きっかけ
「ラブラブ過ぎ!うらやましい!」
「彼氏さんかっこいー♡♡」
「今日ダンナめっちゃイジられてたよーψ(`∇´)ψ」
「1ヶ月おめー♡」
「☆maaaai☆さん超幸せそう!可愛い♡」
「彼氏の友達紹介してー!
女子校まじ出会いねー(つД`)ノ」
「このリア充め(笑)maiだから許す(笑)」
初めて塁クンと話したのは入学式の翌日。私は放課後、小学校からの親友と一緒に帰るつもりでC組の教室を訪れた。中からはまだ先生の声が聞こえており、私は終わるまで廊下で待つ事にした。
少し小腹が空いたので、どこか寄り道したいなとかぼんやり考えていると、ガラガラっと地鳴りの様な音が響き後ろのドアが開いたかと思うと数人の男子が勢いよく出てきた。
親友もすぐに出てくるだろうと思い、しばらく待っていたがなかなか出てこないので後ろのドアから遠慮がちに中を覗いた。
ドアから一番近い席で男の子が帰り支度をしており、私が視界の隅に入ったのか顔を上げてこっちを見た。目が合った瞬間、ペコっと会釈された。私も軽く会釈して教室を見渡していると、また目が合い、どうしたの?と言わんばかりに首を傾げた。
「あの・・・田中さんの席わかりますか⁇えっと田中繭さん・・・。」
「ごめん、まだ全然クラスの子わかんなくて(笑)ちょっと待って?」
彼はそう言うと、いきなり大きな声を出した。
「田中さ〜ん!田中繭さ〜ん!まだ残ってるー?友達来てるよー!」
すると教卓を囲い楽しそうに喋っている女子グループの中から繭が振り返り私の方を見た。
「はいはーい!私が田中繭でーす(笑)山本君ありがとー!」
残った生徒達から笑いが起きた。
「あ、マイマイごめーん!今みんなでID交換してて!すぐ行く〜!つかマイマイも入っといでよ!」
と、その場から大きな声が返ってきた。生徒達の視線が私に集中し、恥ずかしくなった私は声を振り絞って「大丈夫、廊下で待ってるね。」と、伝えた。
元の場所に戻った私は壁にもたれ掛かって、ドキドキが収まるまで下を向いていた。
「今の子めっちゃ可愛いー♡」
「ほっせー!!アイドルかっ!!」
「小学校の時からの親友でマイマイって言うんだー!ちょっと人見知りだけど慣れたらすぐ喋るようになるから!仲良くしてやって〜!」
面倒見のいい繭が私の事をみんなに親友と紹介してくれているのが聞こえてホッとした。
その時、ドアが開いてさっきの男の子が近づいてきた。
「さっきはごめんね。俺デリカシー⁇ないからあんな呼び方になっちゃって(笑)知らんクラスで注目されたら気まずいよな!」
私より少し背の高い男の子は優しく笑いかけてきた。
「いえ、大丈夫です。こっちこそ呼んでくれてありがとうございます。」
「何で敬語なん?笑 タメなんだから全然いいよ!俺、山本塁。西中出身なんだー。そっちは?」
「あ、野村舞・・・。湊中出身です。」
「おー湊中!けっこう近くじゃん!何回か練習試合で行った事あるわー。あの坂キツいよなー(笑)」
人懐っこい男の子だなぁ。少し癖のある柔らかそうな髪の毛が笑うたびに揺れた。
「部活何やってたの?」
「サッカー!湊中出身のサッカー部の奴らも何人か知ってるよ!」
「山本君、友達多そうだね(笑)私は人見知りだから・・・」
「男はみんなこんなもんだよ(笑)俺がお調子者なんか?!とりあえず、野村さんも今日から友達って事で!!」
「え、あ、うん!よろしく!」
子供の様に笑う彼につられて私も笑顔になった。
その時ドアが勢いよく開いて、繭が出てきた。
「あー山本君!うちの可愛いマイマイにちょっかいかけないでくれるー?!」
笑いながら繭が私を守るように抱きついた。
「ははっ人聞き悪い事言うなよー!もう、俺と野村さんは友達だから(笑)ちなみに、田中さんもよろしくな!」
「なんっかチャラいわー(笑)まぁ、よろしくね!うちクラおもろい子多そうだし楽しみだね!」
「おう!じゃ、また明日な!野村さんも!」
少し寄り道する事にした私達。小さなテーブルはトレイを2つ置くとそれだけでいっぱいになる。
繭がニヤニヤしながら切り出した。
「マイマイ、山本君タイプでしょ!好きなら協力するよん♡ちなみに西中の子情報でけっこうモテてたみたいだから早くしないと誰かに先越されちゃうよ(笑)」
「確かにかっこいいなって思ったけど、でも今日初めて話したのに好きとかわかんないよぉ。」
「大丈夫、マイマイ可愛いんだから頑張ればソッコー落ちちゃうって!ねっ?とりあえず、見かけたらあいさつね!」
「も〜まだわかんないんだからね!勝手に暴走しないでよ!」
「わかってるってば〜(笑)うわっ」
繭が大袈裟に手を振った瞬間、アイスミルクティーの入った紙コップに当たり隣の人の足元にぶちまけてしまった。
「すみません、ほんとにごめんなさいっ!」
学生らしき男の人は一瞬だけこっちを見たが、無言で少しテーブルをずらすと何事も無かったように再びノートパソコンに向かった。
「もー繭ほんと昔っから落ち着きないんだから〜!」
小声で言いながら、隣の人にもう一度軽く会釈したが表情一つ変えず、ひたすらキーボードをたたいていた。その時コップに刺さったストローの先がペタンコに潰れているのが視界の隅に入ってきた。
繭の応援の甲斐もあり、しばらくして塁君に告白された私は晴れて彼女になった。
塁君への想いは付き合ってからも日に日に増していき、一時も頭から離れないほど夢中になった。
1ヶ月記念日はバイトを休んでくれた塁君と放課後デートした。そして帰り際、塁君と初めてキスをした。
私はあまりにも幸せ過ぎて少し泣いた。と、同時に大好きな塁君を誰にも渡したくないという黒い欲望に支配されていくのを感じた。
翌日、塁君が松田涼華と二人で話してるのを偶然見てしまった。
その瞬間、私の中で何かが壊れた。
あの女死ねばいいのに・・・