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「・・・え?」
クラスがざわつく。シルヴィア…本気でいってるの?私の知ってる彼女ならこういうことはまっさきにやるタイプだし、その素質もある。
「あらあら??困りましたね~?シルヴィアさんどうしちゃたの~?」
空気を読まないエアリス先生が続ける。
「シルヴィアさんがこのクラスで一番優秀なのよ~?クラスの主席が総大将になるのが一般的なのはわかってるでしょ~何かやらない理由でもあるのかしら~?」
「エアリス先生。確かに、私が総大将になったほうがいいと考えている人はいるでしょう。実際、模擬戦では大将の戦闘不能がそのまま敗北を意味しますので、大将はある程度力を備えた人物にしか務まらないのは分かっています。私が適任なのは自分でもわかっていますが、それでは優勝できないでしょう。」
「そんなことないわよ~」
「いえ、そんなことあります。」
シルヴィアが有無を言わさない態度で言い放つ。
「基本総大将は前線に出ない。出たとしても最終局面でちょこちょこって出るだけでしょう。それではクレイグ…A組には勝てません。それに、私が前線で出て行って敵を叩いたほうがよっぽど後ろで待機しているよりも、よっぽどいいかと普通に考えてもったいなくありませんか?」
クラスメイトがざわついて話しだす。確かにロジックだ。しかし、長年の付き合いである私から見ても、彼女らしくない。シルヴィアは続けて言う。
「それに、わたくしチェスはあまり得意じゃございませんの」
チェスのうまいへたは関係有るのだろうか・・・? ていうか、あなた別に弱くはないでしょ。
「ん~シルヴィアさん大将になってくれないの~?困りましたわ~」
エアリス先生がため息を尽きながら、机に肘をついた。
「もう先生シルヴィアさんに任せるわ~ いちよう総大将を運営側に伝えなといけないから、早く決めてほし~わ~」
そういうと、教壇からおり教室の端のほうにある、先生用の椅子に座った。
こいつ・・・総大将を決めて上に報告しないと自分が帰れないからって・・・
エアリス先生はほんとに教育者としての自覚があるのだろうかと、クラスの決めごとする度に思う。
ただ、彼女が専門としている歴史の授業はわかりやすく、評判もいい。
司会を任されたシルヴィアが、みんなの前にたつ。
「皆さん、これは単なる学内イベントではないことを誰しもがわかっているでしょう。できるだけ優勝を狙いにいきたい。しかし、私は正攻法では勝てないと思いますの。きっとたちはばかるのは、クレイグ率いるA組でしょう。だから、普通に戦っても負ける。だったら、どうやるか?」
「だったら、相手に私が大将だと思わせて囮となるのが一番ですわ!」
「た、たしかに、、、」
無茶苦茶だが、不思議と説得力がある。それが正しいと思わせる不思議なチカラが彼女にはある。
「お、おい・・でも、どんだけこっちが優勢でも、大将がやられたら負けなんだぜ? だったら大将がやられにくいやつにこしたことないんじゃ…」
「やられる前に私が敵の大将の首を討ちます」
その論理は彼女の自信からくるのか…さすがエインズワースの令嬢。やっぱり無茶苦茶だ。
「なんだそのロジック~」「ふざけんなー」「ついに頭が逝ったか!」「自己犠牲もいい加減にしろー」
クラスから野次が飛び交う。
4大公爵家であるにもかかわらず、他の貴族たちが彼女に口答えできる。
家柄を感じさせる高貴さや誇りを持ちつつも、それが鼻につかず、公平でどんな人でも平等に接する彼女の人柄が、誰からも好かれる謂れなのだろう。
「うるさいですの!!!」
野次が止まる。止まっちゃったよ。止まるなよ。
「じゃあ誰が大将をやるんだよ~」
クラスメイトたちが問いかける。たしかに、そこが問題だ。
「簡単なことですわ。大将はジュリエットですの。」