裏の秘書
佐伯琢磨は広々とした部屋できらびやかな椅子に座っていた。このところ野党の批判が強まっている。まず、どうしてここにいるのかなどの質問をしてくる。
「名取、お前は信じているだろう?俺がそんな野蛮なことをしていないと。」
「私は知っているんですよ。だって、ある団体から声をかけてもらいましたので、そちらに行こうかなと悩んでいるところですよ。死神はバカな人間ではないことは行動からわかりますからね。」
黒く染まった手帳には一体何が書かれているのだろうか。やるせないことも混じっているのかもしれない。秘書を変えてしまったことに後悔をしてしまう。一番都合のよかった秘書だったのに手を加えてしまった。
「野党だけでなく与党の批判もあることをお忘れですか?貴方が犯したことは週刊誌が流しているではないですか?国民も信頼をしていないと思いますよ。」
「君までそんなことを言うのか。分かっているのか?」
「崩れた砂の塔は元には戻りませんよ。一から立て直さない限り。」
砂の塔はきっと世論の声だろう。デモも盛んになっている。振り返ると敵ばかりが見えてくる。近くにいる人くらいはなんて考えるのはおかしなことだろうか。
「どうしてそう歯向かうのか?答えろ!」
「警察が来たんですよ。死神が貴方を狙っているのは言い方を選べば過去の過ちというのでしょうが、過ちでは済まない状態にしたのは貴方自身ですからね。」
警察が訪れることはないと考えていた。揺さぶっている人間がたくさんいるからだ。けれど、動くのは何か理由があるはずだ。
「貴方は何人国民を見殺しにすれば気が済むのかと問いかけられて困りましたよ。確かに、貴方と交渉するための手段と思ってやっているのは私にはわかりましたけど。」
「あのメールは死神と名乗る模倣犯だ。だから、大丈夫だ。」
「大学の事件を知っていますか?あの事件はそんな安易な考えが引き起こしたものであるとニュース番組で語っていました。人質にアナウンサーをとるといっているんです。多分、死神を誤った正義感で裁こうとした人だと思います。」
名取は何処かで早く目を覚ませと思った。此処まできて模倣犯なんて馬鹿げた行為を送りつけるだろうか。何度自分が大切だと宣言しているのだろうか。1歩だけ出るだけだ。テレビはどう思うかは個人的な判断だと思っている。アナウンサーを狙っているということは居場所がはっきりわかっているといっているようなものだ。国民を守らざるものに居残る資格なしとまじまじと思った。