても最終手段は必ずもっているはずだ。智穏は推理の天才でありながら愛情はあとになって沢山受けたため仕事もそれに含んでいるのかもしれない。従弟の優斗がたった一人で守ろうとしたほどだ。愛情をはっきり知ったとはまだ言い切れないのかもしれない。病院はあわただしく医者が走っている。隠れた愛情の表現かもしれない。智穏は病室にはいなかった。屋上に上がるとベンチに座ったままだった。
「智穏、どうした?辞表なんか出して。」
「俺はもう仕事なんてしなくていい。死神と戦う資格なんてない。」
悲しみなんかなく決意のように言った。潤紀は見つめることしかできなかった。雅也が静かに手を握った。温かくも少し冷たさを感じるような手であった。和翔はパソコンを覗いていた。自由でいいのだと示したのは智穏であったと思った。
「死神の事件は俺たちが解決しなきゃいけないんだ。それくらい駄目な人を救えるのは俺たちだけだよ。分かってないのか。」
「殺人鬼を倒すには人数がいるだろうが。僕はね。連携プレーが必要なんだよ。」
潤紀が静かに言った。和翔は興味なさそうに見えて一番関心があるからそれを隠す行為をしているのだ。パソコンで智穏のパソコンを見ていた。必要のないデータを消すためだ。
「そうだな。俺はなんてバカなことを考えてたんだろうな。」
一課長や鑑識長、署長の力を借りずにもう一度戻すことができた。それが一つの喜びのように感じた。5人がすべてまとめなくてもいいこと。とりあえず1人で抱え込むことがいかにバカらしいことかを示しているようであった。智穏の久しぶりの笑顔につられて4人も笑顔になった。特殊犯罪課らしさがあった。ホシの心に寄り添うことが大切と改めて思った。




