神との通話
名取が部屋と入ってきた。熱いコーヒーをもってきていた。警視庁の今回担当する課長があまりにもあっさりかえってしまった。
「なんだね。あの課長は。礼儀というものを知らないのか。課の名前すら言わずに出て行ったよ。」
佐伯琢磨は怒りをぶつけることができないためいつもよりは大きな声で言った。名取は無視をした。うるさいだけだからだ。
「あちらにも事情というものがあるのでしょう。そんな大したことのないことで怒りを抱えているのは幼稚ですよ。もっと大人になってください。」
お盆から陶器のコップとソーサーがぶつかる音が響いた。机に置いてある書類をよけて名取は1人飲み始めた。
「死神に会うのが怖くなってきたな。どんな要求してくるかは警視庁もわかっていないらしい。だからって官邸にこもらせるのもどうかと思うんだがね。」
「それなら貴方が直接会ったらいいじゃないですか。愚痴とかいっているのは自分が遠くにいるからですよ。殺された国民の身にもなってくださいよ。」
警視庁は死神の指示で佐伯琢磨を出すといっていた。捜査一課ですら恐れる課が特殊犯罪課だ。検挙率も高いのに権力をとても嫌がる。捜査一課よりも少ない人数で解決へ導くつわものぞろいともいえるのだろう。
「名取、お前はあの嫌味な課長に会ってきてくれないか?」
「わかりました。」
口だけの返事をした。名取は小柄な課長を探した。名も知らぬ相手を探すのは困難を極める。黒のスーツはあまり着ないのかどこか新しさを感じた。官邸のベランダに行ってみた。そこには小さくしゃがみこんでいた。
「貴方はなぜ警察の仕事をしているのです?」
「名取さんですか。俺は特に理由とかないんですよ。高校時代に会った警察官に約束をしてしまって。その約束を果たしているだけですよ。貴方はどうなんですか?」
彼の目線は強さがあった。約束だけではないということははっきりとわかった。他の言えないようなことなのだとどこかで同情した。
「私は佐伯さんの元秘書をしていた長谷明憲の友人なんです。死の真相を知りたくて今、ついているだけです。これで明らかになりますよね。」
希望に満ちた目は何処かから生まれるのかが相宮にはわからなかった。長谷は佐伯の秘密を知ったため死んだとは言えなかった。もう少しで分かってしまうのだから。
「貴方は名前も課も言わないのですね。」
「仲間も売ることになりますからね。後でじっくり話す場面はありますから安心してください。」
2人は他愛のない話をしていた。