哀れな姿
翌日、雅也と潤紀は小さなアパートに向かう。大切な人を無くし1人で生きてきたつもりだった。親戚にたらいまわしされたが最終的に父方の叔父が引き取ってくれた。住んでいた家のお金からすべてを取り返してくれた。今でも通帳にある。大金が手つかずだ。
アパートのドアをノックした。返事をした声は少し明るさを含んでいた。開けられたドアでホシと対面した。
「中村さんですよね。警察の者ですけど。分かりますよね?」
「あのビルの事件に関することならすべて話しましたが。」
潤紀は雅也の背中を叩いた。証拠を出せという合図だ。鞄からストラップを出した。
「18年前に起きた井本家族殺人事件の証拠に貴方の指紋がありました。今は自首とはいわず出頭してください。事件は警察が調べたし、テレビにも流れました。」
潤紀は淡々と言った。怒りもなくただ償ってほしいだけだと。
「いつかこんな日が来るのを待ってました。隠れて十字架を背負うことに疲れてました。不幸にも死神が起こした事件を見てしまった。それでよかったんです。有難うございます。」
「彼は被害者遺族です。復讐したいという感情はなかった。ただ償ってください。」
雅也の手は中村の肩に乗った。終わったと感じた。
「俺の名前は零と書いてはじめと読むんです。眞白のユリ園でつけられました。園長がつけたらしいです。一ではじめと読む人は多いけど0が最初だって。けど、マイナスからのスタートですね。」
「コスモスにいたからよくわかるよ。園長たちにも面会に来てもらうよう言っておくよ。久しぶりに語りあったほうがいい。」
「ふがいない姿を見せることになりそうですね。遺族に迎えられるなんて複雑でしかない。」
中村は少し穏やかな表情をした。これが重荷を取り除かれた人間の姿だった。
「時々会いに行きますよ。」
ホシを救ったのだろうか。遺族を救ったのだろうか。考えたところで終わらない。
アパートを出た後、雅也は潤紀に頭を下げた。深々と。何分間もずっと。
改めて思った。死神を止めなければいけないと。




