淡い過去
潤紀はある場所へ向かっていた。実家といえるという確信は自分の中にはない。ただ帰って来れる場所であることは間違いない。養護施設 コスモスであった。一人のおじいさんが近づいてきた。
「ヒロじゃないか。仕事をちゃんとしているか。まあそれより元気か?」
「元気ですが、吉崎さんこそ元気ですか?まだ引きとっているみたいですね。」
「此処で育てることはあまりいいことではないがな。引き取らないと行き場がないだろう。」
吉崎は微笑んでいた。後で話したいことは多くあるが会っておくべき人がいる。
「二松さんいますか?こんな機会でも会っておかないと。」
「いるよ。会ってくればいい。どうせ後で話すことになるだろうから。」
応接室で1人の恩人に会う。育ての親とかそうじゃないとか考えなくなったのはいつからだろう。
緑茶を一口飲んだ。苦くも何処か爽やかに感じた。時間が経つといろんなことを忘れてしまうのだと外の子供の声を聞いて思った。
何も考えずには生きていけなかった子供の頃の愚かさを実感した。心も開いてはなかったはずだから。
気づいたときには誰もいなかった。だけど、二松は違っていたのは気づいていた。
そこから色んな景色に色がついていったように思えた。
潤紀は写真を眺めるだけにした。




