表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の魔王の物語  作者: まる
55/61

53話 覚悟は決まりました

「大丈夫だった?」


 部屋に戻ると、鈴さんが心配そうに尋ねてきた。

 同室の鈴さんには、ジェイクさんの所に行くことをあらかじめ伝えていた。その時はものすごく心配をされて……一人で行くなんて正気かとまで聞かれたけど、きちんとお礼を言いに行きたいと説得した。


「大丈夫です。ちょっとお話してて遅くなりましたけど、何もされてないですから」

「ホントにジュジュって凄いわよね……あのジェイクと話ができるなんて」

「前にもそんなこと言ってましたけど、ジェイクさんって話をしないんですか?」

「まあ、あたし達には一応会話するけど、人に関心がないのは確かよね。見た目が良かったり人と違うオーラがあったりするから、一部の人からは好意をもたれるけど、本人の関心はゼロ。自分勝手に行動するし、もっと協調性っていうものを学んでほしいわよ。騎士学校に通っていたらしいけど、あんなんでよく卒業できたわよね」


 後半は愚痴になってきている。でもまあ、一緒に旅をしている鈴さんにとって、協調性は身につけてほしいものなんだろうな。……なかなか難しそうだけど。


「でも、ジュジュがいたらちょっとは変わるかもね」

「え? わたしですか?」

「ふふ、女の勘みたいなものかしら? ま、帝王様がそう簡単に変わるわけないだろうけど。でもジュジュにはこれからもお世話になりそうだわ。よろしくね」


 パチンとウインクをして、鈴さんは「おやすみっ」と、さっさとベッドに入ってしまった。

 わたしが誘拐されたと知ってから、ウィナードさん達はすぐにメイジェスからザイアに向かってくれたと、クーファが教えてくれた。疲れていたんだろう、すぐに鈴さんのベッドからは寝息が聞こえてきた。


「……おやすみなさい」


 これからも。よろしく。

 その言葉に返事をすることはできなかった。




 空が青い。太陽がある。

 初めて見た時には感動しきりだったこの空にも随分慣れてきた。


「どうしたの?」


 ベッドに座ったまま、窓をぼーっと見ているわたしを不思議に思ったのか、鈴さんがわたしの視線を追って窓に目を向けた。


「いえ、綺麗だなって思って」

「そう? まあ良い天気よね。それより、早く下に行きましょ。乗合馬車の時間に遅れちゃうわ」


 身支度を整えて、部屋を後にする鈴さん。


「……大丈夫」


 ずっと見たかった青い空が見られた。

 優しい場所があることも知ることができた。

 わたしの正体を知った勇者一行の反応が怖くないとは言わない。でも、これ以上黙り続けている方がつらい。

 雷翔の事は気がかりだけど、これ以上彼に頼り切ってばかりじゃいられない。それじゃわたしは何も変われない。


 大丈夫。覚悟はできた。




「ジュジュ! おはよう」


 階段を下りるとすぐに、おかみさんが笑顔で迎えてくれた。手に持っているお盆には、ほかほかと湯気が上がっているパンが乗っている。


「うわあ、美味しそう!」

「焼き立てだからね。美味しいに決まってるだろ。ほらほら、さっさと席に座って。ウィナード達が待ってるよ」

「はい。あ、そうだ、おかみさん。一つ、お願い事があるんですけどいいですか?」

「ん? なんだい、改まって」

「雷翔っていう人が、わたしを探しに来るかもしれないんです」

「……知り合いかい? 思い出したのかい?」


 急に真剣な顔になったおかみさんに、わたしは曖昧に笑った。


「わたしを助けてくれた人なんです。ジオさんの話だと、わたしを探してくれているみたいで」

「なんでそんな大事な事黙ってたんだい! あんたを探しに来るっていうんなら、ここにいればいいじゃないか」

「ウィナードさん達、赤髑髏の事を王様に報告しに行かなくちゃいけないって言っていましたし。わたしの都合で、ウィナードさん達を困らせる事は出来ないですから」

「困るって……ジュジュ、勇者の仕事は困っている人を助けることだよ。報告なんて二の次さ! あんたが言いにくいなら、あたしから言ってあげるよ」


 おかみさんの言葉に、頑なに首を振る。


「勇者だからって、ウィナードさんばかりに頼るのは違うと思うんです。自分でできる事は自分でしないと。誰かに頼ってばかりじゃ、わたし、いつまでたっても足手まといのままだから」

「あんた……ホント、真面目な子だね。いいよ、そのライカってやつが来たら、あたしはどうすればいいんだい?」

「……伝えてもらえますか? わたしの事は気にしないで、帰っていいよって。あと、ありがとうって、伝えてください」

「なんか、遺言みたいなセリフだね……」

「えっ? そうですか!? じゃあ、後は自分でなんとかするからよろしく! って伝えてください」

「急に軽くなったね。まあ、いいよ。そんな感じで伝えればいいんだね」

「はい! よろしくお願いします」


 頭を下げて、ウィナードさん達の席に向かう。

 ああ、遺言とか言うから焦った! うう、実際にそうならないように頑張らないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ