仮の母
正は町の中にある大病院に行った。待合室は病人がごった返している。医者の数と患者が比例してないのだ。エレベーターで病室に向かう。見舞い人だろうか。花や日常品をもっている。巡査の服のまま来てしまった。病室につく直前ナースや医者が走っていた。患者の容体が悪くなったようだ。個室の扉を開けた。少し小さく見える母がいた。
「調子はどう?悪くもなくよくもない状態?」
「まあ、そんなとこよ。そのほうがよかったりするのかしら?」
「医者じゃないからわからないよ。花変えてくるから。」
正は病室から出ていた。小さな引き出しの上に何年も前にとった写真があった。学の相棒だった智穏との写真だ。彼は智穏をコンビとしても個人としても信頼していた。あれから一度も会っていない。正が花を変えて戻ってきた。
「とも君に生きているうちに会いたいわ。」
「仲間にも伝えていなかったほど罪の意識を感じているんだと思うよ。」
実行犯に現役の捜査一課の刑事が含まれていた。警視庁としての信頼を失いかけた事件でもあった。捜査二課は捜査一課に逆らうことができなかった。
「学がしたことだから。本音で語ってくれたのにね。生い立ちからすべて。」
「相宮は殉職をするべきなのは自分だったっていまだに思っているじゃないのかな。兄貴、署長候補とか言われてたから。」
初めて二課から署長が生まれると喜んでいた。それが途切れてしまったのだ。責任を感じてるに違いない。仲間思いの兄貴から多くを学んだ彼は特殊犯罪課でうまくできている。
「その写真、私が死んだとき棺に入れといてくれないかしら。」
「わかった。この写真も入れたらどうだい?」
鞄から真新しい写真を取り出した。潤紀からもらってきたのだ。特殊犯罪課ができて何年か経ったときにとったものらしい。
「とも君、いい笑顔してるわね。けど、あの頃より少しだけやせてる気がするのは気のせいかしら。」
「気のせいだと思うよ。5人で頑張って死神の事件を追っているみたいだし。捜査一課より上の扱いを受けているらしい。」
テレビの音を少し小さくされてある。ニュースは今の時間帯は全くしていない。ピークの時間は過ぎていたようだ。
「解決してから会いに来てもらえるように言ってね。それに正、毎日来るのが大変だったら何日かに一度でかまわないから。」
「大丈夫。1人でいるのは退屈だろ。顔が見えるだけいいと思ってよ。刑事になったのは相宮と組みたかっただけだからさ。」
正は笑顔で出て行った。彼女の手にはメモがある。日記を書くように癖付けした。あの子に伝えるために。