56話 ままならないことってありますよね
にこやかに部屋に入ってきた雷翔に、ウィナードさん達は驚いた顔をした。鈴さんがさりげなく雷翔の前に立ち塞がる。
「見たことない顔だけど、どちら様? ジュジュの知り合い?」
気さくに声をかけているけれど、よく見るとその目は雷翔をしっかり見据えている。雷翔の正体を見いだせる印を探しているみたいだ。わたしと初めて会った時も、こんな感じだったんだろうか? 客観的に見て、初めて彼女の性質を知った気がした。
話しかけられた雷翔は、その視線や疑いを全く感じていない様子だ。
「ああ、俺は――」
「知りません!」
慌てて雷翔の言葉を遮る。
もうウィナードさん達にはわたしの正体がばれている。赤髑髏の被害者だと思われていた状況だったら、助けてくれた恩人で済ませることができるけど、今知り合いだと言ったら、雷翔まで魔族だとばれてしまう。
叫んだわたしに一番早く反応したのは、雷翔だった。
「おい! なんだよそれ。心配して必死に探してたんだぞ」
「知りません! 人違いです!!」
「何、怒ってんだよ! 一人にさせたのは悪かったって!!」
「だから、違います!!」
雷翔! 空気読んで!!
必死に他人のふりをしようとするけど、雷翔には全く通じていない。わけわかんねぇ、と呟きながら頭をかいている。
それでも何とかあがいていると、
「おい」
「ひ!」
冷たい声に、恐る恐る声の発信源に目を向ける。
腕組みをして、絶対零度のまなざしでこちらを見ている帝王様のお姿が。
「勝負はついてる。お前の名前は、俺のものだったな」
「はい……」
「お前の命は俺が握ってる。分かってるな?」
「はい……」
「話せ」
「……はい……」
絶望。
蛇の前の蛙とか、クモの巣に捕まった虫とか。こんな気分なんですね……。
もうわたしの命はジェイクさんに握られている。彼の命令は絶対だ。
でも、わたしの言葉で雷翔に迷惑をかけてしまうという事実が、わたしの口を重くさせた。あのー、その……と言葉を濁すわたしに、ルークさんが尋ねてきた。
「ジュジュ。もしかして、この人も魔族だか?」
「えっ! ええ!?」
言い当てられて、思い切り動揺してしまう。
混乱するわたしを、呆れたような顔で雷翔が見下ろした。
「お前……ばれたのか?」
「魔族!? ちょっと、どういうことだい!?」
その隣では、驚きのあまり大声で叫ぶおかみさん。
部屋の中は動揺やら驚きやらで満たされて、どこから手をつけていいか分からない状況だ。
ああ、もういっそ気絶したい。




