疑念との闘い
潤紀は特殊犯罪課にいた。ある人物に対するわだかまりが脱ぎ払えないのだ。信じる人は多くいるはずだ。携帯の着信音はあの頃とはかなり違う。なっていることに気づかないまま、ほっておいた。自販機コーナーに行って初めて気が付いた。かけなおした。
「もしもし。」
「ああ、やっと出でくれた。また出張でさ。場所を指定させてもらうけど会えないかな?」
「わかった。伊吹。会おう。」
彼の心の中はとても複雑だった。容疑者候補としてあってしまうということが。特殊犯罪課に戻ると4人は仕事をしているのを見て迷いが吹っ切れた。信頼してくれている仲間のためにと。
夕方、有名居酒屋チェーンにいった。人であふれかえっていた。週末の飲み会をするためだろう。個室のドアを開けた。1人で早くも始めていた。
「遅いぞ。」
「待てないのかよ。養護施設にいた頃とは違うことくらい感じろよ。あの頃は食べ物には目がなかったんだから。」
「二松は警察入って変わっちまったのか。根本は変わってなさそうだけど。」
おつまみがすでにテーブルに置かれている。焼き鳥や梅きゅうなどがある。追加する必要がないように。
「警察って大変だよな。死神の事件があるんだろ。」
「窓際だからそういう大きな事件扱わしてくれないよ。過去の事件や小さな事件くらいさ。今どんな状況かわからないんだ。」
季太郎の目は光というよりいびつな輝きを持った闇のように思ってしまった。彼は静かにジョッキを置いた。
「俺はな。警察という仕事にあこがれた。なれなかった。会社の社員でいるけど大した部署じゃない。今回も断られた会社にもう1度直談判に行くだけ。成果なんて出たことない。お荷物部署にいるのさ。」
「そんなことはないよ。僕の課も変わらない。けど仲間がいるだけで頑張れるんだ。」
容疑者として再び会うことになるかもしれないと心の片隅で考えている自分を否定できる根拠がなかった。何時か会ってしまって裏切られるという悪夢を考えている。
「死神は殺人鬼だ。心は休まってないはずだ。新しいことを考えている真っ最中なんだから。」
「お前が世間に目を向けるようになったということはいい変化だ。昔みたいに社会を憎むじゃないぞ。何も解決しない。」
潤紀はいうとビールを飲みほした。事件への疑念を少しでも断ち切りたかった。頭にあったリストをその日だけは忘れることに専念した。
「二松は警察に入っただけあるな。コスモスにいたときと全然違う。誇りに思うよ。」
季太郎の手は机の下から軽快なリズムを刻んでいた。不協和音とも感じれる音でもあった。