日が揺らぐ
優唄には守るべきものがある。大した事はないと馬鹿笑いされても構わないほどだ。それは見捨てた家族である。離婚する事もわかっているのに手を掛けずに去って行った自分に対してだと言い訳をしているのだ。
「優唄。死神について聞き込みをしてきたか?」
「してきたよ。養護施設育ちというのはレッテルを張られてるみたいに有名になるんだな。初めて知ったよ。会社ではうき放題だった奴と馴染みすぎる奴と別れるみたいだな。」
和翔は静かに特殊犯罪課の部屋で聞いていた。死神が手を下すと決断するのに時間がかかるのは容易に分かる事だ。どんなに器用にこなす奴でも必ずどこかで表と裏を間違えてしまうのだろう。
「まぁ、潤紀はいろいろあったけど捨てた両親とも和解してるみたいだし安心だ。死神という匿名の名で生きる事が果たして正しい事なのだろうか?」
「匿名で生きるなんて悲しすぎるよ。仲間もいないと言っているようなものなんだから。名前を貰った以上大切にしていかないとな。」
匿名という言葉は、行動は一定の誰かと分からないため、どんなに嫌な事でもやってしまうのだ。そして、拡散されたときに遅い後悔が迫ってくる。人には守らないといけない事がある。分かっているはずなのに・・・。
「死神は生きているが本人の中ではどこか遠くの場所で死んでいるのかもしれないな。魂のない塊だとしたら余計危険だ。人質だって。」
「魂のない塊はサイコパス以前の問題だ。人殺しの価値も見出せていないのだからな。作業になっているかもな。」
生きているのかも死んでいるのかもの価値は誰が抱えているのだろうか。人への思いも伝えられないのが分かっている人もいるのに。
「智穏は変わりないんだろう。」
「さぁ、今潤紀と話しているよ。歯車が狂わない事を祈るしかないよ。狂ったとき、止められるのは俺らしかいないんだ。」
信頼していた署長に裏切られて以降話そうという気にはなれない。意地を張り、威張りつける。探っていけば最低の人間である事が分かったのだ。雅也は今日も資料室にいる。最後の手段を選ばざる負えなくなったときのための仕掛けだった。
「一課長と最近話したか?」
「話してないよ。智穏は強い権限を持つ事を嫌っているから、話そうと思えば、話せるんだよ。けど、内容がないんだ。2係と署長には話をしたくない。嫌な印象しか持っていないからね。」
かすかすの部屋に乾いた空気が流れ込んでくる。それは守るとか言う概念を持たない人たちの歓迎の祝いだろうか。警察が狂っていたときの被害者は果たしてどれだけいるのだろうか。責任を感じる事はあるのだろうか。それとも関係のない刑事たちをただ利用するだけなのだろうか。