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昔はもっと話す人だった。
クレイグがああなったのは、いつからだろうか。
戦争が始まってクレイグはカスティーリャ王国に亡命していた頃がある。戦争か
ら終わって帰ってきた時には、もう今のような感じになっていた。
かつての面影は消え、あまり感情というものを出さなくなった。
しかし、時たま強い怒りのような感情を見せる事があった。
その対象はアメリアに向けられた。
特に、アリスや元老院に対してはかなり批判的な姿勢をとっていたと思う。
カスティーリャで何があったのか?それを聞き出せる日は来るのだろうか?
いや、違うな。きっとクレイグを変えてしまった出来事は、、、
「本当にお前は納得しているのか?」
先ほどのクレイグの問いが頭のなかで反芻する。
その時私はどんな表情をしていたのだろうか? どうして、逃げるように彼の前から去ったのだろう。もう、自分では踏ん切りはついていたと思ってたのに・・・
「・・・変わってしまったのは・・・私の方かもね・・・」
ジュリエットはそう自嘲気味につぶやいた。
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翌朝のミーティングではトイルリー杯についての話だった。
「みなさんも知っているかと思いますが、ちょうど一ヶ月後の今日、トイルリー杯がありますね~。由緒ある大会なので、優勝したらそれゃもう大変ですね~」
E組の担任であるエアリス先生がトイルリー杯について軽く説明する。
正確には説明になっていないのだが、エアリスはいつもこんな感じなので誰も突っこまない。
ちなみにもう少し深く掘り下げると、トイルリー杯と言うのは、毎年トイルリー魔術学校の最高学年のみで行われる大会であって、ひとことで言うとクラス対抗の模擬戦等である。
もちろん戦闘といっても、本物の剣や銃などは使わない。
使われるのは、特殊魔法で加工した剣などに見立てた武器で、叩かれても痛くならないよう柔らかい素材で作られているが、それに触れると、戦闘が終わるまで魔術の力で動けなくなるという。見方によっては非常に危険だ。
その大会は学校内にとどまらず、アメリアで広く知られている。
いろいろな政治的要因があるのだが、一つはトイルリー魔術学校の公式行事として、これが唯一外部の人、(ここでは生徒以外の人といったらいいだろうか〉の閲覧が可能なこと。
そして、貴族を含む俗にいう国のお偉いさんがたくさん見に来る。理由はこれが軍事的な要素が強いということ、この模擬戦闘では、個人の魔術力や剣技力、そして指揮力が見られる。将来、アメリア王国を担っていく優秀な人材を探しているわけだ。
「今から、総大将を決めたいと思います~。誰かやりたい人~」
見るからに穏やかな雰囲気の口調で言うエアリスだが、実際はそんな甘ったれたもんじゃない。
トイルリー杯に出場するのでさえ大変光栄なことであり、皆が虎視眈々と優勝を狙っているのだ。
総大将を決めるというのは、いわば兵隊を指揮する人を決めるわけなので地味に重要なのだ。まあ、実際総大将になるのはこのクラスで一番成績の良い…
「はい!」
いきよいよく手を上げたのは、私の旧友シルヴィア・エインズワースだ。当然だと思った。彼女は四大公爵家エインズワース家の令嬢にして、現在学年成績がクレイグに次いで2番目である。才色兼備、格式も十分すぎる。シルヴィアが大将をやることは、これから春の色が濃くなり、暖かくなっていくほど当然で、後期に私が単位を落とすほど目に見えてることだった。
「シルヴィアさんがやってくれるの~?心強いわ~」
うふふと脳天気に笑っているエアリスを横目にシルヴィアは毅然たる態度で言った。
「私は総大将をやるつもりはございませんわ。」