写真の心理
アパートで時が来るのを待った。生みの親に会うのだ。4人は仕事をしている。署長は近くの居酒屋を指定した。落ち着きがある夜にしているらしい。死神はいつ事件を起こすかわからないときに会うのは賭けのようにも思えた。時間に近づいたため、アパートを出ることにした。車はもっておらず歩きで行くことにした。気持ちが高ぶっているのを感じながら歩いた。見慣れた風景が初めて来たところの風景のように思えた。
「おっさん。予約しておいたんだけど。」
「わかっているよ。個室があるから行きなさい。あんまり緊張するな。会うだけだ。」
案内された個室は少し広かった。飲み物は頼まなかった。おしぼりを手で押しつぶしていた。お冷を乾いた口に注いだ。潤っているかなんて関係なかった。数分後、個室のドアがノックされた。開けられた扉から2人の顔が見えた。
「貴方が二松潤紀君?」
「そうですが。梅津一課長と梅津鑑識長ですか。」
2人の顔には笑顔というより後悔が色濃く出ていた。捨てたはずの息子が同じ職に就いているのだから。店員に飲み物を頼んだ。
「御免なさいね。辞めることを考えたら育てることはできたの。」
父親は梅津圭吾、母親は梅津由美。子供を持つと仕事ができなくなる可能性があった。養護施設が連なる通りに置き去りにすることにした。たまたまコスモスに置いただけであった。今日まで生きた心地がしなかった。
「特殊犯罪課を作ったのは贖罪だった。実の親なんかわからなくていいと思って。」
潤紀は2人に写真に出した。仲間の笑顔がいっぱいの。
「今の仲間が優しさの根本を教えてくれた。だから今なら有難うというよ。経験と思えばつらいこともつらくなくなる。」
「なんで恨まないんだ。恨んでくれないと困る。気持ちが収まらない。」
「雅也が教えてくれた。あいつのほうが恨んでも可笑しくないことに恨まなかった。だから僕も恨まない。何も解決しないから。」
圭吾はビールを飲んだ。由美と潤紀は全く手を付けていない。写真を2枚出してきた。もってくれということだろう。
「特殊犯罪課は誇りだ。捜査一課よりな。写真はいらないよ。」
「見せびらかしてくれてもかまわないさ。机に置いてくれてもいい。受け取ってくれ。仲間と最高の瞬間を過ごしていると。」
重い会話の裏への気遣いが感じられた。両親に会ったことはいいことかもしれない。
テレビの声が聞こえた。ロックフェスで爆破があったというのだ。死神が動きだした。悪魔の感触はまだ届かない。