自覚
動画を見て以来、二人の姿がやたらと視界に入るようになった。
隣のクラスの山本君は特にそう感じた。きっと今までも無意識のうちにすれ違ったりしていたのだろう。そう考えると、なりふり構わず自転車を飛ばしたせいでボサボサになった髪の毛やマスカラもグロスもしない貧素な顔が急に恥ずかしく思えてきた。もちろん、むこうは私の名前すら知らないだろうけど・・・
昼休みになり、お弁当を持ってこなかった実加子について購買に行った。いつもこの時間になると近所で評判のパン屋さんが売りに来ており、早くも行列ができていた。
「うちまだ1回もカレーパン食べてないわー。今日も絶対無理だし。てか、人気あんだからもうちょっと数増やして欲しいよねー」
「ほんとそれな!てか先生もせめて4限目だけはきっちり終われよって感じ!」
「まじ貴重な昼休み返せよって感じ(笑)」
少しずつ前に進む中、不意に後ろの会話が耳に入ってきた。
「お前まじであれはねーわ」
「いくら舞ちゃん可愛いつっても、あんなんよく撮ったよなーwしかも、公開されてるしw」
「俺もまさかブログにあげられるとは思ってねーし、一応撮るのも拒否ったよ?」
「塁君大好き、幸せー♡だってwラブラブじゃんw」
咄嗟に振り返ると、真後ろで山本君が友達にからかわれていた。すぐに正面を向いたが一瞬山本君と目が合った気がした。
実加子も後ろの存在に気づいたのか、いきなり振り返るとズケズケ話に割り込んでいった。
「噂の山本じゃんw一気に有名人だもんね!」
「おー刈谷さん!やっぱ噂なってんのー⁇こいつなかなかやるっしょw塁君、だ〜いちゅき〜♡」
「お前まじこれ以上言ったらしめる(笑)」
山本君は笑いながらも隣の男子を肘で押した。
「舞昔からモテるし、男除けなってちょーどいんじゃね⁈ま、どっちかっつーと舞が完全に所有物アピールしてる感じ⁈うちの彼氏に手出すなよ的なー⁇笑」
実加子の挑戦的な言葉に少し焦った。山本君と仲が良いのはわかるが、今のは明らかに舞ちゃんへの悪意が剥き出しで、山本君もきっといい気はしないはずだ。
「実加子、カレーパン1個だけ残ってるよ!」
アイの一言で、微妙な会話が途切れた。アイはいつもこうして空気を読んでくれる。今まで誰も悪者になる事なく、ケンカせず平穏にやってこれたのは間違いなくアイのおかげだ。実加子もさすがに悟ったのか、
「ま、お幸せにね〜またに〜」と軽く手を振った。
その時、山本君の口からまさかの名前が呼ばれた。