2人の仲
中村は拘置所で本を読んでいた。最近発売されたものから古いものまである。養護施設からではなく被害者遺族である刑事からの贈り物であった。
「面会だ。あの人だよ。面会してから受け取ったものを渡すから。」
面会室に向かうとスーツ姿ではなくラフすぎる格好だった。彼の見せる目は寂しいそうな悲しそうな感じに思わせる。
「零さん。どうです?慣れました?」
「慣れました。1人暮らしをしていたから楽ですね。本ですか。くれたのは。」
雅也は小さくうなずいた。ほぼ同じような経験していたためか寂しさもわかってしまう。1人で戦うためにしてしまったことだ。
「最近の本は沢山ありすぎている。何が好きかわからないから手探りなんだ。好きなジャンルがあったら言ってほしい。」
「そんなこと言ってられない。事情聴取が頻繁にあるんだから。けど、雅也さんが後ろにいるからちゃんと休ませてもらってる。変わるけど、死神の事件解決しそうなんですか?」
「さぁな。証拠もろくにないらしい。これで解決しようとしている信念にやられるよ。」
零は静かに聞いていた。園長や元先生もたまに来るくらいだ。井本ほど頻繁に来る人はいない。彼には被害者なんていう概念がないのだろう。同じ環境を経験した仲間ぐらいの感覚であるはずだ。じゃなきゃこれない。
「零さんを死刑にはさせないからな。楽しい時間を感じてほしいんだ。今の俺みたいに。」
「そんな経験をする価値なんてありませんよ。人殺しをした人間に。」
人殺しという単語を初めて口にした。後悔しかないのに救おうとする理論が少しわからなかった。
「どうして権力を持とうとする人がいる?何に価値があるかはその人の自由だと思ってる。ただ、喜びや楽しさは平等でなくてはならないと思ってる。十字架をいつか捨ててくれてかまわない。それは俺個人のお前に対する願いだ。」
「加害者、被害者という概念は?いつ捨てたんですか?」
「あったときからだよ。復讐に人生をかける人だっている。けど、達成したところで何が残る?何も残らない。虚しさ、人を殺したという記憶だけ。なら寄り添うほうがいいと思ってしまったといわけ。」
復讐を考える人は必ずやどこかにいるだろう。むなしいとかいう気持ちだけで犯人を認めてしまっている。出た後きっと墓に参って欲しいとかない。友達のように関わって欲しいだけなのだろう。
「俺のいる課は似たような奴があと2人いる。そのほかに有名大学を出たのに出世に全く興味を持たずにこの課に来た奴。貧乏で親が借金まみれで夜逃げをよく幼いころしてた奴。親とは縁を切ってここにいる。」
「過去がとんでもない課ですね。」
「だから支えあおうとするのかもしれないな。」
中村と井本は友人のように語りあい笑った。過去なんてどうでもいいと言っているようだ。




