仲間と・・・
智穏は捜査二課の広い部屋に向かった。個別に1係などと丁寧に書かれている。1係長を訪ねた。簡単に言えば手伝えといわれたからである。入ると偉そうに座っていた。
「相宮君。待ってたよ。」
誘拐事件を扱っていて養護施設の園長だという。金のためというにはあまりにも可笑しいと思えてならなかった。
「君には資料を渡すから。早期解決を目指してほしい。頼んだよ。特殊犯罪課の課長。」
馬鹿にされたような言い方をしていたが関係ない。推理の天才と異名を付けられたから手伝うように言われただけのこと。4人にはかくしていた。死神の事件を調べなくなっては困るということを考えたからだ。あまりに幼稚な資料を眺めた。警視庁を出て通称花通りにある喫茶店に行った。こじんまりとした趣の作りであった。マスターに警察手帳を見せた。マスターは最初戸惑った様子であったが理解した上で閉めてくれた。
「アジサイのこと教えてくれませんか?過去のことでも構いません。」
「初代園長が交通事故を起こしたことかな。あれがなかったらきっともっといいところになっていたはずだよ。」
マスターは奥から新聞を取り出した。ファイルにきちっとしまわれていた。1面に題材的に取り上げられていた。被害者は相宮夫妻と書かれていた。幼い息子がいるともある。
「これって君のことかな。安西、刑務所に入っても懺悔を続けてた。墓にも参れなかった。君にも謝れなかった。」
「安西っていう人は?」
マスターは言いづらそうに顔を下に向けていった。
「去年、病死した。葬式も悲惨なものだよ。あいつはな、ずっと後悔ばかりはいていた。」
「それだけ聞けたらいいです。誘拐のことと関係あるかもしれないですから。」
「誘拐は森博だ。此処で作戦会議を立てていたから。」
喫茶店を出た。携帯を持ち1係長に連絡した。智穏は行く当てなんてないのに車を置いて電車に乗った。あんなところで加害者の話を聞くと思わなかった。彼の心の中には仲間という言葉の意味を忘れてしまうほどだった。自由という意味をはき違えたまま、知らない土地を目指した。警察車両であることも何もかも忘れて。ホシを伝えるだけが精いっぱいだったのだ。1係長は全く興味を示さないこともわかっていた。両親の真相を知って、その園長を恨むつもりもなかった。知りたくなかった現実に直面していて逃げていることもなんとなくわかっていた。頼る人などいなかった幼い頃がぶり返してきたのを感じとる気力すらなくなっていた。電車で終点まで行くのを待った。景色はモノクロであった。