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白の魔王の物語  作者: まる
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57話 珍品扱いでした

 わたしのノミのような小さい心臓は、なぜかこの時に限っては丈夫でした。


 そうそう都合よく気絶できるわけもなく、この狭い部屋で勇者一行プラス雷翔プラスおかみさんという、決して接点が生まれなさそうなメンバーに取り囲まれて説明を促されているわけで。

 きらきら青く輝く印が乗せられているテーブルを中心に、わたしの生い立ちから経歴まで全部白昼に曝されました。


「魔王候補ねぇ……」


 おかみさんが呟く。その視線が、わたしの頭からつま先まで何度も往復しているのが、見なくても分かります。ですよね! そんな反応ですよね!!


「あたしには、普通の女の子に見えるけどねぇ。魔族とかも信じられないし……あんたも魔族には見えないしねぇ。どこかに目印とかあるのかい?」

「目印というか――ま、普通大抵魔族は人間と違う姿形をしてるんだけどな。こっちに来た時はばれないように姿を封じてる」

「ジュジュもかい?」

「いや、こいつは元からこんな感じ」

「……人間にしか見えないけどねぇ」


 繰り返さなくても分かってます!

 と言うか、おかみさん順応性高いですね! 雷翔も普通に会話してるし!!

 ちょっと、雷翔さん。人間に正体ばれたらまずいんじゃなかったんですか??


「本当に魔族っているもんなのねぇ。あたし、初めて見たわ」

「おらもだべ」


 鈴さんとルークさんの会話もなんかほのぼのしてるし!!

 一人だけ焦っているわたしがおかしいみたいじゃないですか!! ぼっちか! わたしだけのけ者ですか!!

 耐えきれずに、わたしは雷翔の服の袖を引っ張った。


「雷翔! 魔族だってばれたら殺されるんじゃないの!?」


 小さい声で聞いたつもりだったけれど、どうやら他の人にも聞こえていたようだ。

 一瞬の間が空き――爆笑。


 なんでぇぇぇ!?


「な、なんで笑うんですか!」

「いや、ホント、ジュジュ面白い! かわいい!!」

「何がです……うわ、ちょ、鈴さん苦しい!」

「ああ、そっただこと思っとったから、必死に正体隠してたんだか」

「言ってたじゃない! おばば様も雷翔も白亜様も、ばれたら終わりだって言ってたじゃないのぉぉ!!」

「ま、確かにな。でも、ギルドニア国――ここのことだけど、ここはそこまで狭量な国じゃないから、そこまで警戒しなくても大丈夫だろ」

「なにそれ! 聞いてない!!」

「地理のこと、まだ勉強してなかったのか? でも、この国は特殊な方だから。全体的に見たら、魔族だってことは黙ってた方が身のためってこと」


 なにそれぇぇ……。

 力が抜けた。ぐったりしたわたしを、鈴さんがぎゅうぎゅう抱きしめる。それを拒絶する力も残っていません……。


「この国じゃ、魔族はめったにお目にかかれないレアな生き物っていう認識が強いのよ。だから、見つけ次第殺さなきゃなんて考えてる人はあまりいないんじゃない? あたしも魔族に会うのは初めてだけど、こんな普通の子だとは思わなかったわ~」

「でも、確かに魔族だってばれるのはまずいかもな。それこそ攫って売り飛ばそうとされたりするんじゃないか?」

「あ~、有り得る」


 なんですか。珍品扱いですか。

 何はともあれ、今は命の危険が無いようです……。

 よしよしとわたしの頭をなでながら、鈴さんが首を傾げた。


「というか、その前の魔王とかいうやつも、なんでジュジュみたいな子を選んじゃったわけ? 話によると、弱くて魔族としてはだめだめだったんでしょ? それに、魔王には優秀な息子とか居たとかいうし……なんで?」


 それはわたしも聞きたいくらいだ。

 鈴さんは憐れむようなため息をついた。


「ホント、ジュジュって災難続きの子ね……魔王候補にはされるわ、魔族に追われるわ、逃げた先ではこんな奴に捕まっちゃうし」

「俺の事か?」

「当たり前でしょ! あんたの方が魔王と言われて納得できるわよ!!」


 鈴さんの言葉に、おかみさんが呆れたような声をだした。


「魔王候補がジュジュで、勇者がジェイクとはね……魔王と言い、ギルドニア国王と言い、見る目がないというか、もっとしっかり人選できなかったもんかね」


 ごもっともです。

 反論する言葉も出ずにいると、それまでにこやかに話を聞いていた雷翔の表情からふいに笑顔が消えた。


「ジェイク、とか言ったな」


 厳しくて、窺うような声。その目も、じっとジェイクさんを見据えている。


「お前は真珠をどうするつもりだ? 魔王候補を消すつもりか?」

「別に、ちょうどいい玩具になりそうだったから戦っただけだが」


 玩具って……。

 緊迫した空気を物ともせず飄々と答えたジェイクさんに、唖然とする雷翔。


「おもちゃって、お前……」


 そんな憐れみの目で見ないで下さい。

 ジェイクさんは、細い顎に手を当てて何か考え込み始めた。


「興味がなかったらウィナードに相手をさせたんだが、何かと面白そうな奴だったからな。でもそうか……魔王候補……」


 何か思いついたらしい。ニヤリとした笑みが浮かぶ。


 いや、絶対碌でもない事ですよね!! その笑い方!!

 わたしを含め周りの人は皆、思い切りひきつった顔をしながらジェイクさんの行動を見守る。ジェイクさんはそんな周囲を全く気にした様子もなく、印の乗っているテーブルに近付いた。


「これが、例の“魔王の証”か?」

「はい……それに勇者の血を得る事が出来たら、わたしは魔王として認めてもらえる事になってます」

「そうか」


 じっと印を見下ろしていたかと思うと、突然腰から短剣を抜きとって――指先を切った。


「ジェイク!?」


 ウィナードさんの驚く声。

 ジェイクさんは、無表情のまま親指から流れる血を印の上に垂らした。ぽたり、と赤い滴が青い宝石に触れる。

 その瞬間、青い宝石が赤く光って――!!


「え?」


 透明の宝石に。


「え? あれ? なんで??」


 勇者の血を与えれば、宝石が赤く輝き力を得る――じゃなかったの、白亜様!!

 何、嘘ですか!? ガセですか!!


「赤くなるはずじゃ――……!?」

「赤くなっただろ、一瞬だけどな」

「いやいやいや! 勇者の血を吸えば、赤くなるとか聞いてたんですよ!! そんな、一瞬だけなんてことは――……なんか、凄い力が得られるとか言われましたし!!」


 まじまじと見つめるけど、変わった所は見当たらない。宝石にかかった血が消えているのは不思議だけど……もしかして、わたしには分からないの??


「わたし、魔力もないから感じないのかも……」

「魔力なら、おら持ってるべ。さっき、赤く光ったべ? そん時は凄く強く感じたんだども、今は大して強い魔力は感じられねぇだよ」

「えー……??」


 なんで?

 困惑しているわたしに、指をなめていたジェイクさんが呟くように言った。


「足りないんだろ、血が」

「え」


 それって、もっとどばっとかけないといけないって事? 怖!!


「他の勇者の血も必要ってことだ」

「え?」


 今、なんて?


「だから、他の」

「他の……」


 他の勇者ぁぁぁ!!??

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