悪の対談
佐伯は久しく外を見たことがない。マスコミによる妨害で家族にまで被害があった。過去のことなど覚えていないからだろうと思われる。秘書にした名取はどこかで今回の事件にかかわっていると思っているらしい。疑いを払拭するために死神にあうと決意をした。名取はあざ笑う目で見つめていた。
「世間が怒っているのに、死神があなたに会いたいといっているのに無視をし続けたのはあなただ。家族に被害をもたらしたのは間違えない。」
死神と会う前だというのに吐き出される言葉は容赦なかった。新聞を買収しようとしたが担当者が断りの電話を傲慢にしていたのだ。いい話もしないぞと脅しをかけたが社長が別にかまわないといっていると伝言で聞いた。
「俺が家族ですら守れなかったとでも言うのか!死神の言葉は俺に向けたメッセージではなかったではないか。ついている秘書は賛同するのが当然の義務であろう。そんな簡単なことを知らないのか。」
「私に対する怒りはかまいません。だって、家族を狙ったマスコミではなかったでしょう。目を散々つぶってきておいてまだ無駄な正義を持っているのなら捨てるべきです。今回、対応している警察の部署は特に容赦ないと話を聞いて降りますから。かけがえのない人を殺せと判断したのはあなたですとはっきり言われますよ。」
高い椅子に傲慢な背中を乗せていた。佐伯は薄ら笑いを見せた。どうせ金や地位で簡単に食い下がると計画しているからだ。捜査一課などはそうやって封じ込めていたのは事実であるからだ。
「課長に会いたいと申請しろ。」
「いえ、もうその方ならいますけど。」
ドアの音さえ聞こえていなかった。振り返ると小柄な男性が静かに立ち尽くしていた。
「今日のスケジュールの説明に来ました。」
紙切れ1枚しかなかった。死神に多くを伝えないためだと思ってたからだ。秘書にはコーヒーを出すようにいい部屋から出させた。
「君はなんと言う課に属しているのだ?」
「言いたくありません。」
黒のスーツがどこかで光を得て光っていた。彼の目はにらみつけるようなむなしいような目をしていた。同じ質問をしても答えなかった。
「あなたの作戦には乗りません。署長や捜査一課2係が逮捕されているといううわさが流れてきませんでしたか?」
「聞いてないぞ。どうしてそいつらが逮捕されなければならぬのだ。悪事をしたのか?」
「あなたは逃げることで有名だと聞きましたけど、うわさはどうも本当のようですね。では、後でお会いしましょう。」
完全に相手の口車に乗せられたと思った。死神に会うという決断が悪かったのではないかとも思った。輝かしい功績に見せられた見るに耐えない男だとしか思えない。権威というのは無駄な労力のための道具。佐伯は思うことはないだろう。