かけがえのないもの
智穏は病室にいた。寂しさとかは全くなかった。窓に映る景色が輝いて見えてる姿が悲しかった。仲間は必ず顔を出してきてくれるが仕事をしている感じはしないのだ。署長に出そうとしているのはいけないものだ。裁判があってから雅也は遠くへ行ってしまった。廊下を目的なしに歩きまわっていた。帰る場所を無くせば探す人はいなくなる。そんな考えしか持たなくなってしまった。孤独になれたはずなのに。1人で屋上へ上がった。ベンチに座る人もいない。昼食の時間であるからであろう。此処数日あまり食べていない。抜け出すことばかり考えているからだろう。隣に座った小柄ながら長身の男性がいた。
「どうしてここにいるのですか?」
「仕事ができなくて飯とか食べれないからここにきて考えているんです。貴方は?」
「早く食べ終わってすることがなくて此処にいます。貴方はただの人間であるように思えません。辛いことも自分の所為にしてしまうじゃないんですか?」
智穏は苦笑いした。当たってるような感じがしてしまった。潤紀の笑顔も雅也の笑顔も和翔の笑顔も優唄の笑顔も守ることができていない。
「過去は忘れることはできない。けど戦っているんでしょ。」
「仕事を始めたのは誘われたからなんです。大切なものがわからなかったその頃は。死ぬことのできる仕事に就いたと思っていた。仲間が変わって気持ちが変わって。この日まで生きてこれたのは仲間のおかげなんですよ。」
男性は静かな頷きをした。分からないながらもわかってくれているのだと。
「刑事さんなんですよね。貴方には守るために生きるべきですよ。そこの辞表は破って捨てて下さい。それが最初です。」
「守るものはこの紙切れを出せばなくなります。この紙切れがすべての決め手なんです。」
智穏の手に紙を握っていた。下を向けば何もない。涙も出ない目がむなしかった。
「私は戻りますが、絶対やぶといてください。」
男性はいなくなった。智穏に問いかけるように雨が降り出した。小ぶりであったからパジャマに濡れるだけ。
「智穏、何してるんだ?皆待ってるぞ。」
「優唄。濡れるから中に入っとけ。大丈夫だ。」
「大丈夫じゃないから言ってるんだ。看護師にも医者にも聞いた。飯をろくに食ってないから。」
彼は怒鳴ってた。悲しみに満ちた。優唄は紙を奪った。破った。
「こんなことはさせない。お前は1人じゃない。1人にさせない。だから俺たちがいるんじゃないのか。」
「当分会えなくなることころだったからちょうどよかった。有難うな。」
優唄は立ちつくしていた。止めることができなかった。