58話 希望の見える明日
完結です!
「聞いてない……聞いてないです……」
もうお先真っ暗だ。
テーブルに頭を乗せて呟くわたしの頭を、鈴さんがよしよしとなでてくれる。それでも心は晴れません……。
「勇者って……一人じゃないんですか……」
「だから、“各国に”一人だ」
「なんで……なんで一人じゃないんですか!!」
普通勇者は一人でしょ! なんで魔王だけが一人で、勇者が数人いるんですか!! ずるい!!
涙目のわたしに、ジェイクさんはしれっとした顔だ。
「なんでも言われても、俺が決めたわけじゃない」
「そうですけど! そうですけどぉぉ!!」
まさか、世界各国に勇者が散布されているとか思わないじゃないですか!
泣きながらも、そういえば『勇者レイン』の前には『ギルドニア国の』という言葉が付随していたことを思い出す。『勇者レイン』がギルドニア国出身、というわけじゃなくて、『ギルドニア国の勇者』が『レイン』だったんですね……。
それは理解できた。ついでに、印に血を集めるという作業が、攻略率ほぼゼロの無理な挑戦だった事も。
くっ、それをわざわざ見せつけるとは……。
恨みがましい目でジェイクさんを睨みつけるものの、本人はどこ吹く風だ。テーブルの上の印をしげしげを見つめている。
「攻略した相手の場合は、近付いても青くならないんだな」
「印の仕組みを知るためだけに、わざわざ血を流したんですか!」
「いや。お前に協力しようと思って。血が少量で済むかどうかの確認だ」
……え?
きょとんとしたわたしに、例のにやりとした帝王様の笑みが浮かぶ。
「“勇者を倒す旅”なんて、心惹かれるだろ」
「え? は?」
「ジェイク……まさか、ジュジュと一緒に勇者を倒しに行く、とか言うつもりじゃないよな……」
「そのまさかだ」
「ばっ、馬鹿野郎!! 何言ってんだお前!!」
ガッ、とウィナードさんがジェイクさんの胸倉を掴む。
「お前、曲がりなりにも勇者だろ! なんで勇者が魔王の肩を持つんだ!」
「魔王じゃなくて、まだ候補者だろ。まあ、俺自身、他の勇者と戦うのが楽しそうだという理由もあるが――……」
あるの!? いや、それは黙っていた方が良かったんじゃ。
睨みつけられているにも関わらず、涼しい顔でジェイクさんはわたしを指差した。
「魔王と言っても、あれだぞ」
あれって。
ぽかんとしているわたしを、ウィナードさんが横目で見る。ジェイクさんが、襟を掴まれたままでわたしを見た。
「真珠。お前は魔王になったらどうするんだ? 世界征服でも目指すか?」
買い物のリストでも聞くかのように、淡々と尋ねられた。
え? わたしが返事をするんですか?
「えーと……魔王になるとか、全然想像してなかったです……」
「じゃあ今考えろ」
「……少なくとも、世界征服はしないです。手に余りますし……」
もし、もしわたしが魔王になったら。
考えたこともなかった。でも、もしそうなったとしたら――……。
「……人間と、もう少し分かりあえる事が出来たらな、と思います。そうすれば、魔族もわざわざ変装して出稼ぎに来なくて済むし……」
「だ、そうだ」
ジェイクさんが言うと、ウィナードさんは小さくため息をついて、ジェイクさんの襟から手を離した。
「こいつが魔王にならなかったら、次にどんな奴が魔王になるかも分らない。それなら、この平和ボケしている小娘に魔王を任せた方がましじゃないのか?」
「ジュジュをダシに使うな。お前が勇者と戦いたいだけだろ」
じろっと睨んでから、ウィナードさんがわたしの前に来た。しゃがみこんで、椅子に座っているわたしより少し低い目線になる。
「ジュジュ。君が望む世界は、人と魔族が共存できる世界……それは信じて良いんだな?」
まっすぐに見つめられてうなずく。
戦ったり憎んだり、そんなのは必要ない。わたしは、青い空を見ていたい。
わたしがうなずくのを見て、ウィナードさんが微笑んだ。
「それなら、俺は君に協力する。君が立派な魔王になれるようにね」
「え? ウィナードさん……」
いいんですか? と尋ねる前に、鈴さんが歓声を上げた。
「さっすがウィー! 分かってる!! 勿論あたし達も協力するわよ~」
「んだ。ジュジュなら、いい王様になれるべ」
「ジュージュ! 王様、王様!!」
「え? え?」
「まさか、勇者が魔王を育てようとするなんてね……でも、あたしはジュジュの味方だからね! 疲れたらいつでもここに戻っておいで。後、ジェイクが何かしたらすぐにあたしに言うんだよ!!」
「お、おかみさん??」
「ライカとか言ったわよね? あんたもジュジュに協力するんでしょ?」
「ああ、そのつもりでついてきたし」
「よーし、じゃあここに“ジュジュを魔王にしようの会”結成ね! ぱーっと行くわよ!!」
「って、飲む気か!」
「もっちろん! 結成の祝い酒よ~!!」
……わたしだけ取り残されているような。
ぽかんとしたまま座っていると、雷翔が苦笑いを浮かべた。
「お前凄いな。まさか、勇者一行を味方につけちゃうなんてな」
「……ジェイクさんには名前を握られてるんだけどね……」
でも。
島から出てきた時のような絶望はもうなかった。道が、少しだけ見えた気がした。
明日がどうなるかなんて、誰にも分からない。でも――希望が見える明日もある。
なんか、訂正したけどあまり変わらなかったかも…(^_^;)
駄文にお付き合い頂いた皆さん、どうもありがとうございました!
白亜は結局敵だったの?とか、なんで前魔王は真珠を魔王候補にしたの?とか、色々解明できていない点があると思うのですが、短い続編と番外編を書きたいと思っているので、そちらで解明していきたいと思います。更新は相変わらず亀だと思いますが、お付き合い頂ければ幸いです。




