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「魔術には2つの種類があります。」
微笑みながら、アドルフ先生は黒板に大きく、実体魔法と属性魔法という文字を書いた。
アドルフ先生は、私達が小等学校に通っていた時の、基本魔術の先生であった。
「実体魔術というのは、魔力があって練習さえすれば誰でも使える魔法です。無属性魔法とも呼びますね。
ものを動かしたり、光を照らしたり。
上級になれば、自分の能力も一時的に、例えば走る速さとか、を高められる便利な魔術です。」
アドルフ先生は、続けて説明する。
「一方属性魔術というのは、少し変わった魔法です」
黒板に書いた「属性魔術」に、せんを引いて、7つの文字を書きながらいった。
「基本4属性と呼ばれる、火、水、空気、土があり、さらに例外属性として、光、闇、そして時空と呼ばれる属性が有ります。人々はこれらの中から必ず一つは絶対専門属性を持っています。」
もちろん中には、2つや3つ持っている人もいます。 属性魔法は、その自分の専門魔法しかできません。例えば、私の場合、専門魔法が風と水なのですが、火属性と土属性の魔法は使えないんですね。」
「せんせいせんせい! はーい!」
私の後ろで座っていた、マリウスは元気よく手を挙げた。
「何でしょうマリウス様?」
「その専門魔法っていうのは、いつわかるんだ??」
「いい質問ですね。マリウス様。個人差があると言われていますが、一般的には14~16歳までに自分の専門魔法というのがわかります。それを覚醒と言うのですがね。」
「覚醒なら聞いたことがあるぜ!いつも母上がオレの覚醒が楽しみだっていってくるもん。」
マリウスは、自分の家が代々水属性を得意にしているところだと誇らしげに言う。
「でもよぉ、それってどうやってわかるんだ?」
「そんなこともわからないのか?」
冷やかし気味にクレイグが横槍を入れる。
「パピルスを手に握ってそこに自分の魔力を貯める。それだけだ。」
そう言うとクレイグはくしゃくしゃの紙をポケットから取り出した。そしてそれを握り意識を集中させた。すると、拳から微かな光が指先からあふれだし、やがて光は消えた。クレイが拳をゆるめると、燃えカスがゆらゆらと手のひらから舞い散った。
「おやおや。クレイグ様はもう覚醒したのですか!?さすが、ローゼンクランツ家のご子息ですね。」
先生がいうには。8歳で専門魔法を覚醒させるということはものすごく早いそうだ。
また、これは後から知ったことだが、覚醒した年が魔術の才能がわかる一種の度量となるらしい。
このころから、クレイグは頭角を現していたわけだ。
一方この私は17になるのにもかかわらず、パピルスを握り意識を込めても紙に何も変化が見られない。
これには私だけではなく、両親は相当焦っており、信仰心が足りないなどと、なにかと怪しげな魔術セミナーへの参加やフランドル教の集会への参加を促されているが、私にはそんな時間がないのだ。
遅くとも、後期の始まり、9月の中頃までに覚醒できなかったら、専門魔法が関係する単位は必然的に取れない。
つまり、留年を意味する。
これはプライドに関わるだけではなく、フォンティーヌ家の恥さらしになることは目に見えている。それだけはなんとか避けたかった。
パルティアの例の件でいま、両親と、3つ年の離れた姉はここ数日間家へ戻っていない。
ジュリエットは使用人が用意した朝食を平らげると、早々と学校へ向かった。