父の後悔
優斗は家路につく前に居酒屋へ行った。智穏に言われたことが頭に引っかかったままだった。少し酔って帰るのも悪くないと思えた。町のはずれにある居酒屋に入った。アットホームな環境であるなと感じた。カウンターに座りビールとつまみを頼んだ。冷えたビールが心を冷えていくのを感じてしまう。煮物に手を付けている。
「お兄ちゃん、あんまり見ない顔だね。何かあったからこんな場所で飲んでるんだろ。」
大将に痛いところを突かれた。経験の差であるように感じた。
「家族からいじめられてた奴に会いに行ってなんか禅をしているかのようなことを言われて。」
「それはな。周りにいる奴が変えたんだよ。何処で愛情を感じるかが重要なのかもしれないな。変えてくれたから恩を感じてる。」
「金を受け取ってもらおうとしても受け取ってくれなかった。そんなときはどうしたらいいですか?」
大将に相談したのは受け取って欲しいからだ。
「きっと君が深く関与しているようには思えないから受け取らなかった。張本人がきちっときりをつけなければいけない。自分が悪かったなんて思わない人が起こしたことなんだ。君は起きたことを話して受け取ってもらうように言うしか他ないね。」
居酒屋を出て家路に向かった。成人を迎えてから家族で出かけることもない。家をつくと応答することのないドアを開けた。リビングに親父がいた。会社で働きながら例外としてバイトに出ている。今日はバイトはなく飲んだくれていた。
「ゆう。久しぶりに飲まないか?話したいことがあるんだ。」
「俺もだよ。親父。」
焼酎の一升瓶を開けてちびちびと飲んでいた。優斗は缶ビールを出した。
「今日、とものところ行ってきた。大けがをしてたけどあの頃のあいつではなかったからか金は受け取ってもらえなかった。」
「それなら・・・」
「親父が渡しに行ってくれ。あいつに謝罪してくれ。今の状況を理解してくれ。仲間に囲まれて笑顔でいるあいつを見てきてくれ。」
優斗の言葉は強さが響いていた。親父は下を向いたままだ。あの頃なら怒鳴り散らしているだろう。
「かあさんが税理士だから金に厳しいだろ。とものバイト代を取ってた時有頂天だったんだ。王様気分だった。ばれてよかったんだ。明日にでも会いに行こうか。」
写真があった家族写真。ともの姿があるのだ。智穏は家族であると認めている証拠だった。
「怒られてもいいや。あいつのほうがいろいろあったんだから。」
親父としての威厳は薄れていた。