siren
その日私は久しぶりに机に向かい明日の予習をしていた。中学の時とは違い、どの授業もまるで理解が追いつかず中間考査は散々な結果となった。
一応歴史ある進学校という事もあり、まだ入学してわずか数ヶ月だというのに志望校調査が行われた。
用紙に就職とうい選択肢はなく、私は仕方なく知っている有名私立大を書いて提出した。担任はさぞかし厚かましい生徒だと憤慨しただろう。あるいは鼻で笑われたか…
とにかく、高校に入ってからというもの浮かれてろくに勉強をしなかった私が自主的に机に向かう姿を見て母はいつになく上機嫌だった。
ひと段落して、リビングに行くと母はコーヒーと軽食を用意してくれていた。
「どう?勉強はかどった⁈」
「うーん…明日の予習は一応終わったけど。てか、授業進むの早すぎて正直全然ついていけないんだよね…」
「毎日コツコツやんないからでしょ⁈りょうちゃんが塾行きたいならお父さんに頼んでみるわよ⁇」
「うーん、それは期末の結果出てからで…」
「時間なんてあっという間なんだからね!言っとくけどうちは県外の私立も浪人も余裕無いんだから!」
「わかってるよ〜…ちゃんとやるじゃん⁈」
せっかく機嫌の良かった母が少し小言を言いだしたので、慌てて話題を変える。
「そういえばさ、脇田学校辞めたらしいよ。何か知ってる⁇」
「えっ⁈あの脇田君⁇辞めたの⁇全然知らないわよー。あそこの奥さんとはあんまり付き合いないのよね。それいつの話⁇」
「私も今日聞いたんだ。でもおとつい朝会ったんだけどそんな特に変わった感じしなかったんだよね…」
その時かすかにサイレンのような音が聞こえた。この辺りは住宅街の為、夜は静まり返りわりと遠くの音も聞こえるのだ。しかし、その音は次第に大きくなり数も増えているようだった。
数分後にはけたたましいサイレンがいくつも重なり家の前を通過した。
「近所じゃない?てかまだ来てるよ⁈西町の方⁈」
外が少しざわつきだした。
「私、ちょっと見てくる!」
「ちょっ、りょうちゃん危ないから!行っちゃだめ!!!」
玄関を飛び出し音の先を見ると、まるで恐ろしい龍のように黒煙が夜の闇へ昇っていくのがはっきりと見えた。
嫌な胸騒ぎを抱えながらとにかく無我夢中で走った。
そして既にできた人だかりの先に私は信じられない光景を目の当たりにする。
火祭りのように燃え盛る炎が包むもの。
それは紛れもなく脇田の家だった。