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その日の授業が終わるとすぐに、ジュリエットは図書館へ向かう。
特に調べ物があるわけではない。
その日の授業の復習や予習のために放課後は図書館へ勉強しに行くのだ。
一通り勉強したあと、面白そうな本なんかを借り、その場で読むか、借りて家へ持って帰る。それが彼女の日課になっている。
いつものように、勉強が終わり、家へ帰る支度をしていると、クレイグが図書館の中へ入ってきた。
彼は適当に空いている席に座ると、そこに自分の荷物を置きなにかを探しに本棚の方へ行ってしまった。
クレイグを図書館で見るのはこれが初めてではない。彼はここへは勉強しに来るのでなく、いつも何かを探しに来ている。
いつもなら、声もかけずに帰ってしまうジュリエットであったが、今日はなんだか人と話したい気分だ。
ジュリエットは探しものをしているクレイグの背後に近づいて話しかけてみることにした。
「クレイグ!」
私が声をかけると、彼はこちらを睨みつけながら、読んでいた本からこちらに視線を移し、持っていた本をパタンと閉じた。
「何を読んでいたの?」
「お前には関係ないことだ。なんだ、オレに何か用か?」
ああ、なんか怒ってるな。
腕組をしたまま、こちらを睨みつけてる。
「用がないんだったら、さっさと失せてくれないか?」
「なによその口の聞き方。もしかして、見られて恥ずかしいものでも読んでた?」
「・・・」
クレイグの視線が軽蔑の色を含む。
そんなクレイグを傍目に、ジュリエットはクレイグがいる両脇の本棚の本をみて、ここがなんのジャンルのコーナーなのかを見る。
『アメリア王国全史』
『英雄アンリ・ロメールの生涯』
『変わった貴族。シュバルツシルト家』
どうやら歴史コーナーみたいだ。
「冗談よ。来月のトイルリー杯の調子はどう?」
「・・・悪くはない。」
「まあA組はあなたがいるから楽勝と思っていそうね。」
「・・・」
「優勝しかないと思っているんじゃない?」
「・・・」
「その予想は残念ながら外れるわ。なぜなら勝つのは私達E組だからね。」
「・・・そのやかましい口を閉じないか?」
クレイグが口を開いた。
「・・・」
「なんの用だジュリエット。その滑稽な茶番を続けるつもりなら俺は帰る。」
「・・・ただクレイグと話したかっただけよ。邪魔して悪かったわね」
これ以上は時間の無駄かとジュリエットは思いながら、同時にもうクレイグともう一度あの頃のようになれるのは無理な気がしてきた。
こう思うのはもう何度目のことだろうか。
クレイグに背を向けて立ち去ろうとした時、先ほど目にした本の題名の単語がふと頭をよぎった。
『シュバルツシルト』
ジュリエットは数歩クレイグから離れたところから、振り向いた。
「クレイグ。レイチェルのことはもう忘れなさい。どうしようもなかったの」
読書に戻っていたクレイグは顔をあげてこちらをじっと見た。 そこには先ほどの邪険な剣幕はなく、かつての、まだ私達が仲が良かった頃の雰囲気を感じた。
私は背を向いた。なぜだろう。彼を見ていられなかった。
「・・・ジュリエット」
クレイグが言った。
「本当に、、、お前は納得しているのか?」
「・・・・・・もう昔のことよ」
そう答えると、ジュリエットは逃げるように図書館をあとにした。